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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第43話 奇襲

「金を稼ぐ」


 話し合いを始め、一番最初にガイウスが放った一言がこれだった。

 今は昼食を取った場所に集まっている。クレイは馬車に休みに行った。もちろん止めたけど疲弊した人間には強く出れず、止められなかった。これでは俺が暴れたことがバレてしまうな。


「俺たちには金がない。だが、食料を行く先々で補給する必要がある。魔眼を探すこと自体は一瞬で終わるが、それだけやればいいというわけじゃない」

「どうやって稼ぐのかしら」

「簡単な話だ。今この国は、金やら人手やらが足りていないらしい」

「なんでです?」

「異例な寒さの影響で、農産物が不作なんだそうだ。人手はもともとらしい」


 寒さか。ユーリィが言ってたとおり異例なんだな。


「安い値段でなんでも屋でもやればそれなりに稼げるだろう。それで食料を買う」

「それまではここに滞在するってことですか」

「そうだ。基本野宿だが我慢してくれ」


 俺は精霊なのでどうということはない。問題は他のみんな、特に女性陣だ。どこかに川とかあればいいんだけど。


「エルリア、アラタ、カルディア、フレア。四人は残れ。他のメンバーで行く」

「悪い、俺も残っていいか」

「…別にいいが、何かあるのか」

「ちょいと気になることが」


 アッカドも残るようだ。このままだと俺にはやることがなかったのだが、アッカドがいれば修行ができるかもしれない。


「クレイはまだか」

「丁度戻ってきましたよ。馬車んとこの地面割れてたけど、なにかあったの?」

「いえ、お気になさらず」

「あ、そう。察した」

「察さないで欲しかったっす…」


 嫌な思い出だよ…そこは大人特有のスルースキルを発揮して欲しかった。


「行ってくる」

「おう、いってらっしゃい」


 ガイウスたちは再びリヴァイアの街に向かった。俺もガイウスを手伝いたいが、そうもいかないのがとても歯痒かった。


「…残り組の方が人数多いんですね」


 コラブルの言う通り、森の中にはエルリアを含め五人と一匹と一羽が残っていた。


「多すぎても困るだろうし、別にいいだろ。…どっかに広いとこねえか?」

「いえ、ずっとここにいたので分からないです。どうかしました?」

「お前とやり合いたいんだが」


 いきなり!? 手合わせしたいと思ってはいたけど、まさか第一声がそれだとは。


「そんな急に…」

「お前に関して気になってることがある。それを確かめてえ」

「なら僕が探そうか? すーぐ見つかるよ」

「おう、頼んだ」


 話が勝手にどんどん進んでいく。拒否するつもりはないが、もう少しこちらの話を聞いてくれてもいいのではないだろうか。


「あったよー。西に進んだところだ。早速行こう」

「カルディアも来るんですか?」

「当然。君たちが色々やっている間に人が来たら大変でしょ? 僕が見張っていてあげよう」

「…それもそうですね。お願いします」

「私も行っていいだろうか」

「フレアまで…」


 人数がどんどん増えていく。そうなると一つ問題があるんだが…。


「フレアまで来たら、荷物は誰が見張るんだよ」

「そうだな…コラブル、頼めるか」

「任せてくださいっす! 見つからないようにするっす!」

「見つからないように…まあ任せた」


 どことなく不安だ。見つからないようにってどうするんだろう。闇魔法とか? 俺まだ見たことないんだよな。


「安心しろって。シルフィーも戦えるからよ」

「え」


 マジですか?


「行くぞ」

「あ、はい」


 アッカドはこちらを待つことなく歩き出し、後ろに俺、カルディア、フレアが続いた。あまり遠いと帰りが遅くなってしまうだろうし、近場だったら良いんだけど。

















「はい、ここー」


 そこは森の中に不自然にあった。切り倒された痕跡はないのに、何故か木が生えていない。あるのは展望台だけで、かなり広い場所だった。


「おう、助かった」

「まったく、なんで君が前を歩くのかな。僕が案内するって言ったのに」

「悪かったよ」


 カルディアが文句を言っているが、その言葉から怒りや不満は感じ取れず、空虚なままだった。


「さて、僕はもう展望台から魔眼を探すよ」

「その為についてきたんですか」

「もちろん。能率的に生きていかないと損だぞ」


 思ったよりも協力的なんだな。どうしてだろう。


「やるぞー!」

「早いな…」


 アッカドはすでに広場の端に行き準備運動をしていた。俺も早速その反対側に立って、体を少し動かした。フレアは展望台の下に立ってじっとしていた。見学しにきたのだろうか。

