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第40話 激動 終幕

「……若い」

「ふっふっふ。そうだろうそうだろう!? 成人もしていないのに領主を任されるなんて、僕はなんて有能なんだろう!」

「騒がしいぞ。静かにしろ」

「おっと失礼。ついつい興が乗っちゃった」


 その少女は『カルディア・エル・リンケージ』と名乗った。エルリアの子孫。透視の魔眼使い。


「…それで、どうします?」

「何をだ」

「この女性のことですよ」


 俺は後ろに立っているパジャマ姿の女性を見た。女性は手を前で組み、こちらの様子を伺いながら黙っている。


「…俺は反対なんだが」

「そこをなんとか」

「……反対だ」


 頑なだな。もっと客観的な意見で攻めよう。


「敵に回ったら厄介です。今のうちにこっち側に引き入れときましょうよ」

「………ふむ」


 俺たちの目的は魔法を消すこと。そうなると、この世界の人々は基本敵だ。魔眼使いとなれば、なおさら今のうちに味方にしておきたい。

 俺は学んだ。正しい意見で攻めればガイウスは落ちる。今回のもなかなかいい意見だと思うんだが、どうだ…?


「……連れて行くだけだからな。それ以上のことはしない」

「…やっぱりちょろ…」

「…………『ちょろ』、なんだ」

「ごめんなさいなんでもないです」

「…はあ」

「ちょいちょいちょい、ちょっと待ちなさい君たち」

「はい?」


 領主が幌馬車の上から俺たちを呼んだ。何かしたかな。


「もうちょっと僕に触れてくれない? 領主だよ? なんなら君たちにとって因縁の相手だよ?」

「なんかすいません。触れるべきところが見当たらなくて」

「いやいや…いっぱいあるでしょ!?」

「例えば?」

「美貌とか! 魔眼とか! 有能さとか!」

「やっぱないですね」

「なにぃ!?」


 騒がしいなこの領主。

 ……領主はもっと歳を取った男だと思っていた。こんな若い人が殺しを依頼してきただなんて、信じられない。容姿がエルリアと似ているし、嘘をついているわけじゃないだろう。目も白いし、魔眼を持っていることは疑いようがない。

 魔眼を受け継いだから領主を任されたのだろうか。この世界、少し酷だな。

 でも、この人もこの人で変だ。拐われて家も燃やされたっていうのに、平然としている。

 透視の魔眼。全てを見透かす魔法。…もしかしなくても全部知ってたんじゃ?


「ま、いいや。くだらない話はこの辺にしておこう。フレアを連れて行くか迷ってたみたいだけど、決まったのかな?」

「へ? ああ、はい」


 突然領主のテンションが落ち着いた。自尊心が高い人だと思ったのだが、そういうわけでもないのか…?


「じゃあ行こう! もうこんな国に用はない! さっさと出るのが良い!」


 …変な人だな。一言で表すなら不気味だ。領主という地位を誇っているように見えて、そうでもない。その言葉は驚くほど空虚で、国を貶しているようにも聞こえなかった。


「…結局、どうするんだ。連れて行ってくれるのか…?」

「あ、はい。行きましょう、一緒に」


 女性はかなり不安そうだったので、俺はできるだけ明るい雰囲気で返した。


 これから旅が始まるわけか。不謹慎かもしれないが、わくわくしてきた。この世界はかなり広い。まだ見たことないが、魔物というものもいるらしい。新しい発見が沢山あるはずだ。心が躍る。


