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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第3章 束の間の平和
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第27話 業火と服

「アラタ君はこっちきて」

「はい」


 俺はユーリィに連れられ食卓に来た。流石にユーリィの部屋じゃないか、よかった。


「じゃあ身長計るわよ」

「身長…わかりました」


 ユーリィは近くの棚からメジャーのような物を取り出し、足先に先端を置いて、俺の頭のてっぺんまで伸ばした。紙でできてるのか、摩擦音が滑らかだ。ユーリィは少し背伸びをしていた。書いてある文字は読めないが、数字のようだ。


「高いわね…お金かかるかも」

「なんかすいません」

「いいのよ。でもここまで身長が高い人ってあまり見かけないし、合う服あるかしら」


 確かに、街に出た時に俺より目線の高い人はいなかった気がする。ガイウスとアッカドも割と高い方だけど、俺よりは低いよな。

 腕や足の長さ、太さなどを計り計測を終えた。時間はそんなにかからなかった。


「じゃ、買ってくるわね」

「はい。ありがとうございます」


 ユーリィはアッカドを呼びにいった。











 アラタが食卓に連れられた後、男たちは話していた。


「ボス、ちょっといいか」

「なんだ」

「俺は納得してねえぞ」


 それは狼のことだ。アッカドはその勇姿をガイウスから聞かされた。だが、ならば尚更アラタがここに入るというのはおかしなことだった。

 彼らの目標は魔法を消すことだ。狼はその意味が分かっているのだろうか。


「なんであいつを入れた」

「入れたのはエルリアだ」

「はあ?」


 間違ってはいない。狼はエルリアに「家族になろう」と持ちかけられた。それはもともとここにいた彼らも同じだった。だからこそ、あの子が「なる」と言ったらなるのだ。それがガイウスの考えだった。ガイウス自身も、その選択が正しいと思い始めている。だが、


「俺らの意見を聞いてくれてもいいんじゃねえか?」

「……………」


 家族なれば、互いを尊重することも必要である。

 彼は納得していない。狼を嫌っているわけではないが、狼を入れるということはつまりそういうことであり、ガイウスを責めなければいけなくなる。


「あいつは馬鹿じゃない。覚悟の上でのことだろう」

「んな想像だけであいつを語んなって」

「分かっている。教えられることを教えてからでも遅くはないだろう」


 狼が入るにしても辞めるにしても、彼が生きるには強さが必要なのだ。確認はその後でいい。


「アッカド、行くわよ」


 ユーリィが裏口から呼びかけた。外出の準備は終わっているようで、右手に大きな手提げ袋を持っている。アッカドに荷物持ちをさせる気だろう。


「ああ、わかった」


 アッカドは彼女のためにここにいる。荷物持ちをこなすのもやぶさかではない。だが、狼のためにここにいることは、そもそも彼がここにいては出来ないのだ。

 狼はそれを分かっているのだろうか。












 場所はゴッデスの一般人向け服屋。既に日が暮れようとしていて、人通りは昼と変わらないが、人々のやることは仕事から飲み会へとシフトしていた。


「これ、日没には間に合わねえよな?」

「当然でしょう、徒歩で移動するんだから。間に合うってのは嘘よ。ガイウスはわかってたかもしれないけど」

「帰りぐらい走っちゃダメか?」

「森からならいいんじゃないかしら」

「森はちょっと走り辛えんだよなあ…」


 彼らはその店にある最も大きい服を店員に頼み、到着するのを待っていた。隣では白いマントを羽織りフードをかぶった人が、何かをずっと探している。ユーリィとアッカドは無視して話をしていたが、その見覚えのある姿を意識せずにはいられなかった。


「あの、少し伺っても? 今私が着ているようなマントを探して…」


 マントを羽織った女性が話しかけてきた。長いことこの場で待っていたからか、店員と間違われたのかもしれない。途中まではよそ見をしながら話しかけてきていたが、こちらを見た瞬間、動きが止まった。


「…………貴方は」

「お久しぶり。まあ数日しか経ってないけど」


 ユーリィは平然としている。アッカドは逃げるように何処かに行ってしまった。女の相手は苦手なのだろうか。ユーリィがこの空気をなんとかするしかない。


「あなた、マントを買いにきたの?」

「あ、ああ。今日突然人が増えたものだから、足りなくなってしまった」


 ユーリィはそれを知っているが、この女性はそれを知らないだろう。悟られないように話を広げる。


「そのマントって、何か意味があるの?」

「それは…実は分からないんだ。恥ずかしいな、何も知らないなんて」

「ならどうしてそれを買いに来たの?」

「ライ…いや、もともといた青年が重要だと言っていたのでな」


 空気が一瞬で重くなった。彼女らは互いのことを知っているのだ。その話題はユーリィも避けたい所だったが、触れてしまったのなら無理に避けるのも不自然だろう。ユーリィは勇気を出して話しかける。


