第21話 盗聴の正体①
「戻った」
「おう、お帰り。遅かったな」
「ああ。こいつの目が覚めるのを待っていた」
「お疲れ様。火傷したって聞いたけど、大丈夫だった?」
「はい、なんとか」
俺たちは家に戻ってきた。八時ごろか。今日はまだ始まったばかりだが、俺はもう昼かのように感じていた。
ユーリィとアッカドは椅子に向かい合って座って待ってくれていた。火傷のことを知ってたってことは、ある程度のことはガイウスが連絡していたのだろう。
ガイウスはアッカドの隣に座り、俺も空気を読んで向かいに座った。
「体の調子はどうだ」
「バッチリです」
ガイウスが尋ねてきた。かなりの重症を負ったはずだが、俺の体はもう完治していた。というかいつもより調子が良い気がする。
「エルリアの様子はどうですか?」
「まだ寝てる。男たちが面倒見てくれてたわ。彼ら結構真面目よ? エルリアの様子詳しく教えてくれたし」
「あ、ユーリィたちはどうだったんですか?」
議会の調査をしていたはず。結果はどうだったのだろう。
「あー…それがね、なにもなかったわ」
「なにも?」
「ええ、怪しい様子はなにも…いや、一個あったかしら。人が少なかったわね」
「ふむ、それだけじゃなにもわからんな」
「悪いな。成果挙げらんなかった」
「まあいい。あと、こいつを正式に入れる」
「あらそう…」
「「「……ぇぇええええ!?」」」
三人で椅子から立ち上がり、大声をあげてしまった。当然の反応だ。正式に? 俺を!? 急すぎる。嬉しいがなにが決め手になったんだ!? 心当たりはあるけども!
「なんで? なんで!? いやいいことよ、仲間が増えるのは」
「なんでもだ。あと、依頼はしばらくない。目立ち過ぎた。すまない」
「それは、まあ、いいけど」
ユーリィはガイウスの謝罪を軽く受け流した。その様子からはユーリィの真意が透けて見えた。
「人が増えんのか…いや、動物が増えんのか?」
「え? ああ、そっちがいいと思います…?」
アッカドの言葉に複雑な気持ちを抱いたが、そんなことはもうどうだっていい。
ガイウスは認めてくれたようだ。しかもしばらく依頼がない。何もかもがいい方向に転がっている。あの時諦めなくてよかった…!
「あ、それじゃあ自己紹介しましょう?」
来た。ついにこの時が来た。俺の名前は日野新。大丈夫、覚えてる。よし、言うぞお。
「いや、それはあとにしよう」
「なんで!?」
大声を上げてしまったが仕方がない。やっとちゃんとみんなの名前を聞けると思ったのに。どうしてだ?
「盗聴されているかもしれないだろう」
「あ」
そういえばそうだった。自己紹介はそれを見つけ出してからか。いつになることやら…俺視力良くなってるし、割とすぐ見つかるかも?
「盗聴の方法が分かるまでは、あまり個人情報を喋るなよ」
「りょうかーい」
「じゃあ私掃除してくるわ」
「好きだなお前…」
みんなそれぞれやりたい事をやるようだ。俺は、情報の整理でもしようかな。
「そういえば、なんで教会支持派が増えてたんです?」
「ここに来てその話をするか。どうかしているぞ、お前」
「ガイウスに言われると傷つくんですけど…」
「まあいい。簡単に言えば、議会に守ってもらうためだろう。一種の脅しだ。教会がなくなったら民主派は減るぞ、警護団から守れ、とな。どうせ意味を成さなかっただろうが」
「司教ってそのまま捕まったんですか?」
「ああ。刻印が証拠になった」
「刻印…あの見せしめにされた?」
「ああ。筆跡鑑定でな」
なるほど、人が彫るのだから癖は出るか。
「警護団ってなんなんです?」
「独立した組織だ。独自に人を取り締まる権利を持っている」
警察みたいなものか。そういうのちゃんとあるんだな、なんだか安心した。…大丈夫だ。みんながみんな父さんのような性格なわけじゃない。
「…………」
「なんだ、終わりか?」
「あ、はい。今はもういいですかね」
「だったら、盗聴について探ってくれないか」
「それなんですけど、盗聴って教会がしてたんじゃ?」