「…感謝する。だがその前に、少し時間をくれないだろうか」


 そう言うと女性はユーリィに近づいて行き、何か話し始めた。


「あなたは酒場の人と連絡を取れるのか」

「いいえ、私じゃなくてガイウスよ。どうしたの?」

「伝言を頼みたいんだ」

「あらそう。ガイウス、ちょっと」


 ユーリィがガイウスを呼んだ。こそこそ話しているが丸聞こえだ。伝言ってなんだろう。酒場の人って情報屋かな。


「なんだ」

「酒場の人と連絡を取れるか?」

「取れる。それがどうした」

「今、取ってくれないだろうか」

「…いいだろう」


 あ、いいんだ。仲間になったわけじゃないけど、一緒に来る人には優しくしてくれるのかな。

 二人は森の中に入って行った。他の人には聞かれたくないらしい。こちらも詮索しないでおこう。戻ってくるのを待つか。















「…おーーーい…」

「…! フレア!?」


 場所は小さな聖堂。男は駆け足で出て行った女の帰りを待っていた。

 女は最近不安定だった。今回の出来事で完全に崩れてしまうことを男は恐れた。心配していた。

 そんな時に、誰かが扉をノックした。男は長椅子から立ち上がり、急いで扉に向かった。


「フレア!」


 物凄い勢いで扉を開き、暗い外を見回す。そこに女の姿はなく、代わりに見覚えのない、真っ黒な服を着た誰かが扉の前に立っていた。顔も帽子で隠されているが、体格と声からして男だろう。


「あなたは?」

「『フレア・ジレンライブ』ってやつから伝言だ」

「……!」


 男は何も疑問に思わなかった。女が壊れてしまったのだと思った。だが、違った。


「『私は聖堂を出る。そこは君たちに託そうと思う。自分勝手ですまない。許してくれとも言わない。だが私は、為すべきことを見つけたんだ』」

「ーーー本当に?」

「『伝えたいことは沢山あるんだが、まとまらなかった。だから、一言だけ……ありがとう。君たちの生が報われることを、勝手ながら願っている』、だそうだ」


 女が勝手なのは分かりきっていることだ。今更どうということはない。そんなことよりも、男は感謝の言葉を聞いて喜びの感情を覚えた。

 女が前を向いたことが嬉しかった。

 女がここから抜け出せたことが嬉しかった。


「悪いけど、料金頂いてもいいかなぁ? 俺、こういうこと仕事にしてるからさ」

「………急だなあ…」


 男は訪問者の話を聞いていない。喜びと驚きに浸っているようだった。


「おーーい」

「……あ、すみません、聞いてませんでした。なんでしょう?」

「お金。これ、仕事の一環なの」

「ああ、分かりました。どれくらいですか」

「これだけでいい」


 訪問者は指を三本立てた。


「すぐに持ってきます」


 男は聖堂の奥に向かった。訪問者はその隙にバタンと扉を閉めてしまった。そして、金を受け取ることなくその場を立ち去った。訪問者は歩きながら魔法を解き、帽子を取って本来の姿を露わにした。

 黒く膝に届くほどの長髪。紫色の瞳、褐色の肌。魔法を使っていた時より背がうんと縮み、服がだぼだぼだった。


「……行こう、トリート」


 訪問者は肩に乗っている小さい何かに話しかける。夜の中ではその小さな姿を認識できない。


『帽子取っちゃっていいのか、お嬢?』

「……邪魔だから。本当は服も邪魔なのだけど…」

『脱ぐなよ!?』

「……脱がない」


 彼女らは誰かに自らの存在を示すこともなく、夜の中に消えて行った。











「すまない。時間を取ってしまった」

「いいですよ」

「さあさあさあ! 出発だー!!」

「なんで領主サマが仕切んのかねえ…あと降りろ。危ねえ」

「あ、クレイ。どこ居たんですか?」

「荷物整理と馬の準備で忙しかったんだ。馬は俺が担当すんだからな?」

「ああ、動物詳しいですもんね」

『お任せください! 誇りにかけて、安全かつ迅速に駆け抜けます!』

「馬が喋った!? しかもカッコいい…」

「アラタにしか聞こえてないっすよ」

「ぅお!? …コラブル。お前驚かすの好きだな」


 想定より大人数での旅が始まる。男は不安を覚えていたが、


「頑張りましょうね、ガイウス」

「……ああ。あまり気張り過ぎるなよ」


 狼の声で、それは少しだけ拭われた。

 想定より賑やかな旅が始まる。

 忘れてはならない。これは、世界を変えるための旅なのだ。


「行こう。初めの行き先は『枯都リヴァイア』だ」


 彼らの旅が始まる。

 世界を巡り、全てを終わらせる戦いが始まる。



 〜激動 終幕〜

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