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第6話 気づき

 楽しかった食事も終わり、各々席を立つ。俺も椅子から降りるのは自力でできた。

 チリチリ頭の男が皿を集め、


「じゃ、皿洗ってくるわ」


 と部屋を出ていった。


「私も、依頼があったから街に出るわ」


 と言い、女性は外出の準備を始めた。さて、俺はガイウスにいろいろ聞かなければならない。怖気づくな。情報を得なければどうしようもないぞ、俺。


「あの」

「…なんだ」


 謎の威圧感。何も聞くなと言わんばかりの声、表情。俺はそれを意識しないようにして質問する。


「その、聞きたいことがあって」

「なんだ?」

「ここは、ど、どこですか…?」


 一番簡単な質問(言いやすさ的に)を選んで、口に出す。これぐらいは流石に教えてくれるはず。


「………どこでもいいだろう。大したことではない」


 いやいや…俺にとっては大したことなんですけど!?

 この男、何も教えてくれない。理由を聞こうとも思ったが、やめといた。どうせ言わないだろう。


 俺は大人しく部屋に戻った。今思えばこの部屋も、ベッドとか敷物とかを見ると、明らかに女児用だ。なら、どうして窓がないんだろう。…どうでもいいか、今は。

 さて、これからどうしよう。

 一時は逃げ出してしまおうかとも思ったが、どうやらここの人たち、俺に危害を加えるつもりはない様子。『エルリア』は元からここにいたんだから、逃げるのはむしろ愚策だろう。

 何をして過ごせばいいんだろう。棚の本でも見てみるか。読めないだろうけど。

 俺は棚にある本の中から薄いものを選んで手に取り、ベッドに腰掛け表紙をめくる。

 どうやら絵本のようだ。字は読めないが、一人の女の子が主人公で、他に様々な動物やとんがり帽子を被った老人が出てきた。魔法使いのお話かな。

 字が読めないので、絵を見て考察しながら読んだ。考察というより妄想に近いが案外楽しめた。思いつきで始めたことだが、途中から熱が入ってしまい、結構な時間をかけてしまった。

 かなり集中していて、読み終わった頃には目蓋が半分閉じかけていた。このまま眠ってしまおう。そう思った俺は、ベッドに横になって目をつむった。














 ゆっくりと目を開ける。そこは、見覚えのある場所だった。


 色とりどりの花が咲き、太陽が優しく光っている。まるで、天国のような場所。


 エルリアの、意識世界。


 ......再会はそこそこ遠いだろうなと勝手に思ってたんだけど、早かったな。考えられる限りで最速じゃないか。

 今回も、後ろから声がした。だが、


「またあったね、おにいちゃん」


 今回はなんだか声色が落ち着いていた。そんなに大きな変化ではないが、前回の声が印象に残っているので、少し動揺してしまった。


「あ、ああ。うん、またあったね」


 どうしたのだろう。『おにいちゃん』がいたら、元気が出るのではなかったのだろうか。


 いや、そこは今は置いておこう。この子、確かあの怖い男からいろいろ聞いていたはず。前回色々うんちくを披露してくれたし(ほとんど覚えていないが)、そのうんちくもあの男から教わったものだろうし。

 小さい子が教わったことをしっかり理解しているかは怪しいが、とりあえず聞いてみよう。


「ここは、どこ?」

「ここ? エルリアのいしきせかいだよ」


 聞き方を間違えた。


「あ、ごめん。そうじゃなくて、その……ガイウス達がいる世界ってなんて言うの?」


 あの男の名前を口にするのは少し勇気が必要だったが、しっかり言えた。


「それはね、『ルイン』っていうんだよ」


 ルイン...知らないな。


 …異世界転生、というやつだろうか? 俺は確かに死んだ。死んだはずなんだ。なのに、こうして生きている。

 だが、そんなことが本当に起こり得るのだろうか。……それは神のみぞ知るか。

 他にも聞いてみよう。


「体から生えてる尻尾や耳は……」


 そこまで口にして、あることに気づいた。意識世界のエルリアには、茶色の尻尾や耳はなかった。

 そうだ。『ガイウス』たちの反応を見るに、この子に本来尻尾やケモ耳は生えていないんだ。じゃあいつ生えたんだろう。...中身が俺になった時か?

 もしや、俺とケモ耳と尻尾ってかなり密接な関係にあるのでは? もしかすると、ケモ耳は後付けされたものだから耳が合計で四つあるのかもしれない。どのみち子の子が知っているとは思えないし、質問を変えよう。


「……冷蔵庫結構大きいけど、あれパンパンになる時があるって本当?」

「うん。わたしたちのかぞくに、コモリドリの『シルフィー』がいるんだけど、いっぱいたべるの。あったかいときはとくに」


 コモリドリ...前出てきたな。よく覚えてないけど。

 それよりも、『かぞく』という言葉に興味を引かれた。家族...『コモリドリ』(おそらく鳥類っぽい生き物)がいるし、血が繋がっているわけじゃないだろう。でも、他人同士が家族か...そんな関係だったのか、あの人達。


 そんなことを考えていると、突然、風が強くなった。


「あれ、こんかいははやいね」


 全くだ。まだ聞きたいことはあったのに。


「またね、おにいちゃん」

「うん、またね」


 別れの挨拶を済ませる。前回と同じく辺りがぼやけ、眩しくなっていった。もっと話したかったな...。













「……ぉぉぉぃ。……ぉおおおい」


 誰かの声で目が覚める。今回は眩しくない。起こされているのに変わりはないが。

 俺を起こしたのは、前回と同じくチリチリ頭の男だった。


「…どうしました?」


 とりあえず質問する。なんの用だろう。


「どうしたもこうしたも、お前寝すぎだろ?」


 確かに。しかし、起こされる理由にはならないはずだ。部屋で大人しくしていろと言われたし。


「俺、どんくらい寝てました?」


 どうでもいいことを聞く。なんでこんなこと聞いてんだ、俺。


「それは知らねえよ。昼飯から三時間くらい経ったかな。…ったく、歯も磨かずに寝やがって。お前の体じゃないんだぞ?」


 しまった。そういえば磨いてなかった。まさか、それで起こしたのか?


「まあいいや。お前、これから俺の仕事手伝えよ。仕事っつうか家事だけどな。監視も兼ねてだ。寝てたんなら必要ないかもだが、ま、そういう言いつけだから」

「…‥仕事?」



 俺はそれから一週間、この人たちと働かされることになる。主に雑用で。

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