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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第3章 束の間の平和
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第30話 ただの日常の1ページ②

 ある日のこと。


「アッカド、行きましょう」

「おう」

「どこに行くんです?」

「街以外にないでしょう。依頼があったの。あと食材減ってきたから、アッカドも一緒に行くのよ」

「最近は三日に一回は出てるぞ。コラブル食い過ぎなんだよ…」


 二人はすでに外出の準備を済ませていた。まあ改めて準備することはあまりないしな。


「アラタ! アッカドがいないなら、今日はオレと修行するっす!」

「え? いいけどさぁ…あんますぐにへばんなよ? 俺にとっての修行でもあるんだから。そっちばっかりに合わせていられるほど暇じゃないんだぞ」

「分かってるっす! 今日は頑張るっすよー!」

「毎日頑張ってくれ頼むから」


 コラブルとタメだということが分かってから、俺たちは急激に仲を深めていった。共に修行をしている身だし、ここに未成年は俺たちとエルリアしかいないし、当然の結果ではある。


「クレイー! 抱っこしてー!」

「いいぞー。肩車とかじゃないのね」


 裏庭からはエルリアの元気な声が聞こえてきた。クレイ、ここに来てからずっとエルリアの面倒を見てくれている。そのおかげか最近はあまりエルリアと絡めてないんだけどな…。


 あ、ガイウスは何してるんだろう。自室にいるのかな?


 俺はガイウスの部屋の前に立った。

 いつからかこの部屋に入るのにも躊躇いがなくなった。初めて入った時はすっごい緊張したなあ。

 俺は扉をノックした。


「誰だ」

「アラタです」

「…入れ」


 俺は自然にドアノブを回し、扉を開いた。この入り口ちょっと小さくて、身をかがめないと通れないんだよな。ここに限った話ではないけど。

 中ではガイウスが椅子に腰掛け、書斎机の上には何かの本が山積みになっていた。


「なんの用だ?」

「あ、そのー…何してるのかなーって」


 今思えば随分馬鹿らしい理由で来てしまったものだ。なんだか顔が熱くなってきた。


「そんな事か…精霊について、つまりお前について調べていた」

「俺について?」


 なんでまた。一週間ぐらい前からコラブルとの修行時以外はずっと部屋に篭ってるなーと思ってたんだけど、まさか俺について調べているとは。


「ああ。いくつかおかしな点がある」

「と、言いますと?」


 心当たりがない。周りからすれば存在そのものが変だろうし、何が引っかかっているのだろう。


「お前、どうして人型なんだろうな」

「え」


 そこ?


「クモはクモの姿だっただろう。だがお前は人型。上位種だからかとも考えたが、あのクモも上位種だ。違いがわからん」

「確かにそれもそうですね。なんでだろう」


 俺は書斎机の縁に手をつき、楽な姿勢をとって会話を続ける。ガイウスがそれを気にする様子はない。


「…転生者だから、とか?」

「考えられなくもないが、確かめる方法がないな」

「ですね…」

「もう少しサンプルがあればな」

「怖い言い方しないでくださいよ」

「精霊自体に動物としての本能がないのも気になる」

「…ああ、たしかに」


 動物としての本能か。狼は群れで暮らすとかかな。狼の仲間を探そうと思ったことはない。本当に本能が備わっていないんだ。

 でも人としての本能はあるよな。ご飯食べたいって思うし。どうしてだろう。


「…………」

「…………」


 会話が止まってしまった。俺自身人とのコミュニケーションが苦手なのもあって、ちょっと気まずい。次の話題もないし、もう出ようかな。

 そう思い、俺はついていた手を机から離し、部屋を後にしようとする。かなりぶつ切りな感じだがガイウスなら大丈夫だろう。

 俺が部屋を後にしようとすると、


「ん? なんだアラタ、ガイウスとなんか話してたのか?」


 部屋の前にクレイがいた。外からガイウスに話しかけようとしていたようだ。


「いえ、大したことじゃないです」

「そうか。ガイウスー。エルリアが遊びたいんだとよー。アラタもな」

「俺もですか」


 なんと。そっちから絡んできてくれるとは嬉しい限りだ。でも、


「俺、コラブルとの約束が…」

「分かった、行こう」

「え、本当ですか?」


 ガイウスは承諾した。しかも即答だったぞ。俺の言葉を遮るようだった。エルリアには頭が上がらないんだな。なんでだろ。聞いたら教えて…くれないか、さすがに。


「おにいちゃん、あそんでくれないの?」

「え?」


 廊下の上側から声がする。これもしや肩車してる? 扉を通してじゃエルリアが見えない。


「あそぼ…?」

「…………うん」


 俺は声だけで屈してしまった。我ながらなんて情けない…でも久しぶりにエルリアと関われたし、楽しかったので良しとする(コラブルも一緒に遊んだ。ちなみに隠れん坊で、エルリアとんでもなく強かった)。

