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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第3章 束の間の平和
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第24話 男たちの分岐点

「やっぱりちょっと遠いですね」

「きついっす…」

「いいダイエットになるだろう」


 家を出て一時間ほど経っただろうか。俺たちは男たちを連れて、森の中を休むことなく歩いている。ちょっとは休みをとってもいいんじゃないかと思うけど、もしやエルリアのことを根に持っているのだろうか。

 ゴッデスは前にも話した通り円形で、周りを森で囲まれている。森とゴッデスの境界線には鉄格子が建てられていて、あの小さな聖堂は鉄格子のすぐそばにあったので、男たちを森の中から直に送ることができるはずだ。

 しかしその分距離も遠くなる。俺は平気だけど、太っちょがきつそうで…。


「休みたいっすー!」

「着いたら休めばいい」

「ひどいっす…膝が痛いっす…」

「リアルなやつやめてください」

「あと腰も痛いっす…足の骨も痛くなってきたっす…」

「本当ですか? ガイウス、ちょっと休みません?」

「あまり時間をかけたくない。もたもたしていると時間が来てしまう」

「時間?」

「着いてからのお楽しみだ」

「お楽しみ…」


 ガイウスの口からお楽しみという言葉が聞けるとは。ついて来た甲斐があるな。


 それから結構時間が経った。やっと聖堂の近くまで来たようで、聖堂の側面が見える。結局ずっと歩きっぱなしだったので、太った男だけでなく他の男たちも疲れ果てている。森の地面って平らじゃないしな、無理もない。

 鉄格子の向こう側には人がちょっとだけいる。小さい子たちが遊んでいたり、女性が洗濯物を干していたりしている。聖堂は住宅街の中にあるのか。前は気づかなかった。ほとんどの建物は年季が入っているし。

 そんなに近くにいるわけではないが、普通に格子を乗り越えさせようとすれば注目されてしまうだろう。人数多いし。どうするつもりなんだ?


「アラタ、こっちへ来い」

「はい」


 俺はガイウスに呼ばれ鉄格子の目の前まできた。


「よし、やるぞ」

「はい…あ、え?」

「どうした」


 待て待て待て。


「このままやるんです?」

「ああ」

「多分近くの人に見られますよ?」

「大丈夫だ。見てみろ」


 ガイウスは聖堂の入り口を指差し、ちょうど同じタイミングで中から男が出てきた。髪や髭は手入れされておらず、顔は少しやつれている。しかし服装には気を付けているようで、質素な茶色のシャツと長ズボンに白いマントを羽織っている。

 そのマントには見覚えがあった。その男にも。


「…ガイウス、あの男って」

「ああ、あのホームレスだ」


 酒場から出た時に会った、あのホームレス。道ゆく人に何かをせがんでいただけの、生きる努力をしていなかった、あのホームレス。

 ホームレスだった男はカゴを持っている。周りにいる人を呼ぶ仕草をし、子供たちが集まってきた。

 ホームレスだった男はカゴから食料を取り出し、笑顔と共に子供たちへ手渡した。

 食料を配っているのか。


「この辺りには貧民が集まっている。男は働くために中央に行っているが、働き手過多のこの国では、一度仕事を追われると新しい職につくのは難しい。辞める場合は雇い主が新しい職場を用意するのが普通なんだが、それでも見つからない時も当然ある。そう言う人間は徐々に外側に追いやられていくんだ。土地が安いからな」

「解決する方法はないんですか?」

「ある。その一つが領土拡大だ。国民からすれば、今働けていてもいつ職を失うか分からない。だから隣国の吸収を強く望んでいる」


 なるほど、ただ国の威厳のために広げたいってわけじゃないのか。仕事をするために、仕事を失わないために。そりゃ民主派が伸びるわけだ。もうちょっと穏和にやれば、あっという間に政権を握れるんだろうな。


「あの男は何で食料を配っているんでしょうか」

「この辺りの人たちのためだろう。つまりは助け合いだ。重要だろう?」

「それはそうですけど」

「こっちへ来てみろ。…いや、辛いかもしれないが」

「…? 行きますよ」


 ガイウスは俺を聖堂の裏側が見える位置に案内した。

 そこには畑があった。そしてその端の方には何かが建てられていて、俺はそれをはっきりと捉えることができた。あれはお墓だ。おそらく、あの青年の。


「これは情報屋から仕入れた情報だがな、あの男、食料が配られなかったからか昨日ここまで来たらしい。それであの青年が死んだことを知った。するとあの男は、あの青年の役割を引き継ぐと言った」

「引き継ぐ…」


 つまりは恩返し、のようなものか。

 助けてくれたから、無償で恵んでくれたから、今度は自分が何かしようとしているのか。

 あの青年は死んでしまった。あの青年が誰かを救うことはもうない。だから、自分がその役割を担おうと。青年の代わりに、自分が誰かを救おうとしているのか。自分が救われたように。


