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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第53話 骸焼く炎

「ア“ア”ア“ァァァァ!」


 カカトカバネは再び咆哮を上げ、一斉に襲いかかってきた。フレアは剣を構え、炎は曖昧な輪郭で剣を形作った。


「しゃがめアラタ」

「えーーー」


 そう言うとフレアは思い切り体を回転させ、剣状の炎で周囲のカカトカバネを燃やし尽くした。高熱を感じてから即座に身を全力で屈めたため、頬についた血が固まり、毛も一部焦げてしまった。俺は炎で吹き飛ばされたカカトカバネを目で追った。


 まる焦げだ。水晶がなくなり、およそ半数の体はボロボロに崩れてしまっている。


 これが業火の魔眼。一度見たことはあるが、改めて見ると火力が馬鹿げている。水晶を消し去るってどういうことだ。


「あと半分…すまない、やはり支援は不要だ。アラタは離れていてくれ」


 俺はフレアの言うことに大人しく従った。巻き添え食らったら多分死ぬ。何よりフレアの邪魔をしてはいけない。ここは不測の事態に備えて後ろで構えておこう。


 俺はゆっくりと後退した。背後にはカカトカバネの燃えかすしかなかった。残りは全てフレアの視線の先にいるが…気のせいだろうか、全個体がフレアをロックオンしているように見える。


「ア“ア”!」


 一匹のカカトカバネが短く叫んだあと、全体が一斉に走り出した。さっきと比べて統率が取れている。押し退けあっていないし、三手に分かれ再び包囲網を形成しようとしている。


 状況が変化している。嫌な予感がするな…しっかり見ておこう。


 カカトカバネは三方向から一斉にフレアに飛びかかった。フレアは屈んで二体の攻撃を避け、その動作と同時に一体を脳天から切り裂いた。血は飛び散る前に高熱で固まり、切り裂かれた体はのたうち回り、やがて大人しくなった。またもや水晶は炎に燃やされなくなった。


 俺がその一連の流れを眺めているうちに、フレアの状況は激化していた。

 大量のカカトカバネたちがフレアに襲いかかる。フレアはその全てを躱すか反撃するかでさばき、次第に地面に転がる焼死体の量が増え、焦げ臭い臭いが辺りに充満していった。燃えた全ての水晶は消えて無くなり、水晶を失ったカカトカバネの動きはピタリと止まった。


 俺は見惚れていた。フレアの動きはあまりに整っていて無駄がなく、美しかった。傷を負うことはなく体や服を汚すこともなく、確実に敵を減らしていった。


 だが、それと同時にカカトカバネたちの統率力も高まっている。まばらで短調だった攻撃にリズムが生まれ始め、フレアの動作も激しくなっていった。とうとう服を血で汚し、フレアの表情はますます怒りに染まっているように見える。


「……!? フレア、来るぞ!」


 森の奥からさらに多くの足音がした。音だけでなく、地面も揺れている。アッカドたちもカカトカバネを討伐していると言っていた。まさか……。


「グア“ア”ァァァァァァァァ!!!」

「多っ!!?」


 俺たちが倒した数十倍の数のカカトカバネたちが走ってきていた。木を避けることはせず、ただただ直進してきている。大半は頭が既になかった。アッカドがやったのだろう。先頭にいる多くは木に激突し、木を砕きながら自分も砕けていった。


 わざとだ。わざと木にぶつかっている。そうして道を作っているんだ。後ろには数え切れないほどの同胞がいる。全個体が一つの意識を共有しているかのように連携が取れていた。


「ア“ア”!」


 先頭にいたほとんどが玉砕した後、先導の役割を受け継いだ一匹が短く叫んだ。それと同時に思い切り跳躍し、木々を超える高さまで跳んだかと思うと、後ろについてきている大量のカカトカバネたちも一斉に跳び、巨大な波を作り出した。跳ぶ時の衝撃で地面が揺れ、地響きが辺りに響き渡る。

 言葉が出ない。野生の生き物にこんなことできるはずがない。流石にまずい……!!


