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第32話 第二の依頼

「どういうつもりなのかしら」

「さあな。情報がもらえるなら、こなすだけだ」

「もらえるならな…いい加減分かってるだろ? 多分意味ねえって」

「まあまあ、そうカッカするなよ。やるだけやってみようぜ」


 場所はゴッデスの浄水施設前。それは街の北側にあり、そこには服屋や料理店などの私的に運営されている店ではなく、人々の生活に関わっている公共施設が並んでいた。

 依頼の内容はギルドの偵察。ギルドとはすなわち同業組合のことであり、街の照明を担っているギルドや、浄水施設を運営しているギルド、農業を行なっているギルドなどがある。この世界でこれらの仕事に携わるには特定の素質が必要になり、必然的に一部の人間に独占されてしまう。そうなると、人間とはどうしても欲に逆らえない生き物で、不正に料金を上げるところも出でくるのだ。

 今回はギルドが何か不正を犯していないか確かめろと言われた。しかしそれはどう考えても表の依頼である。取引の内容と合っていない。だが、彼らにとってはいい機会かもしれない。向こうから破られているのだから。


「さて、順に回っていくぞ」

「りょーかーい…」

「やる気が感じられないわね…元気に行きましょう。ほら」


 ユーリィがアッカドの背中を少し強めに叩いた。アッカドは少しふらつくが、ユーリィはお構いなしに先を歩いて行った。クレイが横に来て、少しおちゃらけた口調で話しかけてくる。


「仲良いじゃねえか」

「……うるせえ」

「ま、今回はお前さんの出る幕じゃないだろうからな。気楽に行こうぜ」

「ほっとけ」

「…ったく、余裕ないねー」


 アッカドは少し遅れてガイウスたちの後をついて行った。クレイは少しの間その背中を見つめていたが、


「若いねえ…」


 そう呟いて、彼らの後を追った。











「…暇だなー」

「暇っすね…」


 ガイウス、アッカド、ユーリィ、クレイの四人が出てから、俺たちは食卓で暇を持て余していた。依頼が来たらしいが、なんと裏のことではないのだとか。俺は当然留守番を任されるわけで、コラブルは今回は使えないらしいので置いていかれた。しばらく何かを必死に訴えていたが、相手にされなかったようだ。慰めるの大変だった。もう勘弁。


「じゃあ、私とあそぼ?」

「ん? おお、エルリアさん、いつの間にいたんすか」

「何故にさん付け」

「逆らえないっす」

「頑張れよ十九歳…」


 エルリアはコラブルが座っている椅子の後ろにいた。足音もなかったし、そもそもいつこの部屋に入ってきたのか分からない。もう慣れてしまったので、今更驚いたりはしないけど。

 遊ぶか。うん、それがいい。エルリアと色々話したかったし、いい機会だ。


「うん、そうしよっか。何して遊ぶ…」


 ん? あれ?


「…コラブル」

「気付いてるっすよ」

「だよな。気付かない方がおかしいよな、これ」


 俺はエルリアの顔を両手で挟み、顔を近づけて瞳を覗き込んだ。顔が小さいのと俺の手が大きいので、エルリアの顔は両手にすっぽりハマってしまった。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。


「エルリア、その目どうしたの?」

「め? なんかへん?」

「本人は気付いてないんすね」

「でもこれは…ごめん、よく見せてね」


 俺は目と目をさらに近づけ、エルリアの瞳を至近距離で観察する。

 その瞳はエメラルドのように輝いていた。前は確か青っぽかったはず。

 瞳に関することとなると、こちらも当然敏感になる。俺が知っている、瞳の色を変える、もしくは変わってしまう魔法は一つだけ。

 魔眼だ。

 でもまさか、そんなことってあるのか?


