第54話 叱り、川、如何わしい
「何をしていた」
「「「……………」」」
時は日が沈み、満ちかけた月が顔を出した頃。ただ今俺たち四人は正座をさせられています。さっむい。
馬車に着くと、ガイウスたちがいた。あと闇魔法が剥がれていた。領域から出てしまったから、時間が経てば消えるのは当然だ。それをすっかり忘れていて、短時間だがエルリアたちを無防備な状態にしてしまったらしい。それがバレた。やばいまずい怖い。
「次同じことをしたら埋める」
「「「埋める!!?」」」
「大地のいい肥料になるだろうな」
「あ、そういう意味で言うとアラタが一番養分豊富かもっすね」
「え?」
「植物の種類によっては魔力も養分になるっすから」
「洒落にならねえ……」
「何冷静に解説しちゃってんの。君も対象だよ?」
「デブって養分豊富なんすかね」
「知るか!」
無駄話が捗る捗る。あれか、コラブルが積極的に会話してたのってただ話すのが好きだったってだけか。こういう場面になると欠点だな。
「……反省してるのか」
「「「してます!!!」」」
「……………」
フレアはあれからずっと黙っていた。思ったよりも重傷だな。なんとかしたいんだが、追求していいものか…。
「でもさあ、本当にずっとここにいるの? 護衛役一人残すのって結構面倒臭いし、君たちも毎日街まで行くの大変でしょ」
「それだが、街中の空き家を貸してもらえることになった」
「というと?」
「中心部に行かなかったせいで、依頼人が偏った。顔見知りになってしまったんだ。それでこちらの出自や目的などを聞かれて適当に話したら、『これまでのお礼に家を貸しましょう』と言われた」
「なんで中心に行かなかったんすか?」
「わざわざ目立つ必要はないだろう。端で済むなら端で済ます」
「それもそうっすね」
「でも大丈夫なんですか? 俺やカルディア達が見られるとまずいんじゃ……」
「見られないようにしろ」
「あ、そういう感じですか」
どこか適当なんだよなあ。
「いつ移動しますか」
「今夜だ。もっと遅くの、人々が寝ているうちに行く」
「了解です」
既に夜だが、まだ結構時間があるな。
「ガイウス、一個話しておきたいことが」
「なんだ」
俺は立ち上がって話す。
「実はさっき、カカトカバネの死体に襲われたんです」
「……そうか」
軽く受け流された。
「驚かないんですね……?」
「こっちにも来た」
「……なるほど。撃退できたんですか?」
「できたとは言えない。勝手に撤退していった」
こうなると、カカトカバネたちは誰かに操られているのではないかと思ってしまう。そう考えれば辻褄が合う。証拠も何もない状態で断定するのは危険か。
「今のところ打つ手はない。対策は練れない。気を付けろとだけ言っておく」
「分かりました」
昨日襲ってきたやつに付いてたのは確かに氷だった。その違いには何か訳があるのだろうか。
とりあえず、今やるべきことは終わった。何をしようか……体を洗うか。血がついてエルリアには見せられない状態になっている。
「カルディア、近くに川ないか?」
「ん? んー……あるね、あっち」
カルディアは俺の真後ろを指差した。
「どれくらい歩けば着くんだ?」
「五、六分かな」
「分かった、ありがとう」
「へ? ああ………どういたしまして」
「………?」
最後様子がおかしかったが、気にしないことにした。してもしょうがないだろう。
「じゃあ俺川で体洗ってきますね」
「表面の魔力剥がせばいいんじゃないすか?」
「やり方分かんねえわ」
「変なところ不便すねえ」
「お前は利便性求めすぎ」
少しコラブルに絡まれた後、俺は川へ向かった。そういえばアッカドとユーリィの姿が見えないが、どこにいるんだろう。ちなみにクレイは馬車で寝ています。やはり他の面々と比べると体力が劣ってしまう。しょうがないね。
「フレア」
「……? なんだ、ガイウス」
「服を調達してきた。着ろ」
そう言うとガイウスは白い衣服に銀に輝く胸当てと腕当てを手渡した。フレアは黙って受け取り、少しそれを見つめる。
「足りなかったか」
「……いや、十分だ」
以前と比べれば軽装だが、十分戦えるほどの装備だった。フレアは立ち上がって、着替えるために木の裏に向かった。
「進捗はどうだい?」
カルディアは既に正座をやめ、あぐらをかいている。まるで作業のようにガイウスに話しかけた。
「まあまあだ」
「終わるのはいつ頃になるのかな」
「あと十日ほどかかるだろう」
「結構かかるねえ」
カルディアは興味がある訳ではないように見えた。必要だからそうしている。そう思わせる素振りだった。
「コラブルー、暇潰そうよ」
「国合わせやるっす」
「二度とやらないって言ったろ!」
ガイウスは立ち上がって歩いていくカルディアの後ろ姿を眺めていた。
「…………」
そして何かに想いを馳せた後、シルフィーのもとへ行き、羽毛の塊に寄り掛かって寝ているエルリアの横に座って、頭を撫でた。
「おぉーーー」
俺は一人で感心していた。
川は大きく、とても綺麗だった。水面を覗き込むと顔が綺麗に写り、優しい風によって生まれるさざ波に揺らされていた。水中に生き物は見られない。魚とかいると思ったんだが、いない。そういえばこっちに来てから新鮮な魚を食べていないな。大体干されていた。やばい食べたくなってきた。
俺はよだれを飲み込みながら服を脱ぎ始めた。脱ぐといっても上着とズボンだけだ、すぐ終わった。
全裸になった後、ゆっくりと川に入る。やはりとても冷たかったが、むしろ気持ちよかった。全裸だが恥じらいもなく、開放的な気分だ。
「ふいぃぃぃ……」
変な声を漏らしながら腕や顔を擦る。冷水を浴びるのがここまで心地いいことだとは。クセになりそうだ。
「………がまんして……」
「……むちゃ………」
どこからか声がした。
「……………もう…」
「……優しく……」
また何かいる。まあ人だろうが、如何わしい匂いがする。一気に冷めた。どうしてくれるんだ。こうなったらカチコミに行くか。
俺は一度川から上がり、ほのかに聴こえてくる声に耳をすます。向こう岸の森の中から声がすると分かった後、もう一度川に入って強めに水を押し出しながら歩いた。
向こう岸にたどり着いた後、川から上がって体を乾かすこともせずに声の源へ向かう。もうすぐそこだ。
「誰だあぁ!」
俺は木の裏でゴソゴソしている二人組に向かって叫んだ。するとそこには、
「へぁっ!?」
「あっ」
「えっ? ………何してるんですか!?」
パンツ一丁で地面に座っているアッカドに、上半身はほぼ下着姿のユーリィがいた。




