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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第42話 可哀想な小話

 狼が馬車近くで寝ている。他の面々は昼食を終え、各々好きなことをしていた。昼食から時が経ち、もうすぐ狼を起こす時間である。


「オイラ、アラタを起こしてくるっす…」

「…何か困ったことでもあるのか。私で良ければ聞くが」


 フレアはコラブルが明らかに嫌がっているのを悟った。

 狼には一つ問題があった。ちなみに本人は自覚しているが、直せないらしい。些細なことではあるが、コラブルの元気を損ねるほどには悪影響を及ぼしていた。


「フレア…優しいっすね」

「優しくなどない。当然のことだろう」

「それもそうっすね」

「そうだな…」

「…実はアラタ、無理やり起こすと…」

「無理やり起こすと?」

「すっごく機嫌が悪くなるんす…!」

「………そんなことか。心配して損したぞ」

「そんなことじゃないっす! 怖いんすよ!」

「そんなにか?」

「そんなにっす!」


 狼は無理やり起こされると、露骨に機嫌を悪くするのである。具体的に言うと狼のように唸ったり、鋭い目つきで睨んだり、ちょっと体を燃やしたりする。この世界に来て間もない頃は大したことなかったのだが、時間が経つとともにこの世界に慣れてきたのか、次第に本性を現した。コラブルは既に三回ほど被害に遭っている。


「ついてきてほしいっす」

「別にいいが、襲ってきたりしないよな?」

「それは流石にないっす」


 二人は一緒に馬車へ向かった。

 二人は狼を見つけた。狼は静かな寝息をたて、気持ちよさそうに眠っていた。

 二人は狼に近づき、コラブルが呼びかける。


「アラター、起きるっす」

「………すぅ………すぅ…」

「起きないな」

「剣でつついてみるっす」

「どうしてそうなる? 怖いのだろう?」

「日頃の恨みっす」


 そう言うとコラブルはフレアに剣をねだった。初めはフレアも当然渋ったのだが、コラブルがあまりにしつこいのと狼が丈夫なのを考え、「どうにでもなれ」とやけになり貸した。

 コラブルが剣を引き抜き、赤い剣身が姿を現した。そしてコラブルは剣先で狼の脇腹辺りに狙いを定めた。もちろん刺すわけではなく、少し掠らせる程度のつもりだ。


「いくっすよ」

「あ、ああ」


 コラブルはゆっくりと剣先を下ろし、剣が狼の脇腹に触れた。そして皮膚が少し裂けた瞬間、


「なんだ!?!?」

「ぅお!!?」

「きゃっ!?」


 狼が跳ね起きた。敵襲だと勘違いしたのか、その跳躍の威力は地面が割れるほどだった。それに加えて着地も普段に比べて荒々しく、衝撃をうまく流そうともせずに思い切り地面と衝突した。


「………誰だ?」

(やばいっす…)

(止めればよかった…)


 二人の後悔など知らずに、狼は低い声で威嚇するように尋問する。


「…何してんだ、お前ら」

「おお起こす時間になったっすから、起こしにきたんす」

「剣でか?」

「で、出来心っす」

「もっかい腹殴り飛ばすぞ」

「ひいい!?」

「お、落ち着け。私も悪かった。私が止めてればこんなことには」

「当たり前だろ…悲劇のヒロインぶりやがって」

「……!?」


 何かがフレアの心に突き刺さる音がした。


「アラタ、それは言っちゃいけないやつっす…!」

「ああ…?」

「…と、とととりあえず、飯食うっす。リズム崩れちゃうっす」

「ああ、分かったよ。もうあっち行ってくれ」

「ううううっす。フレア、行くっすよ。…フレア?」

「……はは、私なんて所詮…」

「重傷っす…」


 二人はどこかに傷を負って戻っていった。狼は物理的に傷を負ったので、結果的にみんな傷ついたことになるが、その傷に意味などなかった。


「ああ、ったく…」


 狼は依然低い声で唸り続けている。そしてもう一度寝るために再び横になった。


「おにいちゃーーん」

「今度はなんだ…」


 高い声が頭に響き、狼の機嫌はさらに悪くなった。狼は声の主を確かめるべく再び体を起こした。


「わたしがおこしにきたよ!」

「エルリア…もうちょっと寝かせろ」

「だーめ! ご飯食べるの!」

「寝かせろ」

「だめったらだめ!」


 エルリアは全く引かなかった。痺れを切らした狼は強行手段に出た。


「グルルルルルル…」


 エルリアを睨んだ。本来は睨むだけのつもりだったが、無意識に本当に唸ってしまった。ここまで本気で怖がらせると流石のエルリアでも泣いてしまうかもしれないが、遠くへ行ってくれればそれでいい。狼はそう考えていたのだが、


