第21話 盗聴の正体②
俺は部屋に戻ってきた。掃除の続きをしないと。この部屋石製だし汚れが見にくいので、丁寧にやらないといけない。ぬいぐるみは元あった位置へ戻しておいた。
そういえばこの部屋に窓がないのも、外からエルリアを見えないようにするためか? そもそもこんな森の中に来る人なんていないし、そんなことする必要ないと思うんだが。
「天井の埃もこれ使ってはたき落としてね」
「あ、はい」
そう言われ長いはたきを渡された。天井も綺麗にするとはいよいよマニアっぽいな。
俺ははたきを右手に持って天井を優しく叩いていく。あまり埃は落ちてこない。ユーリィの背でもこの長さのはたきなら十分届くだろうし、日頃から清潔に保たれているのだろう。普段からこんなところまで掃除しているとは、よほどの綺麗好きなのか。
確かに部屋を見渡すと、四隅までしっかり掃除されているのがわかる。ベッドのシーツとかも相変わらず綺麗だ。
「ユーリィって本当に掃除好きなんですね。ベッドまで清潔だし」
「あー、ベッドはね、たまにしか洗わないの。あんまり使われてないから」
「エルリアが使ってるんじゃ?」
「あの子はガイウスと一緒に寝てるのよ」
「な…んだと…」
俺ははたきを落としてしまった。
なんだその尊いシチュエーションは!? 美少女とイケメンが一緒のベッドで寝てるのかよ。そんなに深い仲なのか、あそこって。でもガイウスの部屋って書斎っぽいし、ベッドなんかなかった。
「ガイウスはどこで寝てるんです?」
「シルフィーの小屋よ。エルちゃんってこの部屋で過ごすことほとんどないのよね」
「へー…」
そもそも使わないから窓なんていらないのか…じゃあ遠慮なく使わせてもらおうかな。物には触りませんから安心してください。
しかし、だとしたらエルリアは普段なにをして過ごしているのだろうか。ゲームとかの娯楽はこの世界にはないみたいだし、子供用の玩具も見当たらない。あの年頃の子って結構体力あるはずなんだけど。
「まてーーーーーい!」
「あはは! こっちだよーーー!」
「本当に勘弁してくれ…」
外から声がした。アッカドとエルリア、最後に聞こえたのは男たちのリーダーの声だ。遊んでくれてるのか、親切だな。おそらく鬼ごっこをしていて、二人でエルリアを追いかけてるのかな?
以前はアッカドと遊んで過ごしてたのかな。それなら合点がいく。アッカド結構若いし、面倒見も良さそうだ。
「いくぞぉぉぉ…せえぇの、とんでけええぇぇ!!」
「わああああぁぁぁ……」
「うわ!? ちょ、上げすぎだろお前!」
「……ぁぁぁぁあああ! あはは!」
「相変わらず肝が据わってんなあ。もっかいいくかっ!?」
「やめてくれ…俺の心臓がもたない…」
「おじさーーん」
「おじさんだなあ」
……なにしてるんだろう。気になるけど見たくはないな。
俺は作業を続けながら考え事をする。
そういえば、男たちのリーダーの性格が全然掴めない。とんだゲス野郎かと思えば、今は子供に付き合わされるおじさんだ。エルリアを心配している様子だし、あの子を蹴ったとは思えない(腕を折った、最低だよね)。
エルリアも今はちっちゃい子って感じだ。魔法を教えてくれたときとはまるで様子が違う。信用はしているが、正直に言うとあの子にも何かあるのではと思っている。ちっちゃい子はとんでもない『たかいたかい』をされて笑ってられないよな。変人ってことか?
