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第38話 戦闘 暗部

 両者とも一斉に走り出した。敵は武器の重さ故俊敏に動くことができないようだ。俺が一気に距離を詰め、敵を殴り飛ばした。敵は武器の扱いがうまく、巧みに防がれたが、


「うお?」


 威力は十分。敵の虚を衝くことができた。敵は驚いたような声を上げて後方に吹っ飛んだ。


「っとっとっと」


 敵は動じることなく剣先を床に擦らせてバランスをとり、勢いを殺してうまく着地した。壁に激突するかと思ったんだが、冷静に対処されてしまった。あんな重そうな大剣を随分と繊細に扱うものだ。


「まだまだ…!」


 すかさず俺は追撃する。敵に余裕を与えてはいけない。時間をかけすぎるとアッカドが戻ってきてしまう。そのときに領主をやられてしまっては元も子もない。迅速に終わらせねば。


「ほーら、よっと!」


 走り出す俺を見た敵は、掛け声と同時に大剣を()()()


「うわっ!?」


 俺は踵に重心を置いてブレーキを掛け、体を大きく反らせた。大剣は横向きに回転しながら、俺の鼻スレスレのところを通り過ぎていった。少し間を置いて後ろから大剣が壁にぶつかったと思われる大きな音が鳴った。俺は瞬時に体を起こし、敵を捉えた。

 敵もこちらに向かって走り出していた。武器は大剣はだけでないらしく、両手に短剣を握っている。俺は急いで体勢を整え、迎撃のために構えた。


 そして、体術での戦いが始まった。俺は大振りな動きで一撃で敵を仕留めようとし、敵はそれを受け流そうともせずに全て華麗に躱し続けた。何度も敵の頭部を殴ろうとするが全く当たらず、逆にその隙を突かれ短剣で体を刻まれた。一つ一つは大したことないが、蓄積すると冗談では済まない。何より痛い。服も傷つく。

 俺はめげずに攻撃を続けた。腕だけでなく脚も使うが、依然当たらない。蹴りを放ってもしゃがんで避けられ、短剣で首を狙われた。首を切れば殺せると思っているらしい。

 俺は一旦後ろに跳んで距離をとる。どうする。このままではジリ貧だ。

 思考を巡らせる。もうあれをやってしまおうか?

 瞬間、後ろから何かを投げる音が聞こえた。バッドを振ったときに鳴る、空を切るような音。俺は一瞬でその音の正体を察し、焦りながらしゃがんだ。あまりの動揺から、地面を這うような形になってしまった。

 俺の頭の上を大剣が通り過ぎていく。大剣は敵の方へ飛んでいき、敵はそれを平然とキャッチした。

 俺は後ろを振り返った。


「一人でやるわけないだろ? 領主は確実に殺さなきゃならないんだから」

「…さっさと終わらせる」

「二人がかりかよ…!」


 後ろにもう一人、黒いマントを羽織り魔法陣のようなものが描かれた仮面をつけた敵がいた。


「ていうか、今ので仕留めてよ。そのためにこいつの気引いてたのに」

「…次は仕留める」

「頼むよ、ほんと!」


 敵はまた大剣を投げた。俺はそれを避けることに集中する。だが、


「っ!!?」


 案の定後ろからも攻撃を仕掛けられていて、新しく現れた方も俺に向かって短剣を投げていた。それは避けきれずに俺の(もも)の裏に刺さり、また鋭い痛みが俺を襲った。新しく現れた方はそのまま飛んできた大剣を受け取り、こちらに向かって走り出した。大剣はこいつの持ち物なのかもしれない。当然のように俊敏に動いている。もともといた方も短剣を両手に握り、こちらに向かって来ていた。挟み撃ちにされている。

 一気にピンチだ。出し惜しみしている場合ではない。

 俺は敵二人が俺に近づいてきたタイミングで、魔法を唱えた。


「ーー『エンチャント:フレイム』!」


 敵は一瞬動揺したが、動きを止めることはなかった。好都合だ。

 全身を燃やし、もともといた方を殴った。新しく現れた方は何かを察し、瞬時に距離を取った。


「うぐーーーっ!?」


 敵は腕を胸の前で十字に組みガードしたが、俺は殴る瞬間に拳の炎を爆発させ、その腕ごとへし折り吹き飛ばした。今度は勢いを殺すこともできないようで、敵は壁に激突してそのまま床に倒れてしまった。意識が落ちたようで、それから動くことはなかった。新しく現れた方の顔色を伺うことはできないが、動揺しているのかもしれない。