 俺たちはそのまま、ユーリィたちが帰ってくるまで童心に帰っていた。















「さて、私はこのまま外側を進んでいくから、ここで待ち合わせましょう」

「買い物そんな時間かかんないんだが、そっちは結構遅くなりそうか?」

「まだわからないわ。情報屋さんからは場所しか聞いてないから」


 時刻は三時ごろ。二人はゴッデスの入り口付近で話していた。女の掌には汗が滲み、消毒液や包帯など軽い医療器具が入っている鞄が手から滑り落ちそうになった。


「あんまり待たせないでくれよ?」

「努力するわ。それじゃあ」

「おう、また後でな」


 二人はそこで別れ、それぞれの目的地へ向かった。












「はあ…ここに来ることになるなんて」


 ユーリィは小さな聖堂の扉の前にいた。今日の依頼はあの女性からだった。

 聖堂の壁や屋根を修理しているらしく、かつて家にいた男たちが梯子に登り、ペンキやら金槌やら木版やらを持っている。ユーリィは男たちと目が合い、軽く会釈した。


「嫌だったか?」

「え!? あ、いやー、あはは…」


 女が中から出てきた。服装は以前ここで見たものと同じ黒いワンピースに白いマント。

 先程の独り言が聞こえてしまったらしい。ユーリィは笑って誤魔化そうとした。


「来てくれ」

「ええ」


 ユーリィは女に連れられ、聖堂の奥の部屋へと招かれた。

 かなり質素な部屋だ。棚が一つとベッドがニつ。それだけだった。窓からは昼の日光が注いでいて、少し暑い。壁は黒く汚れていて、この聖堂の古さが顕著に現れていた。


「しかし、噂に聞く医者さんが貴方だったとは」

「あら、知らなかったの?」

「ああ。知人から話を聞いただけで、姿、性別さえも知らなかった」


 となると、この再会も偶然ということになる。女たちは何か奇縁で結ばれているようだった。


「それで、この人が怪我人かしら?」


 ユーリィは鞄を床に置きベッドの脇の椅子に腰掛け、鞄の中に手を入れ治療の準備をする。

 ベッドには見覚えのない男が仰向けに横たわっていた。頭には雑に包帯が巻かれていて顔は少しやつれ、なんだか苦しそうだった。


「ああ。今朝から聖堂の壁の塗装や掃除をしていたんだが、高い位置を梯子(はしご)を使って掃除しているときに、バランスを崩して落ちてしまったんだ。それから寝込んでしまっている」


 ユーリィは話をもとに考える。落ちた時に頭を強く打ったか何かの病気か、体調を悪くして梯子から落ちてしまったのか。

 本人から話を聞くことはできないので、ここはまず魔法で確かめることにした。


「失礼するわね」

「ああ」


 ユーリィは男の額に手を当て、軽く魔法を使った。治癒の素質なれば、診療も可能なのだ。


(…脳震盪かしら)


 包帯が巻かれていることからも頭に怪我を負っていることは明らかだった。ユーリィが確かめたかったのは怪我ではなく目覚めない原因であり、頭の怪我は重症ではなかった。他に考えられる原因は、


「この人、ちゃんとご飯食べてるのかしら? 少しやつれているようだけど」

「…それが、最近はあまり食べたがらないんだ。配るためだとか、以前無駄に食べすぎたとかで。でも今朝は…まさか今朝も?」

「そう、じゃあそれが原因かしら。大きな怪我はなかったわ。栄養が足りてないのよ」

「そ、そうなのか?」


 女たちが話している途中で、


「…ぅーん。ん?」

「あ」

「起きたわね…」


 男が目を覚ました。のっそりと体を起こし、ユーリィを見た瞬間表情が暗くなった。


「もしやお医者様ですか? 申し訳ない、自分で体調管理できないばかりに…」

「いえ、無事ならそれが一番。これから気をつければいいのよ。野菜類と炭水化物はちゃんととってね。あと、徹夜もしすぎないように」

「は、はい、分かりました」

「とりあえず包帯巻き直すわ」


 ユーリィは雑に巻かれた包帯を外して傷口を丁寧に消毒し、慣れた手つきで真っ白な包帯を巻き直した。


「はい、終わったわ。じゃあ私はこれで。料金は……三十キルマってとこね」

「あ、ああ」


 女はユーリィに銀貨を三枚手渡した。


「それじゃ」

「お待ちください。せっかくいらしたのですから、お茶でもいかがですか?」

「いえ、結構です。私は客じゃないのよ? 何かあったときにまた呼んでくれればいいわ」


 そう言い残してユーリィは部屋を出た。そしてまっすぐ出口を目指し、外に出た。十分ほどしか経っていないので、外の景色はほとんど変わっていない。


「待ってくれ!」


 女がユーリィを呼び止めた。ユーリィが振り向くと、女は黒いワンピースの裾を揺らしながら走ってきていた。


「何かしら?」

「いや、その、少し話を聞いてくれないだろうか」

「なに、物申したいことでも?」

「いや、そういうことではなく。その、愚痴なんだが…」


 女同士でしか話せないということだろうか。彼女の周りに女はいないし、予定よりだいぶ早く終わったので、ユーリィは聞くだけ聞くことにした。


「いいわよ」

「あ、ありがとう」


 二人は聖堂内の長椅子に腰掛け、女は語り出した。










 おそらく知っていると思うが、私は貴族の生まれなんだ。

 先日、いろいろあって父様と喧嘩してしまってな。父様は過去の威光にすがってばかりなんだ。私の…この髪色を貶すし。金髪でもいいだろう? 偏見が過ぎるんだ。

 それで、変なことを考えている。一度は私を追い出しておいて戻ってこいだなんて、都合がいい。私が必要だなんて…もうあそこには行きたくない。だが私は、行かなければならないんだ。もう後戻りできない場所にいる。私はどうすればいい?





「…………えっと」


 どうやら伝えたくない部分もあったらしく所々曖昧に説明していたが、曖昧にしすぎではないだろうか? ユーリィは話の本質を全く理解できなかった。

 とりあえず、


「あなたのやりたいようにやるのが一番よ」


 とだけ伝え、ユーリィは聖堂を後にした。会話はユーリィの一言を最後に終わった。


(今から行けば、ちょうどアッカドと合流できるはず)


 それだけ考え、ユーリィは合流地点に向かった。








「…やりたいように、か」


 女は逃げたいわけではないのだ。

 どこに行けばいいのだろう。

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