表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
66/137

第56話 リヴァイアの街の朝

「……ぅん」


 目が覚める。いつもと違う空気に若干戸惑いながら体を起こす。立ち上がってカーテンをほんの少しだけ開き、外を見る。


(眩しいな)


 朝だ。山々の間から朝日が顔を出しているのが見えた。早起きできたらしいが、早すぎたな。暇を持て余してしまいそうだ。

 もう一度眠ろうかとも思ったが、それでは昼頃まで寝てしまうかもしれないし、コラブルたちに迷惑をかけたくないのでやめておいた。

 ベッドを見ると、コラブルがいびきをかきながら寝ていた。寝る時はそこまで煩くなかったんだが、どうしてこうなるのか。アッカドの姿はない。もう出たのか?

 ゆっくりと階段を降りて一階の様子を確認する。するとそこには、支度をしているガイウス、アッカド、ユーリィの三人がいた。


「おはようございます」

「あら、おはよう。今日は早いのね」

「目が覚めちゃいまして…もう出るんですか?」

「ああ。休んでいる暇はない」

「無理はしないでくださいね、ガイウス」


 大変そうだ。手伝えればいいんだが、そういう訳にもいかない。もどかしい。


「クレイは?」

「今日は休むってよ。腰が痛えんだとかで」

「なるほど…」

「あ、そうだ。アラタ君、荷物入れておいてくれない? いつ帰れるか分からないから」

「はい、やっておきます」

「それじゃあ行ってくるわね」

「いってらっしゃい」


 三人はもう出発してしまった。朝ご飯は作っておいてくれたみたいだ。…しまった、昼飯お願いするのを忘れていた。…自分で作ってみるか。でもその前に。

 俺は一階の電気を付け、玄関の扉を外の様子を窺いながら開けた。


「……美味いな」


 一番に感じたのは、空気の美味しさだった。

 当然だが、ゴッデスとは景観がまるで違っていた。道は整備されておらず、地面は土のまま、そこら中に雑草が生えていた。建物も全て石製で、点在していてまとまりがなく、一つ一つが小さかった。こうして見ると俺たちが借りたこの家が一番大きい。ガイウスたちの頑張りが感じられて嬉しくなってきた。

 人通りはなく、活気は感じられない。だが悪い印象は受けなかった。鋭い朝の光が街に注ぎ込み、石の壁や雑草の葉を照らしていた。田舎って感じで素敵だ。個人的にはゴッデスより好きかもしれない。

 遠くには険しい山脈があり、その手前には畑が広がっていた。

 深く息をすると、程よく冷えた空気が鼻の奥を通り抜けた。俺はそれを何度も繰り返した。


「あら、貴方、ガイウスさんのお連れ?」

「へ!?」


 俺は急いで扉を閉めた。

 ここの住人だ。もう起きてる人がいるのか…いや、当然だ。ガイウスたちはもう出たんだし。見られた? でも驚いてはなかったから、誰かいるのが分かっただけか。…そうだよな?

 俺は玄関の扉に耳を当て、耳をすました。


「あのー、どうかされました?」


 扉の前にいる。姿を見られた訳ではないようだ。よかった。いい感じに取り繕っておこう。


「いえ、すいません。髪とか整えてないので」

「あら、ふふ、この街で容姿を気にする人はいませんよ。ゴッデスの方は大変ですね」

「ええ、本当に」


 気さくな女性だ。話しやすい。

 リヴァイアってゴッデスと同盟関係だったんだよな。だからゴッデスの人間にも親しげなのか。でも確かアトラスが攻めて、奪ったんじゃないっけ。それにしては平和だな。


「以前お世話になったので、こちら、我が家特製のサンドウィッチです。朝ご飯に召し上がってください」

「あ、ありがとうございます。扉の前に置いておいてください。今は恥ずかしいので」

「はい。美味しいですよ。独り占めしないでくださいね」

「はい、きっと」


 俺は女性が去っていくのを音で確認してから、ゆっくりと玄関の扉を開き、サンドウィッチが入ったカゴだけを迅速に回収し、すぐに扉を閉めた。カゴの中身を確認すると、そこには女性が言った通り、美味しそうなサンドウィッチが入れられていた。挟まれているのは野菜に果物のようだ。果物……大好きなのにあまり食べれてなかったんだ。斬新だが食欲をそそる。