「これはガイウスを問い質さないといけないな」

「っすね。それまで遊ぶっす」

「うん……うん? 切り替え早くね? 結構な一大事だよね」

「無知なオイラたちがいくら考えたって何も分かんないっすよ」

「正論パンチ痛え…」

「まふぁー?」

「あ、ごめん」


 しまったしまった、顔から手を離すの忘れてた。首痛くなってないかな。

 …仕方がない。ここは思い切り遊んでやるか。













「ふー。疲れたな」

「私たちはそんなによ。クレイ、結構できるのね。見直したわ」

「ああ。こういう仕事は少し苦手だった。助かった」

「おう、ガイウスに感謝されると嬉しいねえ」


 仕事を終えたガイウス達が、森の中を歩いている。

 もうすぐ家に着くのだが、家の方がなんだか騒がしい。大きな足音、男が叫ぶ声、女児の笑い声が響いてきた。何をしているかはすぐに分かった。分かったからこそ、アッカドは苛立ちを隠せない。

 玄関が見えてきた。瞬間、家の裏から狼が走って出てきた。酷く焦った様子だが、抱えられているエルリアは物凄く楽しそうだ。それを追いかけるようにして今度はコラブルが出てきた。慣性によって狼より長めに滑ったが、すぐに進路を変えて狼の背中向かって走り出した。


「『全力疾走デブ』!!」

「呪文どうなってんだ!!」

「あははは!」


 どうやら家の周りを使って鬼ごっこをしているらしい。狼は体格を活かして大きなストライドで走っていたが、コラブルは指をピンと伸ばし、妙に綺麗なフォームで走っている。足が地面に着くたびに、腹が大きく揺れていた。


「帰ったぞー!」


 クレイが知らせるが、遊びに夢中で気付かなかったようだ。


「いつまで遊んでんだお前ら!!!」


 アッカドが痺れを切らした。家の裏から地面を滑る音がして、それから騒がしい音はなくなった。それを聞き届けた後、四人は家に入った。









「お、お帰りなさい」

「お疲れ様っす」

「ただいま。やっぱり元気が一番ね」

「まったくだ。俺もなんだか肩が軽くなった気がする」

「それは流石に気のせいよ」

「そっか、まあそもそも肩で悩んでないけどな」

「調子狂うわね…」


 遊びに夢中で気づかなかったが、四人が帰ってきていた。アッカドが突然声を張り上げるもんだから、裏でコラブルと衝突してしまった。エルリアに怪我はなかったので良かった。


「どうでした?」

「大きな問題点は見つかんなかったな。あと農業ギルドも見なきゃいけねえんだが」

「なんか申し訳ないっす…頑張ってくださいっす」

「ああ。お前はエルリアちゃんの面倒をちゃんと見とくんだぞ」

「もちろんっす!」


 …今、コラブルとクレイの絆が垣間見えた気がする。そっか、こういう感じなんだ、この二人。


「お前たちに伝えておくことがある」

「どうしました…?」


 エルリアのことを聞こうと思っていたが、ガイウスが改まった態度を示すのでそれどころではなくなってしまった。


「近々、領主を拉致する」

「はい?」

「前から考えていた。今がチャンスだ。取引が破綻してきている」

「それは、そうかもしれないけど」


 そんなことをしたら、


「この国はどうなるんですか?」

「さあな。だが、俺たちの行動に関係なく、いずれ滅ぶだろう。そういう意味でもいい機会だ。そこでだが…」

「……なんです?」


 ガイウスが口籠っている。珍しい光景だ。


「アラタ。お前は、ここにいなくていい。いない方が自然だ」

「…は?」


 唐突になんだ。言われている意味が理解できない。ここにいなくていい、だって? いらなくなったってことか?


「明後日、行動に移す。いたいならいてもいい。自分で決めろ」

「ーーーえ、は? 言ってる意味が…」


 いなくていい。でも、いてもいい。矛盾している。おかしい、おかしいぞ。何を言ってるんだガイウスは。


「ここにいることの意味を、その頭で考えろ」

「……………そんなこと……」


 ガイウスは書斎に戻ってしまった。

 俺は状況を掴めずに、その場に立ちすくんでいた。

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