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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第48話 馬車にて

 俺たちは戦いを終え、馬車に向かっていた。日が沈み始め、空がだんだんと暗くなっている。カルディアが先導し、俺とフレアがその後をついていく。会話はほとんどなかった。

 あいつらは何者だったのだろうか。捕まえようと思っていたのに、逃してしまった。というか俺、何となく気づいてはいたんだけど、やっぱり不死身なんだな。脳天貫かれたはずなんだけど、生きている。腕もいつの間にか治ってるし…服はボロボロだけど。流石に直せないな、これは。残りの一着を着回すしかないか。

 俺が使った魔法はなんだったのだろう。ほぼ無意識で使ってた気がする。障壁もそうだ。なんとか身につけたいが、感覚が残っていない。どうしたものか。


「……なあ」


 フレアが口を開いた。腕を温めるように擦り、体が震えている。吐息が少し白くなっていた。

 …吐息が白くなっていた?


「寒いな!?」

「今更気づいたか。さっきからずっと寒かったよ。精霊って鈍いんだねえ。どうなってるんだ、リヴァイアの気候は!」


 カルディアが激しく愚痴る。だがこれは、確かにおかしい。

 時間的に気温が下がるのはおかしなことではないが、下がりすぎだ。息が白くなるとか、冬じゃないか。フレアが寒さに耐えかねている。


「フレア、大丈夫か?」

「正直キツいが、根性でなんとかなる」


 まさかの根性論。何とかしてあげたいが、俺が着てるのもさして暖かくはない。耐えてもらうしかないか…せめて早く戻ろう。


「急ごう、カルディア」

「はいはい。じゃあ担いでくれない?」

「え」

「僕走るの苦手だからさ、君が背負ってくれた方が早いよ。さあ、ほら、早く!」

「分かったよ、分かったから」


 俺はカルディアをおんぶした。肩車の方が良いかなとも思ったが、やめといた。枝にぶつかってしまうかもしれない。


「このまま真っ直ぐだ。走れ走れー!」

「………」


 もしやうまく使われた? …まあいいか。

 俺たちは急いで馬車へと向かった。












「……なんですか、これ」


 走り出してから少し経って、馬車に着いた。さっきよりもさらに日が沈み、日の光が届きにくい森の中は、空に比べうんと暗い。

 そこには、おかしな光景が広がっていた。

 氷漬けにされている動物がおよそ十体、死体となってそこら中に転がっていた。馬車があると思わしき場所は、ドーム状の黒い何かが覆ってしまっていた。中から気配は感じられない。

 俺は訳がわからず、カルディアを降しながら、動物の死体の近くに座っていたアッカドに尋ねた。


「何があったんですか」

「襲われたんだ。いや、襲われてた、って言ったほうがいいか」

「襲われてた?」

「ああ。……いや、やっぱこれも違うな。襲われそうになってた」

「どういうことですか」


 随分と曖昧だな。


「オイラから説明するっす…」


 突然黒いドームが消えたかと思うと、中から馬車とコラブル、そして寝ているエルリアが出てきた。エルリアはドームが消えたと同時に目を覚ました。


「さむぅい!」

「ほんとっす! めっちゃ寒いっす!」


 知らなかったのか。ドームに覆われていた場所から暖かい空気が溢れ出している。中は暖かかったのか。


「とりあえず説明してくれよ。何があったんだ」

「オイラはずっと隠れてたんす」

「あのドームみたいなやつか。あれが闇魔法なのか?」

「そうっす」


 やっぱりか。色からしてそうだとは思っていた。気配まで遮断できるとは、凄いな。


「正直言うと、魔物がいたことすら知らなかったっす」

「魔物…? これが魔物なんだ」

「ああ」


 アッカドが立ち上がり、ポケットに手を突っ込んで話し始めた。


「カカトカバネって言うんだが、群れで暮して、人も襲う奴らなんだよ。コラブルには気づかなかったらしいが、俺が帰ってきた途端襲ってきやがった」


 十体を一人で倒したのか。アッカドならできるよなあ。俺にもできるかな。


「へー」


 カルディアが死体を人差し指で突いている。なんて縁起が悪いのだろう。


「カルディア、そういうのはあんまりやんない方が」

「おっと失礼。死体突くのは良くなかったか。初めて生で見たからさ」


 それは俺もだ。見た目は爬虫類に近い。全身を鱗が覆っていて、足が四本ある。足自体は他の部位に比べて大きく、顔は平べったい。そして、体の所々から氷が突出していた。


「この氷は?」

「分かんね」

「分かんないっす」

「…フレアとカルディアは何か知らないか?」

「私はこういうのには疎い。剣術しか教わらなかった」

「僕も魔物には興味なかったからねー」


 お手上げだ。それを察した俺たちは、散らばって各々好きなことをし始めた。日が暮れてきたし、ガイウスたちももうすぐ帰ってくるだろう。それまで、他に気になってることを聞いておくか。


