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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第51話 隠れん坊

「気配を察する特訓……それでコラブル?」

「そうだよ。闇魔法が使えるって思ってね」

「フレアどうしたんすか」

「だいじょぶだいじょぶ。古傷が傷んでるだけだから」

「……ああ、大丈夫だ。気にしないでくれ」


 フレアはゆっくりと立ち上がり、剣で体を支えた。立ち上がるまでは早かったけど、まだダメそうだ。顔が暗すぎる。


「具体的にはどうやるんだ?」

「こうやるんだよ。コラブル!」

「はいっす。『エージェント』」


 コラブルが呪文を唱えた途端、足元から黒い魔力が溢れ出し、それはコラブルの顔以外を綺麗に包み込んだ。それはまるで全身タイツで、見た瞬間フレアは顔を背け、俺は、


「ぶふっ!」


 吹き出してしまった。


「笑ったっすね。死すべしっす」

「待て、やめろ、その顔と格好で喋るな笑っちゃうっふふ」

「ヘラヘラすんなっす!」


 無茶を言う。特殊な表情をした坊主太っちょの人間が、真っ黒の全身タイツを着ているようなものだ。ましてやそれが知人となれば、面白くなってしまうのは仕方がない。


「フレアも笑ってるの分かってるんすよ。こっち向くっす」

「嫌だ。こんな気分の時にコラブルに笑わされたくない」

「ならなおさら向くっす。腹筋壊してやるっすよ」

「ぶっははははっはははっゲホっゲホっゴホゴホっン“ン」

「アラタ勝手にむせんなっす」


 異常な風貌から放たれる暴言の数々に笑いが止まらない。フレアもたまにチラッと見て肩を小刻みに震わせながら笑っていた。やるなコラブル。遠回しに励ましてるのか。


「はぁ、はぁ、はぁ……お前なんでそんな顔してんの?」


 笑いが収まった後、諸笑の根元について聞いてみた。その顔は本当に反則。明日見せられても笑う気がする。


「言ってなかったっすね」

「何が?」

「全身が痛いっす。地面で寝たからっすかね」

「………」


 それでその顔……痛みに耐えてたのか。もうちょっと眉の角度ゆるくできないのかな。あと口角も下げて欲しい。闇魔法もビジュアルなんとかならないかな。

 とにかく、適当に励ましておこう。


「ドンマイっ!」

「『全力疾走デブ』」

「なんで!? ぅおう来んな来んな!」


 突然コラブルが猛スピードで突進してきた。それを避けた後、少し睨み合う。


「ぶふっ!!」

「コロォッス!!」


 俺が吹き出したのを合図に鬼ごっこが始まった。八つ当たりにも程がある。しかもこれまでの幾度の鬼ごっこを通してコラブルも速くなってるんだよ。


「『エンチャント:シングル』!」

「卑怯っす!」

「お前が言うな! 全身痛いんじゃねえのか!」

「我慢すれば動けるっす! アラタを捕まえるためならこんくらい、どうってことないっすよー!」


 さすが執念深い男、簡単に言えばしつこい男コラブル。諦めを知らないか。知りやがれ。いや、教えてやろう。


「ほーい、こっちだぞぉ」


 俺は必死に走るコラブルを闘牛の如きステップで避ける。


「舐めプ…!? それがか弱い人間にすることっすか!」

「か弱くねえじゃん。っつか舐めプって概念あるんだ」

「隙ありぃ!」

「馬鹿め!!」


 俺は懐に飛び込んできたコラブルの頭を地面に押さえつけ、背中に乗って片腕を拘束した。


「痛いっすー!」

「我慢できんだろぉ? ほらほらぁ」

「ちょっとずつ内側に持ってくなっす! 助けてっすーーー!!」


 コラブルの悲痛な叫びが広場に響き渡った。このまま分らせてやろう。





「あいつら仲良いねえ」

「そうだな」

「君、使えそう?」

「……難しいだろう。彼らの役に立つと言ったのに、こんな姿を晒してしまうとは」

「まあそんな日もあるよね。私も完璧に使える訳じゃないし、地道に行こう」

「……優しいんだな」

「まさか。必要だからやってるだけだよ。君たちー! 戻ってこーい!」

「……………」





「あ、呼ばれたっすね」

「だな、戻るか」

「っす」


 俺は拘束を解いてコラブルが立ち上がる手伝いをした後、カルディアのもとへ戻った。


「遊びに来たんじゃないよ! そこんところ、忘れないでね」

「すいませんっす」

「善処するよ」

「イマイチ信用できないな……まあいいや。特訓の内容も遊びみたいなもんだしね」

「と言うと?」

「隠れん坊をするっす」

「……なるほど。コラブルを探せばいいんだな?」

「察しがいいねえ。ルールは簡単。制限時間なし、範囲はー…まあ直径三キロくらいかな。本来はアラタ一人で探して欲しいんだけど、今日は初めてだし、フレア手伝って上げてよ」

「分かった」

「時間無制限……見つかるまで帰れない?」

「僕はそうしたいかな。まああんまり遅れるとガイウスたちに怒られるだろうから、頃合い見て呼びに行くけど」


 なかなかハードだな。今のコラブルからは気配を感じない。鬼ごっこ中も避けるのに苦労した。闇魔法で体を覆っているからだ。顔は露出しているから、そこから放たれる気配を感じ取れってことになるが、いけるか…? 初めのうちはフレアを頼るしかない。