「…ごめんなさい」

「え? いや、あれはお前たちは関係なかったのだろう」

「あるのよ。私たちのせいだわ」


 あの日彼を訪ねていなかったら、青年は死んでいなかった。だがその訪問は必然的に行われるものだった。彼の死は、彼らが依頼を受けた時から避けられるものではなかった。


「いや、もういいんだ。もういいんだよ。彼は帰ってこない。ならば、彼が望む世界を作るまでだ」

「……そう」


 女たちの間に気まずい空気が流れる。それは決して険悪なものではなかったが、互いに罪悪感を抱き、この場をなんとかしようとしていたユーリィは既にその空気に呑まれ、第三者の助けを必要としていた。


「申し訳ありません、種類は上と下一つずつしかございませんが、それでもよろしいですか?」


 店員がいいタイミングで来た。その隙にマントを羽織った女はその場を離れ、人々の中に消えていった。マントはここにはなかったようだ。外観的にもあるはずないのだが、女は服装には疎く、おそらく街中の服屋をハシゴすることになるだろう。


「どんなものかしら?」

「店長が趣味で作っていた物なのですが、それだけ背が高いと、合うのはこれぐらいかと…」

「……わお、いい趣味してるわね店長さん」


 ユーリィは服を見せられ、思わず店長を褒めてしまう。それは一般受けするものではないだろうが、狼には間違いなく似合うと思わせるものだった。ズボンも一緒に持ってきてくれていて、長さや太さを確かめた。狼でも着れる大きさだったので、会計を済ませ、持ってきた手提げ袋に服を綺麗に畳んで詰めた。


「お、いいじゃん」


 いつの間にかユーリィの背後にいたアッカドが中を覗きながら耳元で話した。


「アンタ…恨むからね」

「悪かったよ」


 アッカドは謝罪の意を示すかのようにユーリィの手からから荷物を持ち去り、家に向かって歩き始めた。ユーリィは少し間を置いてから、その後について行った。











 外は既に真っ暗。俺とガイウス、エルリアは食卓でユーリィたちの帰りを待っていた。日没までに間に合うわけないよな…気づくべきだった。今週のご飯担当はガイウスだから晩ご飯は大丈夫だけど、あまり遅くなると心配だ。


「……ちょっと!!」

「怒んなよ。しょうがねえだろ…」


 外から何かが高速で走る音がしたかと思うと、それは俺たちの玄関の前で停止し、男女二人の声が聞こえてきた。


「ただいまぁっ!」

「…もう!」


 アッカドが右腕に少し膨らんだ袋を下げ、ユーリィをお姫様抱っこしながら足で扉を勢いよく開けた。


「…遅かったな」

「どういう…どういう状況ですか?」


 普通に聞く。当然の反応だろう。


「いやさあ、あんまり遅くなるといけねえと思って走って帰ろうとしたんだけど、ユーリィ足遅いからさ、こうして担いできたわけよ」

「これは担ぐって言わないわよ…ああもう、早くおろして頂戴」

「わりぃわりぃ」


 アッカドはユーリィを足の方から丁寧に床に下ろした。ユーリィは顔が赤く、何かをぶつぶつと喋っていた。


「…とりあえずこれ着てみて。上下二着あるけど、同じものが二つずつあるだけだから」

「はい」


 ユーリィが俺に少し膨れた手提げ袋を手渡した。割と重い。

 俺は部屋に戻り、中から服を取り出した。おっとこれは…。

 着替えはすぐに終わった。俺は再び食卓に向かい、ゆっくりと扉を開いた。反応が怖いが、どうだ…?


「こういう感じですけど…」

「「…おおーーー」」


 ユーリィとアッカドが同時に声を上げた。悪くない反応だ。

 俺は革でできた大きな上着に、ジーンズのようなものを履いている。どちらも黒だ。ベルトはつけていない。後でガイウスから借りようか。

 ちなみにそれだけだった。胸や腹は普通に露出しているが、


「茶色い毛が生えているし、全裸でも服着てるみたいなところはあったのよね」

「上着着るだけでも結構変わるなあ。安心していいぞ。全裸には見えねえし、サイズもいい感じだな。似合ってるじゃねえか」


 結構褒められた。恥ずかしい。


「終わったか」


 ガイウスは冷めてるな。興味ないのか。らしいっちゃらしいけど。


「ええ、満足よ。もうちょっとバリエーションがあったらよかったんだけど、やっぱりそこまで大きいとね」

「いえ、十分です。ありがとうございます」


 革製の服なんて初めて着た。ワクワクしてしまうな。


「お前たちは飯を食え。俺は部屋に戻る」


 せめて感想くらいは欲しかったなあ…くれたらくれたでなんかあれだけど。


「俺も部屋に戻ります」

「そう。あ、それ着て寝ないでね」

「じゃあ何着て寝れば?」

「タオルでも巻けばいいんじゃねえか?」

「…そうします」


 それ以外ないように思えたので、そうすることにした。まだ寝る時間ではないが、特にやることもないのでもう寝よう。

 俺は上着とジーンズを脱ぎ、腰あたりにタオルを巻き、石の床に横になった。

 実はここに来てから、この石の床で寝るのにハマっている(他に寝る場所がないというのもあるが)。この体だと体が凝らないし、少しひんやりした感じが気持ちいい。

 俺はそのまま眠りについた。

 明日は何をしようか。

 きっと良い日になるだろう。

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