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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第45話 現れる本性

 場所は展望台。カルディアは遠くに見える街を眺めていた。


「…貧相だねぇ…」


 カルディアはそれ以上何も話さなかった。

 この展望台は意図的に街が見えるように作られているようだった。いくつかの剣が置いてあり、それらは手入れがされていなかった。三年前の戦争時に置かれたものだろう。この展望台は、侵略のために作られたのかもしれない。


(さっさと終わらせよ)


 カルディアの瞳が白く光った。使うだけで辺り一帯、遠くにある街の細部までも見渡せる魔眼。だが一番に目についたのは、すぐ近く、この展望台の下にいるフレアと、見知らぬ誰かだった。


「ん…? おやおや!?」


 戦っている。耳をすますと、金属音が響いてきた。カルディアは塀から身を乗り出し、下の広場を見た。


「敵襲かい、フレアー?」

「うる、さい! 話しかけるな!」


 フレアは防戦一方のようだった。それもそのはず、フレアは鎧を着ていない。彼女の戦闘スタイルは全身をフルに使うものだが、今は剣で防ぐしかないのである。

 敵は異常なまでに俊敏に動き、フレアを翻弄していた。その動きはまるで稲妻のようで。あまりの速さに敵の姿を視認することができなかった。

 カルディアは透視の魔眼を使い、敵の魔法を看破した。


「フレアー! 雷魔法だよー!」

「見れば、分かる!!」

「だよねー!」


 稲妻のようではなく、稲妻だった。裸眼では敵の残像を捉えるのが精一杯で、敵は一方向からではなく、高速移動をして四方八方から攻撃していた。

 カルディアはフレアの腕に感心していた。フレアの強さが彼女の想定を上回ったのだ。たった一本の剣を巧みに使い、敵の猛撃を防ぎ続けていた。


「君って結構強いねー!? 見直したよー!」

「気が散る、黙ってろ!!」


 フレアが敵の攻撃を強く弾いた。すると敵は高速移動をやめ、少し後退して姿を露わにした。

 その男は薄紫の髪、黒い鎧を着て、右手に出来の良い細剣を持っていた。


「何者だ、貴様」

「名乗る義務はない」


 敵は再び高速で動き始め、フレアに蓮撃を浴びせた。


(面倒くさいことになったな。狼はどこだ?)


 カルディアは魔眼を使い、狼を探した。見つけることは容易だったが、


(あちゃー、そっちもやりあってるのね)


 当てにならなかった。むしろ狼も助けを必要としているように見える。カルディア自身は戦力にならず、フレアに魔眼を使ってもらいたいが難しいだろう。

 カルディアはどうしたか。


(……貧相だねぇ)


 再び街を眺め始めた。

 できることがないのであれば、待つのみである。それが彼女の生き方だった。













(速い……!)


 フレアは敵の奇襲に迅速に反応したが、それ以降反撃できないでいた。

 鎧がなく、剣一本で防ぐのにも限界がある。次第に防ぎ切れなくなり、軽い傷を負っていった。

 今のフレアの実力では敵を目で追うことができない。いっそのこと辺り一帯を燃やしてしまおうかとも考えたが、


(駄目だ!!)


 すぐに否定した。

 幸いにも一撃一撃は弱い。さっきのように弾くことができれば、あるいは反撃できるかもしれない。


(……そこ!)


 フレアは敵の癖を覚えた。正面から攻撃した後、背後に回る動きが多かったのだ。それを読んで、正面から攻撃された直後に後ろを向き、大きく剣を振った。


「……!」


 当たった。もしかしたらそういう作戦かもしれないとフレアは思っていたのだが、本当にただの癖だったようだ。

 敵は再び後退し、地面を滑って態勢を整えた。


「目的はなんだ。何故襲う」


 フレアは問い質す。だが、


「言う義務はないと言ったはずだ」


 話す気はないようだった。フレアは始め、リヴァイアの騎士かと疑った。風貌を見ればそう思えなくもない。だが、敵が何も話さないのであれば確かめようがない。よってまずは戦意を削ごうと考えた。


「今ので分かった。私の方が強い。これ以上の戦いは無意味だ」

「はっ、笑わせるな。魔眼に喰われた輩が何を言う」

「なーーーー」


 突然の台詞にフレアの思考が止まった。心の奥底に留めておいた記憶がじわじわとフレアを襲った。


(どうして知っている。ここに来てから口にはしていない。しかも喰われた、だと? 私の何を知っているんだ)


「たったこれだけの戯れ言で言葉を失うか。弱いな」

「……黙れ」


 フレアは唐突に剣を燃やした。それと同時に、彼女の周囲に火花が舞い始めた。


「貴様に何が分かる!」


 敵の攻撃を待つことなく、フレアが仕掛けた。敵に向かって駆け出し、一瞬で距離を詰めた。

 フレアは強い。本気を出せば、直線であれば敵と同じ速さで動くことができる。だがしかし。


「甘いな」


 激情に身を任せては、本領を発揮することはできない。フレアはうまく敵の口車に乗せられ、実力の差を埋められてしまった。

 フレアは何度も剣を振った。一撃一撃に力を込め、敵を砕こうとした。だが、


「脆く、弱く、小さい。業火の魔眼の炎とはこんなものか」


 敵はそれを避け続けた。

 当然だ。敵はフレアよりも速いのだから。フレアは理性を欠いていおり、敵がそれを見逃すはずもなかった。


「お前は自分で、お前の方が強いと言ったな。だがそれは間違いだ」


 敵がそう言うと、何か魔法を唱えた。それと同時に露出している手や首筋などに薄紫の文字が浮かび上がり、敵の剣や周囲にバチバチと稲妻が走り始めた。


「お前の限界は見た。こちらは見せていない。つまり」


 敵が剣を構え、フレアを強く睨む。


「俺の方が強い」


 瞬間、炎と稲妻が衝突した。だが、攻めているのは稲妻だった。敵が再び高速で連撃を浴びせ、それはさっきに比べて速度が上がっていた。


「くっ……!」

「ここで散れ。悪は滅んで然るべきだ」


 敵がフレアに全力の連撃を食らわせようとした、次の瞬間。


「オオオオォォォォォォンッ!!!!」


 突然、雄叫びが森中に響き渡った。あまりの音の大きさに両者とも動きを止め、敵が即座に距離を取った。

 それはアラタが飛んでいったところから聞こえてきたようだった。雄叫びが鳴り響いた直後、誰かが衝撃波と共に飛んできた。衝撃波は地面を大きくえぐり、多くの木々を薙ぎ倒しながらフレアの後ろを通り過ぎていった。そして広場の反対側の木々を少し傷つけたのち、消えた。飛んできた誰かは木に叩きつけられ、地面にうずくまっている。

 露出の多い服を着て、髪をツインテールにまとめ、所々に緑色が混じっている。持っていた大鎌は木に叩きつけられた時に手から離れてしまっていた。


「イブ……!」


 敵がそう言った。飛んできた彼女の名前らしく、敵は少女の元へ駆け寄り、状態を確認している。フレアはその光景に呆気にとられていた。

 規模こそ違うが、見覚えがある。初めは信じられなかった。

 少女が飛んできてから少しした後、誰かが衝撃波が来た方から歩いてきた。


「グルルルルルル…」


 獣のように唸るそれは、少女を睨みつけていた。


(アラタ…!?)


 その瞳は依然青く光り、しかし彼が持っているはずの優しさを宿していなかった。

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