「まずは察しにくいものを察せるようになれ。それが出来るようになったら、次の段階へ移ろう」

「分かった」

「じゃあ隠れるっすよ」

「おう」

「十秒数えるっす」

「お、おう……随分短いな」


 俺は目を瞑り、十秒数えた。そして再び目を開く。


「……本当に十秒で隠れたのか。早いな」

「行こう。私も教えるのは初めてだが」

「信用してるよ」


 俺たちはコラブルを見つけるため、歩き出した。












「……そこ、右」

「あ、うん………」


 特訓開始から二時間が経った。いまだにコラブルを見つけられていない。しかも、フレアの教え方にやや問題あり。


「……あっちから何か感じないか?」

「…………」


 感じません。感じないからやってるんだろうがっ! と言いたかったが、言えない。本人は一生懸命やってるようだし…厄介なパターンだ。

 俺はフレアが何か感じると指差した方へ向かう。しかし。


「……何もないな」

「……? 妙だな。何かいるのは間違いないんだが…」


 フレアは周りを見渡している。俺もそれを真似るが、怪しいものは何も見つけられない。気のせいかとも思ったが、フレアに限ってそれはないだろう。


「何もないけど、本当に気配感じたのーー」

「危ない!」


 突然のフレアの叫びが俺の勘を働かせた。俺は咄嗟にしゃがみ、木の裏からの攻撃を回避した。攻撃の主は四足歩行をしていて、しかも一匹ではなかった。

 既に囲まれている。カカトカバネだ。だが、昨夜見たものよりも突出している氷が大きい。個体によってはそのせいで動きにくくなっているものもいるようだった。


「さっさと片付けるぞ」

「『エンチャント:ダブル』」


 フレアは滑らかな動作で剣を抜き、襲ってきた個体に剣先を向ける。俺は即座に全身を強化してフレアと背を合わせる。


「カルディアはこれくらいで訓練を中断するような奴じゃない」

「分かった。早く倒して、再開しよう」

 

 俺たちはカカトカバネの攻撃を待たずに殲滅を開始した。

 俺はただひたすらに脳天を砕き、フレアも同様に脳天を貫き続けていた。相変わらずとんでもない動きをする。回避にバク転使うとかリアルにあるんだ。当然カカトカバネも反撃してきたが、動きが鈍い。飛びかかってきても簡単に避けれてしまう。これならすぐに終わらせられそうだ。


「ふっ!」


 どんどん頭を叩き割っていく。思ったより遥かに脆い。骨を砕いてる感触がしない。お菓子を粉々にしているみたいだ。


「……こっちは終わった」

「俺も丁度終わったよ」


 一分もかからない内に倒し切ってしまった。フレアは剣に付いた血を拭った後に剣を鞘に納め、俺は魔法を解いた。


「こいつらなんなんだ?」

「分からない。縄張りというわけでもないだろう。少し前からついてきていた」

「マジか?」

「ああ。てっきりコラブルかと思ったんだが」

「凹むな………」


 コラブルではない普通の魔物にも気付けないとは。先が思いやられる。


「そのための今だ。続けよう」

「おう」


 俺たちはコラブル探しを再開した。背後にはカカトカバネの残骸が残り、それを突き刺す氷はゆっくりと溶け始めていた。















「めっちゃ時間かかった……」

「どうっすか! これがオイラの力っす!」

「す、すまない。教え方が良くなかった」

「……うん、まあ、気にしないで」


 コラブルを見つけ出すのにどれくらい時間がかかっただろうか。既に日が暮れそうになっている。フレアは絶妙なセンスのなさを発揮し続けていたし、俺は何も感じ取れないしで沼にはまっていた。これ意味あるのかな…。


「昼飯抜いたからお腹すいたっす」

「俺は朝も食ってないからな…何か食べたい」

「随分とスパルタなんだな」

「そりゃそうさ。早く身につけて欲しいからね」


 今度からは昼飯を持ってくるか。ここまで厳しいとは思っていなかった。気を引き締めていかねば。


「ほんとはもう一個やりたいことがあったんだけど、今日はこれで終わりにしよう」

「やっとっすか……」

「なあカルディア」

「ん?」

「コラブルは指導しなくていいのか?」

「ああ、こいつは戦闘向きじゃないし、必要ないと思ってたんだけどね。明日からはやろうか。隠れん坊の終わり方がコラブルの魔力切れとか、意味ないからね」

「うっ」


 カルディアの言う通り、俺たちはコラブルを見つけたには見つけたが、それはコラブルの魔法が解けたからで、僅かな気配を察した訳ではない。そもそも最大三キロ先にあるものに気付けるものなのだろうか。


「帰るよ」

「あ、はい」


 どうやら今日は本当に終わりのようだ。俺たちは馬車に向かって歩き出した。コラブルは表情は普通に戻っているが、だいぶ疲れた様子だ。おんぶしてとか言いそうで怖い。


「アラター」

「断る」

「そういう察しはいいんすね……」


 やかましいわ。

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