 もう少し間が欲しいところだが、思い切ってやってしまおう。


「あれやれよ、あれ」

「あれって?」

「屋敷で使ってたやつ」

「……見てたんですか」


 『ハイエンチャント』のことだろう。あれはアッカドを倒す為に秘密裏に練習してたんだけど、がっつり見てたのか。普通にショックだ。


「…いきますよ、『エンチャント:トリプル』」


 この際テンポよく事を進めよう。アッカドが急かしてくる前にこちらから急いでやろうというせめてもの抵抗だ。

 今回は『トリプル』で全身強化と『ハイエンチャント』を同時に使った。実は初めてだったりするのだが、アッカドが相手だと自然とこちらもやる気が出てくるので、普段はできないこともできてしまったりするのだ。

 軽いテンションで使ってしまったが、物凄くしんどい。まるで腕が腫れ上がっているかのような圧迫感を感じた。


「……変な魔法だな」

「変?」

「まあいい。いくぞ」


 アッカドはそのまま構えた。魔法は使わないのか? 舐められたものだ。

 俺もアッカドを見据えながら構えた。そして強化した拳を正面に突き出し、遠くにいるアッカドに向かって衝撃波を放った。

 轟音が広場中に鳴り響いた。衝撃波の一部が地面をえぐりながら直進し、それは見事にアッカドを捉えていたのだが、


「うーん…」


 簡単に避けられてしまった。知ってるのだから当然か。だが何を悩んでいるんだ?

 次に俺は走り出した。実は『ハイエンチャント』は一回につき一発しか打てない。もう一度打つにはまた詠唱しないといけないのだが、アッカドがそれを待ってくれるとは思えない。もう戦闘は始まっているのだから。

 駆け出す俺を見てアッカドも走り出した。だが、


「ぐは…っ!?」


 アッカドは俺の数倍早かった。アッカドはいつの間にか俺の目の前にいて、俺は腹に思い切り蹴りを入れられ、いくつもの木をなぎ倒しながら吹っ飛んだ。その勢いは『ハイエンチャント』にも勝るもので、俺は疑問を感じずにはいられなかった。どういうことだ。アッカドは魔法を唱えていないのに。

 …唱えずともそれほどの魔法を使えるということか? だとしたら馬鹿みたいに強いじゃないか。今の俺ではまるで敵わない。

 だからといって諦めるわけにもいかない。これは修行なのだ。強敵にどこまで食いついていけるかというのも鍛えるべき重要な要素だろう。


 俺は立ち上がろうとするが、全身が痛み体が上手く動かない。俺も全力の魔法を使ったから人のことは言えないが、もう少し手加減してほしい。

 それでも俺は必死に体を動かした。なんとかして立ち上がらなければ…。














「うーーん…」


 狼を蹴り飛ばした後、アッカドが何やら悩んでいた。


「どうかしたのか」


 フレアが尋ねた。フレアとしてはもっと彼らの戦いを見たかったのだが、アッカドが追撃しないのを見て、そういうものではないのだと悟った。であれば何のために狼を呼び出したのか、気になるところだ。


「フレア、あいつに言っといてくれねえか」

「何をだ?」

「魔法の使い方ちげえんじゃねえかって」

「使い方が違う…? よくわからないんだが」

「俺もはっきりとはわかんないんだけどよ。そもそも使い方に違うも何もねえからな。でもあれはなんかおかしいぜ。多分イメージと合ってない」


 アッカドの言葉は的を射ていた。狼は拳を突き出しその勢いで衝撃波が生まれていると思っているが、側から見ればその拳は空中にある何かに当たっているように見えた。フレアはアッカドの言葉がおそらく正しいと意識的に感じ取った。


「…分かった。伝えるだけ伝えておこう」

「頼んだ。俺は馬車に戻る。カルディア降りてきたら一緒に戻ってこい」


 そう言い残すと、アッカドは先に行ってしまった。なんて気ままな人なんだろうとフレアは思った。

 その時だった。


「…!?」
















 狼は必死に体を動かし、(うめ)きながら立ち上がる。そして膝を伸ばし立ち上がった瞬間、何かが空を切る音がしたかと思うと、狼の首が落ちた。その感覚を味わうのは初めてではなく、狼はうろたえながらもなんとか落ちた首をキャッチし、再び胴体に乗せた。

 初めは訳が分からなかった。一瞬身内の誰かの仕業かと考えたが、そんな訳はないとすぐに頭の中で否定した。

 周囲に人影はない。狼は手動で顔を上げ、周りに生えている木の枝を見た。


 犯人は恥ずかしげもなくこちらを見つめながら、枝の上に立っていた。


「うん、死なないね。首切っても死なないね。アハッ❤︎」

「な……んだよお前…!?」


 知っている。狼が普通の人ではないと知っている。首を切り落とされたことがあるのを知っている。瞬間、狼は悟った。


(敵だ……!!)


 あまりに突然の敵襲。狼は奇襲を喰らい、すでに劣勢だった。

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