「逃げろフレア!!」


 俺は必死に叫ぶ。だがフレアは深く呼吸をして、俺の声を無視しているようだった。剣を後頭部で構え、顔に力がこもっている。


「『フェイト・ストライク』……!」


 呪文を唱えた瞬間、フレアの剣の炎が森を大きく突き出し、カカトカバネの波よりも大きくなった。高熱が離れたここまで伝わってくる。フレアの表情も苦しそうだが、真っ赤に燃える瞳でカカトカバネの波をはっきりと捉えていた。


 俺はまた言葉を失った。突然の戦いが大きくなりすぎだ。昨日の敵襲にも劣らない。


 カカトカバネの波の先頭が降下し始めたタイミングで、フレアは巨大な炎の剣を波の上から思い切り地面に叩きつけた。

 轟音が鳴り響く。巨大な炎はカカトカバネの波を丸々焼き尽くした。ついでに多くの木々も巻き添えになり、森には新たに大きな火傷ができてしまった。


「……すげえ」


 信じられない。あの数を一瞬で一掃してしまうなんて。業火の魔眼の本領を見た。これが最上位の魔法か。


「ハァ、ハァ、ハァ」

「フレア」


 俺は膝から崩れ落ちたフレアのもとへ駆け寄った。周囲にカカトカバネは既にいなかった。波のはるか後方には炎から逃れたカカトカバネがいたはずだが、襲ってくることはせずに立ち去ったようだ。


「悪い、こんな大変なことになるなんて。怪我はないか?」


 そう言いながら肩に手をかけようとした瞬間、


「!?」


 フレアはそれを慌てて避けた。なんだ、もしや怪我を負ったのか?


「どっか痛いのか?」

「あ、いや……大丈夫だ。怪我は負っていない。カカトカバネは?」

「もういないよ」

「そうか。だが…………やりすぎたな」


 そう言ってフレアは木々が焼けた跡を見つめた。焼け跡は直線状に広がり、その中で生きていた植物はみな灰になってしまった。他の木々に飛び火することはなかったが、辺りは暑く、煙たく、焦げ臭い。魔物の肉が焼けた悪臭も遠くから漂ってきた。これは流石に街の人にバレるだろう。


 フレア、やけに声のトーンが低いな。無理をさせてしまったらしい。


「一度戻ろう。さ、フレア」

「あ、ああ」

「……フレア?」


 フレアは立ち上がろうとするが、脚が命令を聞かないらしい。小刻みに震え、それ以上動こうとしない。短い戦闘だったが、かなり堪えたようだ。


「……ほい、フレア」


 俺はフレアの前で屈んで背中を差し出した。


「……なんだ、それは」

「おんぶだよ。立てないんだろ」

「そんな必要はーーー」


 フレアは再び立ち上がろうとするが、その様子はさっきと変わらない。こうなったら…。


「な、お、おい」


 俺は動かないフレアを無理やり背負った。抵抗してきたが、どうということはなかった。脚だけでなく全身に力が入らないらしい。


「よいしょ」


 ゆっくりと立ち上がる。軽いな。俺が力持ちなだけか。

 次に闇魔法が張られた木の裏へ向かい、コラブルたちに戦闘が終わったことを伝える。


「コラブルー、終わったぞ」


 すると闇魔法はスッと消え、中から手遊びをしているコラブルとカルディアが出てきた。


「……何してんだ?」

「『国合わせ』っすよ。互いにそれぞれの指に好きな国を割り当てて、同じ国が割り当てられた指先を合わせるんす。七つ全部合わせられたらすごいっすね」

「もう三回ほど()った。二度とやるものか!」

「えー。アラタも今度やるっす。楽しいっすよ」

「おう、今度な」


 俺は誘いを軽くいなし、二人を立ち上がらせた。


「カカトカバネ持ち帰れないかな」

「うーん、あれだけ焼けてるんじゃねえ、持って帰ったところでたかが知れてるよ」

「そうか……」


 水晶も全て消えてしまった。できることは何もないか。今日は一度馬車に戻ろう。

 俺たちは馬車に向かって歩き出した。


「いいなーフレア。僕も背負ってくれない?」

「…………」

「流石に無理だって。場所がない」

「オイラの背中、空いてるっすよ」

「臭そう」

「くさ……っ!!?」

「ひっでぇ」

「というかオイラ達森壊しすぎじゃないっすか?」

「言うな。気にしてんだから」


 雰囲気は襲われる前のものに戻った。

 フレアだけは、表情が暗いままだった。

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