「違う、議会だ。襲ってきたのは議会の暗部だった。それに、エルリアを襲った男たちも議会の差し金だっただろう」
「ん? 後半のどういうことですか?」
確かにあの男たちは議会が差し向けたものだが、それが盗聴に繋がる理由が分からない。
「エルリアのことを知っていたのだろう」
「はい」
「あいつは強くないし小さい。そんな人間を守るにはどうするのが一番だと思う」
「ええっと…」
うーーん、わからないな…。
「隠しておくのが一番だろう」
「あ、確かに」
なるほど、そもそも存在を明かさなければいいのか。つまり、エルリアの存在は隠していたのに男たちは知っていた。それは議会が盗聴していてその情報を伝えたからか。
「そういうことだ。よろしく頼む」
「はい、頑張ります」
前からこっちの質問には答えてくれていたけど、今はなんだか距離が詰まっている気がする。よろしく頼むって言われるとなんだか張り切ってしまうな。頑張ろう。
しかし、どうやって探したものか…心あたりもないし、とりあえずいつもの部屋に戻るか。
俺は最早俺のものになりつつある部屋の扉を開いた。すると、
「あら、どうしたの?」
ユーリィがマスクと水色のエプロンをして、雑巾を右手に持って壁をせっせと磨いていた。なかなか絵になるな。近くには木製のバケツがあり、中の水はそんなに汚れていない。
「ああいや、考え事を」
「そう。なら手伝ってくれない? 体動かした方が何か思いつくかもよ?」
「…わかりました。なにをすれば?」
俺はユーリィを手伝うことにした。実際思考があまりまとまらなかったので、何かしたいと思っていたところだった。
「ユーリィって掃除好きなんですか?」
「ええ、まあ。汚すのも好きなんだけど」
「汚すのも…?」
「汚した後に綺麗にするのが気持ちいいのよ」
潔癖症ってわけじゃないのか。汚れているものを綺麗にするのは確かに気持ちがいいが、汚すのも好きっていう人は珍しいんじゃないだろうか。
「暇さえあれば掃除してるの。まあ結構暇だからずっと掃除してるってことになるけど。あとは魔法の練習したり洗濯したりかしら?」
「魔法の練習…ユーリィって催眠系が得意なんですよね?」
「催眠っていうより、治療に関することが得意なの。催眠もたまに使えるしね。エルちゃんの傷治したのも私なのよ?」
「あ、そうだったんですか」
骨がすぐ治ったのはユーリィのおかげか。だとしたらユーリィも結構すごいぞ。
そんな雑談も交えながら、俺はベッドの下を掃除しようとする。そこであることに気づいた。
「………どういうことだ?」
ぬいぐるみが増えている。はっきりとは覚えていないけど、前は四つだったはずだ。枕元には五つある。
「ユーリィ。ぬいぐるみ増えてませんか?」
「ぬいぐるみ? …あら、本当ね」
そこには馬、熊、ウサギ、鳥、狼のぬいぐるみがあった。どのぬいぐるみがあったかは覚えていないけど、ガイウスに見てもらえば何かわかるかも知れない。
俺はぬいぐるみを全て持ち、ガイウスの元へ向かった。食卓にはいなかった。おそらく自室だろう。
俺はガイウスの部屋の扉をノックした。
「入れ」
入れてもらえるという事実に心の中で舞い上がりながら、俺は躊躇なく入った。
「すみませんガイウス。このぬいぐるみの中で、何か感じるものありませんか?」
「ぬいぐるみ…? 見せてみろ」
俺はぬいぐるみを書斎机に一つずつ置いていく。ガイウスは置くタイミングでぬいぐるみを観察しているようだった。
すべて置き終わった。ガイウスはどれにも反応しなかったように見える。
「何も感じん。どれも普通のぬいぐるみだ」
「そう、ですか」
おかしいな、どれかを使って盗聴してるのかと思ったけど。当てが外れたようだ。
「すみません、何かあると思ったんですけど」
「いい。俺も忙しくはない。何かあったら知らせてくれ」
「はい」
俺は部屋を後にする。
…やっぱりガイウス、言葉が優しい。頑張ろう。役に立たないとな。




