第49話 再修行
「………ふむ。俺たちのことを知っているのか、アラタを襲った奴らは」
「多分。でも、どこまで知ってるかは分かりません。聞き出せたらよかったんですけど…」
「無事ならいい。魔物については何か分かったか」
「いいえ、特には。カカトカバネ自体は見たことあるけど、氷が突き出してるのは初めて見たわ」
「強いて言うなら、あの氷は外からの干渉を受けてできたってことぐらいか。自分で自分の内臓傷付ける魔物なんていないだろうしな」
俺がさっきまでの出来事を話し終えた後、ガイウスによる質疑応答が始まった。クレイとユーリィはカカトカバネとやらの死体を調べてくれた。初めはカルディアに調べさせようとしていたが、拒否されてしまったらしい。カルディア曰く、「知識がないのに見ても意味ないだろ」だそうだ。
「内臓が傷ついていたのか」
「ああ。個体によっちゃ消化器官やられてた」
「それは確かに変ですね」
外からの干渉となると、自然にやられたか、他の魔物か人がやったか。今のリヴァイアの気候を考えると、なんとなく前者な気がするが。
「ごめんなさいね、クレイ。一人でやらせちゃって」
魔物を調べる時、主にクレイが短刀を使って解剖していた。自分から名乗り出たらしい。流石だ。だが、手が真っ赤になっている。氷や冷たい死体を触っていたからだ。ユーリィは気にするよな。
「いいんだよ。こういうのは俺に任せてくれ」
「ありがと」
「………」
あれ、なんかちょっと仲良くなってる? 二人の距離が縮んでいる気がする。この二人の絡みってそんなに見たことないんだけど。
「これからどうするんだい? もう暗いけど」
カルディアの言う通り、日はもう沈みきっていた。辺りは真っ暗だ。クレイが魔物を解剖する時は、俺が近くに立って体を燃やして、照明代わりになっていた。今は火を焚き、それで暖と明かりを確保している。今日はもうできることは少ないと思うんだが。
「晩ご飯を食べて寝る」
「寝るんすか。早いっすね」
「リヴァイアの人間は朝が早いらしい。夕方も十分忙しかったが、人々は午前から活動していると街の住民から聞いた」
「へえ……今日はどんな依頼があったんですか?」
「魔物退治だ」
「魔物って、あいつらか」
クレイが遠くにある死体を指さした。
「ああ。今のリヴァイアは、主に魔物に悩まされているらしい」
「じゃあこれからも、しばらくは魔物退治をしていくことになるんですか」
「ああ。アッカド、明日はついて来い」
「わかった。俺の得意分野だもんな、そういうのは」
「実際、十体を簡単に倒しましたもんね」
俺との修行の時はいつも手を抜いていたし、あまり攻めてこなかった。できることなら、アッカドの攻め方を見てみたかった。
「そんなことはいいからー、早くご飯食べよーよー。僕お腹空いちゃった」
「幼女ぶんな」
「手厳しいねえ……」
その後は再び鍋を食べて、コラブルの闇魔法と俺の炎魔法で安全と暖を確保し、寝た。俺は地面、女性陣は馬車の中に布を敷いて、エルリアとガイウスはシルフィーと寝た。アッカドとコラブルはなんやかんやあって、
「アラタ…一緒に寝ようぜ…」
「世の中男に厳しいっす…」
俺の近くで一緒に寝た。明日の朝、身体中痛くなってるだろうな。女性陣ひどいや。
眠りにつくまでに一時間ほどかかった。コラブルが一瞬で眠り、いびきをかきはじめ、俺の腹を何度も蹴ったからである。俺はコラブルを一度強く蹴り飛ばし返してから寝た。
「……ふああぁぁぁぁ…おはようございます…」
俺は朝食を取るために鍋の定位置となった場所へ向かい、目を擦りながらその場にいた人たちに朝の挨拶をする。日光が木々の隙間から注ぎ、昨夜のような寒さはすでになかった。なかなかいい朝だ。
「おはようアラタ。アッカドが朝ご飯を作っておいてくれた。食べるといい」
そこにはフレアとコラブル、それにカルディアがいた。三人とも朝食は終えているようだ。フレアが器に鍋の中身をよそい、俺に手渡してくれた。鍋で料理をしたらしいが、中身は朝食らしい軽い汁物だった。野菜がごろごろ入っている。美味しそうだ。
「ありがとう。……そのアッカドは?」
「もう出掛けたっす」
「早いな」