しかしこの家にも慣れてきたな。最初起きた時はどんなことを思ったっけ? 美少女になってて、尻尾切り落とされそうになって…。
そこであることを思い出した。
そういえばクモがいた。
最近は全然出てこないな。あのクモ、かなりデカかった。あれぐらいのサイズのクモは巣を作ってるはずだよな。でもそんなの見当たらないし、掃除のために細かいところまで見たけど、クモ自体も見かけていない。
というかなんでこの部屋にいたんだろう。使われていないとはいえ、ユーリィがちゃんと掃除していたらしいし、綺麗な場所にクモって湧くのかな。外から入ってきたのか? いや、この部屋窓ないし、クモが通れるほどの隙間もない。裏口から廊下を通って? …なくはないけど、うーん、気になるな。
地下に行った可能性もある。念のため見ておくか。
「ユーリィ、地下牢も掃除しませんか?」
「いいわよ。でも結構ハードよ?」
「大丈夫です。今の俺はなんでもできるので!」
「張り切っちゃって…ありがとね」
「………いえ、やりたいことをやっただけです」
ユーリィは少し辛そうな表情をして俺に感謝を述べた。やりたいことをやっただけと言う言葉に嘘はない。ユーリィが痛がる必要はないのだ。
ユーリィは壁のスイッチとなっているブロックを押して地下牢への道を開け、俺が先導してユーリィと一緒に地下牢内に入った。
「わあああ! 結構汚いわね!?」
「嬉しそうですね…」
「ええ! ここは汚れを溜めて一気に掃除するようにしてるの! 今回が一番溜めれてると思うわ!」
「……そっすか」
突然のハイテンションについていけない。溜めれてるってなんか変な言い方だなぁ。
ユーリィの言葉通りかなり汚かった。ジメジメしているしユーリィが意図的にほっとくので、カビが生え放題なのだ。この光景は割と心にくる。早めに終わらせよう。
ユーリィは鼻歌まじりで掃除をしていた(可愛かった)。それに安心しつつも俺はクモを探した。ここならいてもおかしくないと思ったんだけど、見当たらない。
「ユーリィ、ここって虫とか湧かないんですか?」
「虫? なに、嫌いなの?」
馬鹿にした言い方だ。否定できないのが悔しいが、今は別の言い訳がある。
「いえ、初めて目覚めた時でかいクモを見たので」
「…それ本当?」
「え? 本当ですけど…」
「おかしいわね。エルちゃん虫が苦手だから、ガイウスが対策してるはずなんだけど」
「対策?」
「虫が嫌いな成分かなんかを撒いたとかで、この家には近寄ってこないのよ。魔力込めてるから効き目抜群のはずよ」
「そんなことできるんですか…」
本当に魔法って便利だな、なんでもありじゃないか。
しかし、だとしたら。
「時期も合いますよね」
「…そうね」
ユーリィも察してくれたようだ。
エルリアが襲われる前から盗聴されていた。うん、時期は合っている。それにユーリィの話が本当なら、普通あの部屋に虫は湧かないということだ。いるなら地下牢だが、いない。虫が何処かに隠れているということは特別おかしなことではないし、あの後で逃げた可能性もある。
決定的におかしな点はない。が、ちょっとおかしい。そもそも近寄らないようにしているらしいし。
俺がここまで怪しむのには理由がある。一つは、この世界には魔法があるから。どんな魔法を使って盗聴されているか予想できない。もう一つは、この世界には人以外にはっきりと自分の意思を持った存在がいるから。例えば、俺のように。
あのクモが精霊だとしたら、どうだろう。
「こっち終わったわよ。手伝いましょうか?」
「大丈夫です。こっちももうすぐ終わります」
考えるだけではわからない。探さないと。でもただの虫の可能性もあるし、見つかるかなぁ…。
ユーリィと俺は掃除を終えた。結構暗いのでぱっと見では分かりづらいが、かなり綺麗になったと思う。俺はバケツを持って先に階段を上がった。どうやって探そうか…。
エルリアの部屋の床が水平に見える位置にまで階段を登ると、
「…………マジか」
クモがいる。まさしく話していたあのクモだ。ラッキーすぎる。クモはこちらには気付いていない。俺がバケツを叩き音を立てると、クモはこちらを向いて、
『あ、やべ』
「今やべっつった?」
『あ、やべ! あ、やべ…あ』
「……………ユーリィ、盗聴生物見つけました」
「…ウソでしょ?」
俺たちは、馬鹿な盗聴器ならぬ盗聴生物を見つけることに成功した。