「……貴様」

「こっちは急いでんだ。まだやるってんなら、容赦しねえぞ…!」


 俺はあえて攻撃的な口調で話す。引いてくれるならそれに越したことはない。『フレイム』にはまだ慣れていないし、爆発を起こすこともままならない。

 だが、敵は再びこちらに向かってきた。まあこうなるか。いたずらに殴って爆発させるしかない。

 再び体術での戦いが始まった。だがリーチが違い、俺は敵の攻撃を捌くのに必死で、なかなか反撃に転じることができなかった。

 一撃一撃が重い。敵は両手で大剣を扱っているが、間髪入れずに攻撃を仕掛けてくる。なにせ剣だ、体で防ぐわけにもいかない。俺は大振りの連撃をさっきの敵のように躱し続けた。剣が床につくたびに床が砕け、大きな音が鳴った。

 攻撃しようとしても腕が届かない。どうする。

 対アッカド用に練習していたあれをやるか。もうそれしかない。

 俺は剣身の面の部分を蹴って敵を後退させ、その隙にまた新たな魔法を唱えた。今できる最高の魔法だ。


「『ハイエンチャント:アーム』」


 途端に右腕から力が湧き上がってきた。それと同時に、パンパンに腫れ上がっているかのような圧迫感を感じた。やっぱりキツい…!


「…なんだ、それは」

「俺の全力だ…!」

「…そうか」


 すると敵も、なにかぶつぶつ呟き始めた。


「………『魔女の一撃』」


 最後の一言だけはっきりと聞き取ることができた。やばそうだ。


 俺は右腕を構え、敵の出方を伺う。この一撃で決める。それは敵も同じようで、しばらくこちらを伺っていたが、


「…来ないならこちらから行く」


 痺れを切らしたように俺に向かって走り出した。大剣を構え一気に俺に切りかかってくる。俺はその剣先が俺に届く前に思い切り腕を真っ直ぐ突き出して、()()()()()


「ーーーー!?」


 尋常ではない衝撃波が生まれ、敵を吹き飛ばした。大剣が敵の手を離れて宙を舞い、敵は何枚もの壁を突き破り吹っ飛んでいった。

 ……うまくいった。完璧、イメージ通りだ。

 宙を舞っていた大剣が剣先から床に着地した。すると大剣は床に柄まで突き刺さり、衝撃波が広範囲を伝った。それは壁や天井にも及び、ただでさえ火事で脆くなっていた広間が一気に崩れた。俺は瓦礫に埋れてしまったが、簡単に出ることができた。天井がなくなり、白く輝く月が見えた。


「………マジか」


 危なかった。大剣の方に仕込んでたのか。下手したら本当に死んでた。相性が良かったんだ。一時的に俺の方がリーチが長くなっていたから何とかなったが、魔法を使っていなかったらこれをまともに食らっていた。


「…派手に暴れたな」

「あ、アッカド」

「連れてきた。行くぞ」


 アッカドが誰かをおんぶしている。フードをかぶり顔をアッカドの背中にうずめているので顔は見えないが、背が小さい。これが領主?


「向こうにもいっぱい敵がいたんだが、メイドが一人で守ってくれてた。感謝しろよ」


 …一人だけいたのか、使用人。いないわけないよな。一人もおかしいけど。


「その人は?」

「……その、なんだ、まあ無事だ。気にすんな」

「………分かりました」


 心の中で一言だけ感謝をし、俺たちは領主の屋敷を後にした。












「…アッカド」

「ああ」


 ガイウスたちと合流するため森の中を走っている。合流したらそのままゴッデスを出るらしい。だが、誰かが俺たちを尾けている。俺たちがそれに気づかないはずもなかった。


「誰だ!!」


 アッカドが足を止め、追跡者に呼びかけた。俺も足を止め魔法を使う準備をするが、追跡者はすんなり姿を現した。


「ーーーなんで」

「なんでお前が?」

「……すまない。悪気はなかった」


 そこには、灰色のパジャマと思わしき服の上から少し焦げた白いマントを羽織った、あの燃えるような瞳をした女性が立っていた。

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