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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第57話 強化魔法

「じゃ、始めようか」


 日が少し高くなったころ。広場に着いて、カルディアの指導が始まった。今日はコラブルも俺の横に並んでいる。


「また障壁の練習からするのか?」

「いやいや、今日はもっと大事なことをするよ。フレアと太っちょ君は休んでていいよ」

「木陰で寝るっす…」


 フレアとコラブルは大人しく休むようだ。二人とも広場の端の木陰へ向かった。


「俺だけ?」

「そう、まずは君だけ。気になる事があったんだよね」


 心当たりはある。自分でも気になっていた。


「『ハイエンチャント』のことか」

「そう! よく分かってるじゃないか」


 カルディアは声のトーンを上げて話し始めた。


「君がはっきり起きている時に使ったそれと、イラついている時のそれはまるで違った。どうしてかな」

「……イメージが違うんじゃないか?」

「うん、それはそうなんだけどね、もっと着目すべき点がある」

「うーん…よく分からないんだけど」

「魔法陣だよ」


 魔法陣。そういえばあったな。特別意識してないんだが、どうして形成されたのだろう。考えたこともないのに。


「実は『ハイエンチャント』の時もね、うっすらとできてたんだよ」

「いやいや、考えたことないんだぞ?」

「でもあったのは確かだからね」

「ますます分からなくなってきた……」

「多分、君のそれは固有魔法なんだ」

「固有魔法?」


 聞いた事がある、ガイウスから魔法の説明を受けたときに一緒に説明された気がする。


「特定の生き物だけが使える魔法だったっけ」

「そう。人で代表的なのは魔眼だね」

「俺のあれがその固有魔法?」

「うん。実はめっちゃ観察してたからね、僕がじっくり説明してあげよう」

「よろしくお願いします」


 カルディアは身振り手振りを交えながら解説する。


「君のそれに名前をつけるなら、『強化魔法』だね」

「『強化魔法』?」

「うん。名前の通り、いろんなものを強化する魔法」

「既に身体強化があるじゃないか。何が違うんだ」

「君のは魔法や自分以外のものも強化できるんだよ」

「うーん………?」


 ややこしくなってきた。


「身体魔法は自身の身体能力を向上させる魔法だけど、君の強化魔法は殴打そのもの、殴った衝撃を増幅させた。全然違うだろ?」

「……確かに」

「それだけじゃない。君の声や息まで大きくして、森壊してるじゃないか」


 声や息…一昨日の戦いの、目覚めて一番に行った咆哮のことを言っているのか。


「あれってそういうことだったのか…」

「そっちは推測だけどね。大体掴めてきたかい?」

「なんとなくは」

「じゃあ実戦に移ろう」


 はい?


「いや、そんないきなり言われてもできないって」

「何言ってんの。魔法なんて感覚掴んだもん勝ちなんだから、やってみるしかないでしょ」

「それはそうだけど…」

「あ、全力は出さないでね。程よく試してみるぐらいでいいから」

「…分かった、やってみる」


 俺は後ろを向き、ハイエンチャントとは違って体ではなく殴打を強化する魔法を想像した。すると正面の空中に手のひらサイズの青い魔法陣が現れ、俺はそれを試しに軽く殴ってみた。


「ぅお」


 魔法陣から強風が吹いた。軽く殴っただけだが、人を押し倒せるほどの威力は生まれたと思う。太鼓を拳で殴るような、馴染みのある感覚だった。


「………」

「………」

「……完璧だね」

「だよな。自分でもびっくりした」


 威力は小さいものの、非常にうまく使えた。まるで熟練者かのようにスムーズに行えたし、心なしか想像するのも簡単だった気がする。


「なんでだろう…」

「うーん、いくつか原因は考えられるけど、精霊だからとしか言えないかなあ」

「いくつかって、例えば?」

「覚えてないだけで使った事があるか、単純に才能か、他のより決まった型が用意されてる魔法なのか」


 前二つはさすがにないとして、最後のがよく分からなかった。


「決まった型ってなんだ?」

「知らないか。固有魔法にはね、普通の魔法と違って型があるんだよ。魔眼で考えれば分かりやすいかもね。業火だったら『何かを燃やす』。透視だったら『何かを見透かす』。これが型」

「ふむふむ」

「今言ったのはかなり曖昧でしょ? だから何を燃やすかとか何を見透かすかとかは、継承者によって変わってくるんだよ」

「なるほど」


 初耳だ。魔眼と言っても使い方は様々らしい。


「ちなみに今言ったのはあくまで一例だよ。魔眼は強いんだから、燃やすとか見透かす意外にも使い方はいっぱいある」

「覚えておくよ。型が決まってるっていうのは、その自由が効かないってことか」

「そういうこと。使い方が少ないから想像しやすかったっていう可能性もある。あくまで可能性だけどね」


 結局原因特定には至らないか。うまく使えるならそれに越したことはないし、それで困るわけではないが、単純に知りたかった。


「さて、話が逸れた。特訓を続けよう。君、大きな魔法陣は作れるのかな?」

「大きな……やってみる」


 俺は自分の体より少し大きいぐらいの魔法陣を想像した。するとさっきと同じように、俺の正面にイメージ通りのサイズの青い魔法陣が形成された。


「作るのは余裕か。じゃあ殴ってみて」

「ああ」


 俺は魔法陣を軽く殴った。すると小さい時よりも遥かに大きな衝撃波が生まれ、それは一直線状ではなく、空気中に広がって伝わっていった。


「あれ?」

「うまくいってないね。力が散漫してるじゃないか」

「小さいのと同じ要領じゃダメなのかな…」

「要練習! じゃ、頑張って」

「ずっとこれやるのか?」

「うん。うまくできるまで、欲を言うとその感覚を掴めるまで。一、二時間ぐらい経ったら呼びに来るから、それまで頑張ってね」

「結構キツそうだな…」


 それからはひたすら同じことの繰り返しだった。森を壊してはいけないので、弱い力で行わなければいけない。別にいいんだけど、なんだかもどかしくなった。一回だけでいいから思いっきりやってみたい。