「君が起きるのが遅いんだよ。二時間ぐらい前に出でったからね、彼ら」
「そんな前に…」
朝の挨拶を丁寧にした意味はなかった。起こしてもらう訳にはいかないし、見送るには自分で早起きするしかないか。
「さて、みんな揃ったところで」
カルディアが空の容器を地面に置き、立ち上がって俺たちを見る。
「昨日の広場へ行こうか」
「え……? 俺まだご飯食べ終わってないんだけど。食べてもないんだけど」
「必要ないだろ。エルリアちゃんから魔力もらってるんだから」
「それはそうだけど…人生の楽しみなのに…」
急ぎの用でもあるのだろうか。食事ぐらい摂らせてくれてもいいのに。
「とりあえず行くよ! ほら、早く!」
カルディアがめっちゃ催促してくる。コラブルたちにも言っているように見えるが…。
「オイラたちもっすか?」
「もちろん。みんな来るんだ」
「留守番はどうする。誰か残った方がいいんじゃないか?」
「シルフィーに任せる。コラブルは闇魔法張っときなよ。エルリアちゃんに何かあったらガイウスが切れるぞー」
「だから残りたいんす…」
コラブルは馬車に向かった。闇魔法を貼ったら戻ってくるだろう。
俺は渋々美味しそうな料理がよそられた器を置き、すでに歩き出しているカルディアの後を追って歩き出す。
「私はコラブルが来たら一緒に行く。大丈夫だ。方向は覚えている。先に行ってくれ」
「分かった」
俺は一人でカルディアの後をついて行った。
「……来たぞ」
「遅かったな。ずっと待ってた。何かあったのか?」
「いや、こいつがな…」
「うぅ…憂鬱っす…」
俺とカルディアが広場に着いてからしばらくした後に、フレアたちも到着した。コラブルが駄々をこねていたせいで遅れたようだ。それも仕方ないか…。
「じゃあフレアと君はそこに並んで」
「……?」
俺たちは言われた通りに広場の中央に横に並ぶ。
「何するんだ?」
「気をつけ!!!!」
「「!!?」」
突然の大声に、思わず命令通りに気をつけをしてしまった。フレアもその声には逆らえなかったらしい。
「君たちは弱すぎる!!」
「「……………」」
突然のディス。全く解せない。なんでコラブルはこっち側にいないんだ。カルディアの横でぼーっと突っ立っているだけじゃないか。無理矢理連れ来た意味ないだろ、これじゃ。
「急にどうしたんだよ」
「否定はしたくてもできないが」
「昨日の戦いを近くで見た僕は思った。フレアはいい加減魔眼を使えるようになれ!」
「……うるさい」
フレアが顔を背けながら言い返した。使えないのか? 前戦った時はガンガン使ってたけど。
「君は単純に刃物に弱すぎ! 意識的に障壁を張れるようになれ! あと不意打ち受けすぎ!」
「返す言葉もない…」
痛いところを突かれてしまった。ずっと拳で戦うアッカドに指南してもらっていたおかげで俺は、刃物相手になす術がなかった。できることは、躱して躱して隙をつく。これぐらいだ。昨日は特にそれによる弊害が現れた。首や腕は切り落とされ脳天を貫かれ、普通の人間なら何度死んでいるか分からない。拳なら自信はあるのだが、そもそも素手で道具持ちに勝てるわけがないのだ。自分の異常な身体能力を過信し、その自明の事実を忘れていた。不意打ちに関してはどうすればいいか分からない。奇襲に慣れればいいのか? 無茶だよな。
「というわけで、今日から食料が調達し終わるまで、君たちは特訓だ!」
「魔眼探しは?」
「もう終わったよ。リヴァイアにはなかった」
「そっか……」
「何かおかしなものは見えたけどね」
「何ですかそれ」
「北の方に自然中の魔力がほんの少しづつ流れてる。それだけだよ」
「そっか……」
何かの前兆か、もともとそういう流れがあるのか。俺には分からないな。後でガイウスに知らせておこう。カルディアは聞かれないと言わない気がする。
「そんなことはどうでもいい。誰かから頼まれた訳じゃないけど、僕が君たちを指南してあげよう!」
「できるのか?」
「……教えるのだけはうまいんだ、カルディアは」
「へー」
教わったことがあるのか、フレアは。
「さあさあさあ、厳しく行くぞっ!」
こうして再び、今度はカルディアを師に迎えての修行が始まった。




