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第17話 燃え上がり激昂

 街に夜の帳が落ちた頃、俺は裏口から出て月を見上げていた。その光は優しく俺を包み、しかし森を照らすことはなかった。周りは暗いまま。まるで俺だけを照らしているようだった。異世界だけどあるんだな、月。

 明日はいよいよ決行だ。会話はあまりできていないがやることはわかっている。

 暗殺だ。

 俺それを止めなければならない。だが、俺の心はまだ迷っていた。

 できるか? やるんだ。どうやって? どうやってでも。

 本当に、それでいいのか? それで解決できるか?

 俺は強くなれずにいた。


「おにいちゃん」

「……エルリア? どうしたの」


 突然エルリアに話しかけられた。時刻は既に九時ごろ。さっきベッドに入ったはずだが。

 ここはまるで春のようで、昼は暖かいが、夜はすこし冷える。エルリアがあまり冷えては良くないんだけど。

 エルリアの瞳はいつもと違って見えた。俺を見ながら、しかし俺ではなく、俺の心を見ているようだった。


「おにいちゃん。いっこ、魔法をおしえてあげる」

「え?」


 魔法。そういえば使ったことなどなかった。そもそも教わらなかったのだから。でも、どうして急に。


「どうしたの、突然」

「きっと役に立つよ。しゃがんで」


 どういう意味だろうか。俺は疑問に思いながらも言葉に従い身をかがめる。思ったより体がでかく、


「もっとしゃがんで」


 注意されてしまった。俺は膝を付いて正座し、さらに頭を下げ、耳を傾けた。エルリアはきっと耳打ちがしたいんだ。

 エルリアは背伸びをして俺の耳に口を寄せた。


「……………。覚えた?」

「ああ、うん。覚えたよ」

「ぴんちになったらとなえてね」

「わかった」


 エルリアは満足したようで、家の中へ戻って行った。それは文字通り魔法の言葉だ。俺は勝手に少しだけ励まされていた。















 朝になった。空から注ぐ光は淡く、森には夜の面影が残っている。

 俺はこれから行うことの意味を改めて体で感じていた。

 ガイウスは殺しに行く。俺は、止めるためについていく。

 ガイウスは何かのために大罪を犯そうとしている。周りの全てを背負って。

 でも、ガイウスに何かを失って欲しくない人もいるんだ。


「行くぞ」


 ガイウスがそれ以外口にすることはなかった。盗聴云々ではなく話す気がないように思える。

 ガイウスは強くない。俺は知っている。知っているからこそ、俺が止めないと。











 昨日と同じ白マントを羽織り、大聖堂の正面に堂々と立つ。これから中では司教がたった一人で『儀式』を行う。ガイウスにしてみれば絶好のチャンスだ。きっとすぐ終わらせてしまうだろう。

 何かを気にすることもなく、扉を開く。直後に朝日が昇り、大聖堂内の正面のステンドグラスが神秘的に煌き始めた。その下の祭壇には老人が扉側を向いて両手を上に掲げ立っている。司教服を着て、頭に金色が散りばめられた細長い帽子をかぶっていた。そしてもう一人、胸部や肩、腕や足などに銀色の鎧を着けた女性が、老人に向かって跪き祈りを捧げていた。その瞳は見えないが、垂れ下がっている金髪を見て誰かはすぐに分かった。


「なんでここに」

「それはこちらの台詞だよ、などと言うのは少々白々しいかな?」


 俺は女性に聞いたつもりだったが、老人が答えた。


「君達は自らの力を過信しすぎなのではないかね? 魔眼の前では等しく無力だというのに」


 魔眼。かつて国のトップが持っていたとされるもの。であれば、一国に一つのはずなのに。


「ガイウス。なんで二人もいるんですか」


 俺はガイウスに尋ねた。どう考えてもこの女性は国のトップじゃない。


「この国がもっとも強いと言われ、国民が増長している理由の一つ。他国の魔眼がこの国の人間に継承されたことだ」


 そう、この国には魔眼使いが二人いるんだ。そして俺たちは、そのうちの一人の怒りをかった。

 業火の魔眼の使い手。

 『王国騎士に泣きついて』と言っていた。じゃあこの女性は騎士なのか。


「君たちは昨日ここに潜入したね。それをうまく利用させてもらったよ。儀式があるのは本当だ。国民から信用を得るためには、真実も作っておかないと」

「時間は違ったはずだ。なぜわかった」

「はは、時間など関係ない。昨日はずっと席を外していたし、狼くん、君が見たのは幻だ。いつか盗聴に気づくだろうと思っていたからね、いつ来ても誘えるようにしておいたんだよ」


 そんな簡単なことで騙されてしまったのか。いや、今重要なのはそこじゃない。


「なんでその人がここにいるんだ」

「何故? 君たちが一番わかっているだろう。君たちを殺すためだ」


 女性が立ち上がり、こちらに振り向いた。腰に剣を携え、瞳は炎のように燃え上がっている。俺は少し(おのの)くが、いつかこうなるだろうとは思っていた。足腰に力を入れ燃え上がった瞳を睨み返す。







「お前達は大罪人だ。一人の純粋で、健気で、無実の青年の将来を踏みにじった」

「……あんた誤解してるよ。それは俺たちじゃない」


 狼は誤解を解こうと必死に訴えた。


()()()だと…? 他に屠った命があるのだろう。他に汚された無実があるのだろう…! 他に踏みにじられた未来があるのだろう!!?」


 女は激昂する。彼らを憎み、自らを憎んだ。あの時あの場所にいれば、彼は助かったのに。他の誰かを助けていなければ、彼を助けられたのに。

 もはや真実などどうでもいい。彼女は怒りの吐き場所を求めた。


「それは…否定できないけど…! あんた利用されてるだけだよ。あの人の死が利用されてるんだよ!!」


 狼は吠える。狼の言う通り、彼女は、彼の死は利用されていた。暗部が彼らを仕留められなかった時の保険として。狼はこの争いには意味がないであろうことを理解している。このまま衝突すれば、彼女と自分たち、どちらかが死んでしまうだろう。


 男は、


(お前は何故そうなんだ)


 男は疑問に思っていた。狼は否定できるのに。背負ったのは男だけのはずなのに。

 男はあの日の狼と女の会話を聞いていた。男の負担を減らしたいと、役に立ちたいという思いを知っていた。だが、それはダメだ。あの人との約束を破ることになる。だから昨日、狼の目の前で殺して見せた。なのに。


 お前はどうして諦めない。




 感情がぶつかり合う。




 もう誰も止められない。

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