「ガイウス」

「なんだ」


 俺は人の情の力を目の当たりにしながら、願いの力を実感しながら、ガイウスに尋ねる。


「何もせず誰かを頼るのはいけないことですけど」


 だけども、


「頼らせてくれたから何かをなそうとするのは、どうなんでしょうか」

「ふむ、それは」


 ガイウスはすぐに答えを返してみせた。


「それもまた一つの生き方だろう。あまり褒められたものではないがな」

「…そう、ですよね」


 一つの生き方。あの男は今、生きる努力をしている。

 決して裕福ではないのに、生き生きとしているのはなんでだろう。


「あの男が食料を配っている今がチャンスだ」

「はい」


 そう言い俺たちは、男たちを格子の向こうに送り始めた。そこそこの高さなので、この男たちが一人で乗り越えるのは難しいだろう。俺たちが手を貸して、一人ずつ乗り越えさせていく。

 太った男は最後だった。重そうだが、今の俺なら大丈夫だろう。


「自分は行かないっす!!」

「はい?」

「何故だ」


 話が違う。あれ、そういえばリーダーはそもそも来ていないじゃないか。


「この人たちのリーダーは?」

「……あの男はうちに入りたいそうだ」

「え」


 聞いてない、聞いてないぞ。どういうことだ。連れてきてないってことは、入れる気があるってことか?


「自分は、リーダーについていくって決めてるっす!」

「なぜ今更言う」

「今決めたからっす!! 自分は、コラブル・トンガって言うっす!」

「勝手に自己紹介をするな」

「皆さんの名前は知ってるっす! 聞いてたっす!」

「おい。話を聞け」

「自分は、残るっす!」


 そんなこと言っても。


「家族はどうするんですか」

「家族はおばあちゃんだけっす。他の人たちは死んじまったっす。病気とか、怪我とかで。私生活でも、リーダーにお世話になったっす。面倒を見てくれたっす。おかげでこんなに太っちまって、恩返しがしたいっす」

「……全く」


 あのホームレスだった男に感化されたのか。俺とガイウスの話を聞いて。


「おばあちゃんが心配しますよ」

「おばあちゃんは…大事っすけど、リーダーの方が大事なんすよ」


 なにか事情があるようだ。話そうという意思は見受けられない。


「こちらにメリットはあるのか?」

「役に立つっす! 雑用でもなんでもするっす!」

「何ができる」

「できることは、できることは…きっと、なんかあるっす!」

「話にならんな」


 ガイウスは冷酷に突き放した。この男まで入るとなるとさすがに人が多すぎるのか? でもこんなに必死なのに。


「入れる気はない。住む場所という話なら、地下牢は貸してやれるがな」

「それでいいっす!」

「…なに?」


 コラブルさんはくじけずに説得を続けた。


「扱いはなんでもいいっす! だから、あの場所を貸して欲しいっす! 恩返しがしたいんすよ!!」

「…あそこを貸せと言うか」


 ガイウスの反応が少し変わった。必死さが伝わったのだろうか。

 ガイウス相手によく言ったものだ。気が強いというわけではない。それほどまでに為したいことがあるのだろう。


「……はあ。いいだろう。使えるようになるまで教育してやる。入れるかどうかはその後決める」

「あ、ありがとうっす! でも、教育…?」

「教育…」


 不穏な響きだ…しかし、あの場所に置くことにしたのか。いよいよ食費が凄いことになりそうだが、このコラブルという男、きっと良い人だ。甘い部分はあるだろうけど。

 あの家もいよいよ賑やかになるな。


「俺たちはこれからどうすれば?」

「あの聖堂に殴り込め。お世話になるのではなく、あの元ホームレスのように働くんだ」

「は、はい」


 男たちは聖堂に向かって歩き出した。きっと上手くやるだろう。確証はないけど、なんとなくそんな気がする。


「行くぞ」

「はい」


 俺とガイウス、コラブルさんは再び家に向かって歩き始めた。

 聖堂から目をずらした瞬間、別の人影が目に入った。白いマントを羽織り、髪はフードで隠されている。

 真っ赤な瞳をしていた。

 かつては憎悪で燃えていた、あの瞳だ。

 あの女性も、まだあそこにいるのか。

 ならきっと大丈夫だな。









 その女は、狼の真っ青な瞳をはっきりと捉えていた。

 何を考えていたかは誰にもわからない。

 しかしあるいは、赤の他人から見たら、羨望の眼差しを向けているように見えたかもしれない。













「コラブルさん、休まなくて大丈夫ですか?」

「大丈夫っす…」

「これぐらいで音を上げられては困る」


 大きな変化が訪れている。

 これまでに無かった変化の波が、彼らに押し寄せている。

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