「そんなふうににらんじゃだめでしょ! みんなにげちゃうよ!」

「っ!?」


 エルリアは狼の両頬を叩きながら叱った。割と強めの威力で、痛みが狼の顔全体を走った。狼は予想し得ない反応に意表を突かれて沈黙し、少ししてあることを悟った。


(…だからガイウス気づいたのか)


 睨まれて叱り返す子供などエルリアしかいない。初めてあった時、叱り返さなかったから中身が違うとバレたのだ。だとすると、こっちを睨んだのも中身を確認するためだったのかもしれない。


「はあ…」


 狼ははっきりと目が覚めた。こうなればいつもの狼だ。機嫌が直り、エルリアを青い瞳で優しく見つめる。そして、


「ごめんね、エルリア」


 謝った。記憶は少し曖昧だが、あと二人ほど傷つけてしまったことを狼は知っている。彼らにも後で謝ろうと狼は思った。


「いいよ。ごはんたべよ!」

「うん」


 エルリアは立ち上がった狼の手を引っ張り、皆でご飯を取った場所へと案内する。狼は歩き辛さを感じながら、少し微笑ましさも感じていた。


(やっぱり女の子だよな)


 狼は勝手に心の中でそう考えた。エルリアの瞳はエメラルドに輝いていたが、狼がそれを気にすることはなかった。

 夢で何かを見た気もするが、そんなこと、もう忘れてしまったのである。

















「…美味しかった」


 俺は空になった器を片手に、率直な感想を口にした。その場にはリヴァイアに入った二人以外の全員がいた。


「そいつぁ良かった」

「………これは……でもこっちは……」

「どうしたユーリィ。作り方が気になんのか?」

「うるさいわね。そういう話はもうしないでって言ったでしょ。自分はできるからって調子に乗っちゃって…!」

「言葉の重みがすごいっす」

「…下手なの」

「やめてフレア。言わないで」

「あ、すまない」

「下手なんだねえ!?」

「……ほっときなさい」

「下手なんすね」

「うるっさいわね!!」

「なんでオイラにだけ!?」


 不憫だなあ。容赦なく言い放ったカルディアは性格が悪い。

 …一つ、気になることがある。


「あの、アッカド」

「なんだ?」

「『鍋』って誰が開発したんですか?」


 今日の昼食は鍋料理だった。

 サンドウィッチはまだ分かる。手頃だし美味しいし、似た食材があれば異世界でも生まれる可能性はある。だが鍋はなあ…どう考えても日本にしかないだろう。この世界に日本と似たところがあるのだろうか。


「知らねえな」

「そうですか…」

「僕知ってるよー」

「なんだと…!?」


 アッカドが「負けた…」みたいな顔をした。一応プライドあるんだ。遊びの時はないのに。

 さすがカルディア、透視の魔眼使い。物知りだ。


「誰なんです?」

「転生者だよ、転生者。それも昔の」

「…なるほど」


 そうか、転生者か。日本から転生した人が過去にいたんだな。それで鍋料理を作ったら広まったと。


「昔ってどれぐらい?」

「結構昔。数千年単位」

「そんなに…」


 思った十倍規模が大きかった。ガイウスの百年が霞むぐらい前じゃないか。

 ここで、一つの疑問が生まれた。


「転生者っていつからいるんですか?」


 鍋を広めた人が来たのは数千年前。ならば、それより前の時代にも転生者がいた可能性があるのではないだろうか。


「うーん、そうだねえ、分からないぐらい昔からかな。なんなら人がいる時からいるかもね」

「人がいる時からって、大体…」


 うん万年、いや、それ以上前からか? 人という種がいる時からってことだよな。衝撃的な事実だ。ならば、元の世界の技術がこの世界に伝わっている可能性もあるのか。旅の楽しみが増えたな。

 それからも少しくだらない話をしていた。初めは「フレアの悲鳴って結構可愛いんすね」という話になった。俺も同感だったのに加えてカルディアとユーリィもとても興味を示したので大いに盛り上がった。フレアが可哀想だったので割愛する。

 途中からユーリィへの罵倒が始まった。ここにいる人たちは皆性格が悪いらしく、罵詈雑言の嵐がしばらく森の中を吹き荒れていた。見ていて楽しかったのでまあいいか。

 ごめんやっぱ良くない。可哀想すぎる。おいカルディア、言い過ぎだろ。

 そしてユーリィが落ち込んで馬車に戻ってしまった時、


「戻った」

「ふう、疲れた」

「あ、おかえりなさい」


 ガイウスとクレイが戻ってきた。ガイウスはなんともなさそうだが、クレイは疲れたような顔をしている。いつものことなので大きな問題はない。


「ある程度国内の様子は伺えた。今後の方針を決める」

「はい」


 そうして俺たちはこれからの行動について話し合うことになった。

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