「コラブル、ちょっといいか」

「お、来たっすね。待ってたっす!」

「テンション高いな…」

「そりゃそうっすよ。やっとオイラの魔法について話せるんすから」


 察しがいい。その通り、闇魔法について聞きたかった。


「オイラの闇魔法は、『遮るもの』なんす!」

「と言うと?」

「アラタ…闇って…なんだと思うっすか…?」


 聞き方がやけにスカしている。無い髪を掻き上げながら片足に重心を乗せて話している。よく分からないけど、乗っかろう。


「闇…それは…何も見えない場所…」

「なんすかその言い方」

「え?」

「何も見えないってことはつまり、光を遮るってことなんす。分かるっすか?」

「……それは分かるけど…」


 納得いかねえ。始めたのお前なのに…。


「つまり遮るもの! そこをちょっと曖昧にして、音とか気配とかも遮断できるように練習したんす!」

「へえ、器用だな」

「でしょ! 留守番はオイラに任せるっす!」


 なるほど、馬車を見事に魔物から守り切ったことで、調子に乗り始めたな。頼りにはなるんだが、いつか墓穴を掘りそうで怖い。


「頼りにはなるが、あんま気張られると怖いよな、こいつ」


 アッカドが話に混じってきた。


「本当にその通りです」

「そうなんすか?」

「「そうだよ」」

「そうなんすか…」


 落ち込んだ。これぐらいがコラブルには丁度いい。


「悪かったな、置いていって。でも、随分遅かったじゃねえか」

「ああ、実は……」


 俺は襲われたことを話した。途中から魔物の片付けを終えたフレアやカルディアも入ってきて、三人で頑張って説明した。


「……マジか!?」

「大変だったんすね」

「コラブルはもっと興味を示せ。心配しろ。大変だったんだぞ?」

「アラタはなんか大丈夫な気がするっす」

「お前の根拠のない話は怖いんだよなあ…」


 何が大丈夫なんだ。脳天貫かれたって言ったろ。…だからか?


「アッカド、なんで先に戻ったんだ?」


 フレアが聞いた。置いていったって言ってたな。先に帰ってたのか。


「ちょっと嫌な予感がしたもんでな」

「嫌な予感?」

「あの魔物、リヴァイアに向かってる途中からついて来てたと思うんだが」

「え!」


 カルディアが驚いた。


「そうだったの…!? 言ってくれれば見たのに! 分かったのに!」

「なんか悪かったな」

「使ってよぉぉぉぉ僕がいる意味ないじゃぁぁぁぁん」


 カルディアは座り込んでしまった。指で地面に変な模様を描き続けている。意味はないだろう。


「急に荒れだしたっすね…」

「カルディアのこんな姿は初めて見た。少し面白いな」

「フレアも面白いとか思うんすね」

「私をなんだと思ってるんだ…」


 フレアの言う通り、少し面白い。相変わらず心はこもってないけど。でも、エルリアが俺を起こす所を見てたって言ってなかったか? その場にいたってことかな。でも気配は感じなかったし、てっきり魔眼で見たんだと思ってたんだけど。


「魔物たちはなんですぐ襲ってこなかったんですかね」

「俺には分かんねえよ。クレイかユーリィに聞いてくれ」

「呼んだか?」

「「ぅぅおおおぉお!?」」


 アッカドとコラブルが大声を上げて驚いた。クレイがいつの間にかアッカドの後ろにいた。二人とも驚きすぎだ。コラブルなんか転んでしまっていた。


「戻った」


 クレイの後ろにガイウスたちもいた。みんな疲れた様子だ。初日だが、仕事が多かったのかな。

 まずは、今日の出来事を話さないと。


「ちょっといいですか? 話さないといけないことがあって」

「……分かった」


 俺は広場での戦いのことや、馬車が魔物に襲われかけたことをガイウスたちに話した。

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