「…………あ」


 フレアが何かを思い出したような声を上げた。横で座っているコラブルがそれに反応する。


「どうしたんすか?」

「そういえば、アッカドからアラタへ伝言を頼まれていたんだった」

「どういう内容っすか」

「魔法の使い方についてだ」


 コラブルは遠くで青い魔法陣を殴り続けている狼に目を移す。


「絶賛直し中っすね」

「そうだな……伝言もこなせないとは、恥ずかしいな」

「『も』? 他になんかやらかしたっすか?」

「隠れん坊の手伝いも上手くできなければ、戦いにおいても役に立てていない」

「そんなことないっすよ」

「……自分ではそう思えないんだ」

「面倒くさいっすね」

「う………」

「なんの話をしてるのかな? 僕も混ぜてよ」


 休みに来たカルディアが話の輪に入ってきた。


「大したことじゃないっす。フレアが面倒くさいって話っすよ」

「……まあ、そうだな」

「おお、君も気付いたか。気をつけなよ、フレアはかなり面倒くさいからね」

「うっす」

「じゃあ僕はあっちで休んでるから」


 カルディアはすぐに輪から出てしまった。話の内容に興味があったわけではないようだ。

 それ以降は、皆黙ってアラタの練習を見学していた。途中からコラブルとカルディアが遊び始めたことは言うまでもないだろう。時々アラタが魔法陣を空に向けてそれを全力で殴り、カルディアに注意されていた。フレアは笑うことなく、黙ってその全てを赤い瞳で見続けていた。
















 始めてから二時間が経過。

 本当に二時間やり続けた。疲れは感じない。だが遠くで遊んでいるコラブルとカルディアを見ると、心が苦しくなった。コラブルの特訓もするつもりなら、同時進行にすればいいのに。


「お疲れー」


 カルディアはちゃんと呼びにきた。来なかったら切れてた。


「本当に、精神的に疲れた…」

「じゃあ次は、フレアー」


 カルディアはフレアを呼んだ。やっと休める…。

 俺がその場を離れ、広場の端へ行こうとすると、


「ちょいちょい、君もやるんだよ」

「はぁ…?」


 止められた。なんということだ。休む暇も与えてくれないのか。


「今度はなんだよ…」

「フレアの手伝い」

「手伝い…フレアの?」


 業火の魔眼の練習か。手伝うの怖いな。


「呼んだか」


 フレアが俺の横へ来た。白いマントを羽織ったままだ。


「呼んだよ。練習しよう」

「……どうやって?」


 不安そうだな……ずっとこのテンションでいられるとそろそろ困る。なんとか励ませないものか。


「さて、あとは君に任せる」

「俺? ……丸投げ!?」

「うん。僕に人の心とかよく分からないから、君に任せる」

「わ、分かった……?」


 人の心がよく分からない。そのままの意味だろうか。カルディアの根底にある何かが垣間見えた気がする。今はそれを詮索する暇などないが。

 カルディアはまたコラブルのもとへ歩いていった。遊ぶのかな。畜生。


「………アラタ」


 フレアが俺の方を見ずに俯いたまま、沈んだ声で話しかけてきた。


「どうした」

「色々とすまない。役に立つと言ったのに」

「急に何言ってるんだ? 昨日とか頑張ってくれたじゃないか」

「本当はもっとできるはずなんだ。森に傷をつける必要もなかった」

「あんまり過ぎたこと気にするなよ。俺だって壊してるし」

「そういう話では……」


 真面目だな。この際はっきり言おう。


「面倒くさい!!」

「!?」


 俺が叫ぶと、フレアはビクッとしながら顔を上げた。不意に俺と目が合った。俺は目を合わせたまま話す。


「主観でものを語るからそうなるんだよ。こっちは助かってるって言ってるのに、それ否定するのはおかしいだろ」

「そ、それはそうかもしれないが」

「そうなんだよ」

「……分かった、改善する」


 本当かなあ。こういうタイプは直すのに時間がかかる。もしまた同じ事が起きたら注意しまくるか。


「じゃあやろう、練習」

「ま、待って」


 フレアが弱々しい声で言った。


「どうした?」

「………怖いんだ」

「何が」

「その、………」


 言ってくれないと分からないんだが、あまり時間をかけたくない。


「何が怖いか知らないけど、何かあっても俺がなんとかするよ」

「いや、それは」

「大丈夫大丈夫。俺も弱くないんだ。体も頑丈だし。首切り落とされても死なないんだぞ?」

「そんな嘘は信じない」

「これが本当なんだよ」

「………本当に?」

「なんなら試してみるか?」

「いやいい。やめておく」


 食い気味で断られた。いい加減分かってもらえただろう。


「さ、やろう」

「…………っ」

「そんな不安そうな顔するなよ。フレアの魔眼の炎にも耐えたことあるんだから」

「………そう、だったな」


 フレアはゆっくりと剣を抜いた。手は少し震え、表情も明るくはなかったが、一歩を踏み出せたようだ。


「うまくできる自信はない」

「いいよ。俺はそもそもできてないからさ」

「………よろしく頼む」

「おう!」


 やっと進められそうだ。ついでに障壁の練習もしよう。もっと格好良く使えるようにならないとな。

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