「あれ、もう起きてたんだ。今日は随分と早起きだね」


 階段から声がした。俺は顔を上げ階段に目を移す。


「カルディアこそ早いな」

「今日は早めに行こうと思っててね。うん、君がもう起きてるのは都合がいい」


 そう言うとカルディアは灰色のローブを着て、洗面台に向かい顔を洗いはじめた。俺はカゴをテーブルの上に置き、椅子に腰掛け中身を取り出す。


「朝ご飯分けてもらったんだ。食べよう」

「ほう、いいねえ。ゴッデスよりは間違いなく美味しいだろうからね」


 俺たちだけ食べたら怒られそうだし、コラブルたちも起こしてくるか。

 俺は取り出したサンドウィッチをカゴの中に戻し、再び二階の俺たちが使った寝室へ向かった。中に入ると、気持ちよさそうに足を大きく広げて眠っているコラブルがいた。


「コラブルー。起きろー」

「ぅうーん…もう食べれないっす…」

「何言ってんだ、これから食べるんだよ」


 俺はコラブルの頬をペチペチ叩いた。だがなかなか起きない。こうなったら…。


「起きろー!」


 俺はコラブルの耳元で叫んだ。


「ぅわあああななななんすか!?」

「朝ご飯。一階降りてこい」

「うう……もっと寝てたかったっす…」

「まあそう言うなって」


 俺はコラブルの体を起こし、後はコラブル自身に任せて、次に俺たちの寝室の向かいにある扉をノックした。


「フレアー、起きてるかー」

「……ああ、起きてるぞー」


 なんだ、起きてたのか。


「街の人が朝ご飯分けてくれたんだ。一緒に食べよう」

「分かった、今行く」


 二人を呼んだ後俺は一足先に一階へ戻り、カルディアに混ざって朝食をとり始めた。少しした後にコラブルとフレアが二階から降りてきて、四人で朝食を取った。


「他の皆さんはもう出たんすか…?」

「ああ、早いよな」

「やっぱり美味しいね、これ」

「っすね…絶品っす」


 ゴッデスで食べたものよりも新鮮でみずみずしい。良いものを分けてもらった。いつかお礼したいな。…でも、そもそもこれがお礼なんだっけ。無限ループに陥りそうだ。

 朝食を取り終わった後。


「そうだ、ユーリィたちに荷物入れといてって頼まれたんだ。手伝ってくれ」

「うっす…」

「分かった」

「僕も?」

「カルディアも」

「分かったよ」


 四人で協力して、馬車にある食料や衣服を家の中へ運んだ。量はあまりなかったのですぐに終わったが、ここには冷蔵庫がないらしい。そっちの方が自然ではあるし、最近は冷えるから必要ないのかもしれない。

 クレイがブラックの馬車で寝ていたが、いつも疲れている様子だったので、起こさないように気をつけた。ブラックが好きなのだろうか。ちなみにブラックとシルフィーは起きていた。軽く朝の挨拶を交わして、それ以上の会話はなかった。


「やることは終わったのかな?」

「ああ、終わったけど」

「じゃあ行くよ」


 カルディアが他三人に呼びかけた。


「もう?」

「昨日やってみて、時間は多くあった方がいいって分かったからね。その分キツくなるだろうけど、仕方ないよね」


 まじか。ならアッカドが作り置きしてくれたのを昼飯として持っていくか。あれも美味しそうだった。


「でもこれ、よく考えたら結局留守番必要だよね」

「まあ確かに。でも今日はクレイがやってくれると思う」

「それは助かる。エルリアちゃんにも早めに中に入ってもらおうか。君、二人を運んでくれない?」

「分かった」


 俺は外の馬車の中で寝ているクレイとシルフィーに寄り掛かって寝ているエルリアを同時に担いで、家の中の寝室へ運んだ。


「行くよー」

「眠いっす…」

「あんまあくびすんなよ。こっちも眠くなってくるから」

「頑張るっす…」


 俺たちは家を出て、もはや演習場として定着しつつある広場へ向かって歩き出した。道中人に見られないように白いマントを羽織っていった。またこのマントのお世話になるとは、なんだか感慨深い。


「………っ」


 ふと横を見ると、フレアがマントの端をギュッと握りしめていた。


「フレア、どうかしたのか?」

「…これには思い入れがある。それだけだ」

「そっか」


 落ち込んでしまった訳ではないようだ。いつも不安定だから安心した。


「昼ご飯持ってきたっすか?」

「持ってきたよ。ほら、これ。いただいたカゴを再利用してみた」

「それって貰い物なんすかね」

「……返さなきゃな」


 森に入り、いつものように雑談を交わしながら、ゴッデスとは全く違う新鮮な空気に浸りながら足を動かした。一昨日から吸っている空気だが、一度街へ入ると全く別のもののように思えた。

 こんないい日が毎日続いてくれればいいのに、と心の底から思った。死体に襲われるとかもうごめんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