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第2話 切断

 必死に抵抗するが、まるで敵わない。腕を引っ張られ、引きずられている。このままでは尻尾が危ない。なんとかしないと……!


「ふんっ! このっ……!!」


 下半身をうねらせたり、腕を思い切り振ったりしてなんとか手を解こうとするが、


「無駄な抵抗はするな。疲れるだけだぞ」


 全く意味をなさなかった。


 十秒ほど引きずられたあと、男がある部屋に入った。男は俺を、中央にある金属でできた広い台の上に割と丁寧に乗せた。


(ん? この部屋は……)


 正面には木製の窓があり、そこから強い光が差し込んでいた。外の明るさからするに今は昼頃だろうか。窓の下には石製の流し台があり、その左に少し古そうなコンロがある。コンロには鍋が乗っていて、中にあまり美味しくなさそうな汁物が入っていた。湯気は出ていないので残り物だろう。結構残っている。

 自分の左側には大きな食器棚、右側には大きな冷蔵庫と思わしき物があった。この男は何人か、それもわりと大勢と暮らしているのだろうか? いや、そんなことはどうでもいい。この部屋は。


 厨房に見える。


(切り落とす……まさか)


 男は台所の収納から、大きな包丁を取り出した!?


「マジか!? それで切るつもりか!?」

「大人しくしていろ。さもないと可能な限り痛くする」


 悪魔だ。この男には人の心がない。包丁で尻尾と耳を切り落とすとか正気の沙汰じゃない。可能な限り痛くするって何!? 先っちょの方から切り刻んでくとか? 怖すぎる!


 男が俺の腰辺りを押さえつける。今の俺には抗う術がなく、可能な限り痛くされるのは嫌なので、じっとして切られるのを待っていた(本当は身体中震えていて泣きじゃくっていたが)。まさか、本当に切り落としたりしないよな!?

 すると突然、


「ねえガイウス、この前の件で一つ質問がある、ん、だ…け…」


 後方から声がした。誰かが入ってきたようで、なんとか顔を動かしてその姿を確認する。


 入ってきたのは、二十歳ぐらいの若い女性だった。薄化粧で少し目つきが鋭く、いかにもできる人という印象を受けた。髪を後頭部の高いところで結び、綺麗な黒髪を一本にまとめている。しかし格好は大胆で、上半身は下着に上着を羽織ったような感じだった。色は黒で統一されていて、鎖骨やへそが完全に露出している。


「……あんた何してんのよ!?」


 女性が突然大声をあげた。この状況を見れば当然の反応だろう。

 女性はこちらに走り寄り、ガイウスと呼ばれた男から包丁を奪い取ろうとする。


「なんでこんなもん振りかぶってんのよ!? あぶないでしょう!?」

「エルリアの様子がおかしいから、それを治そうとしているだけだ!!」


 男は叫ぶ。えるりあ。誰かの名前か? 状況から察するに…俺のことか? 俺の名前は日野新(ひのあらた)なんだが。


「治すために包丁振りかぶる人がどこにいんのよ!!」

「これは必要なことだ!」


 二人はまだ言い合っている。だが男が俺の体を押さえつけ、身動きは以前取れないまま。

 次の瞬間、


「ぅわっ!?」


 お尻の辺りから全身にむず痒い感覚が走った。我ながら情けない声を出してしまい、羞恥心に奇襲された気分だった。

 女性がその声に反応しこちらに振り向く。


「……なにこれ?」

「知るか」


 俺に付いている尻尾が女性の腕に触れていた。不意に他人に触られると結構くすぐったいな……。


「すっごく可愛いじゃない!!」


 女性ははしゃぎながら尻尾を触りはじめた。


「あ、ごめんくすぐったかった? でも触らせて? ね? 大丈夫ちょっとだけだから!」


 あまりのはしゃぎように気を抜かれてしまった。触られること自体は案外心地がいいので満更でもなし。


「え、耳も動物仕様!?」

「わっ!」


 耳も触ってきた。この女性容赦ない。


「ふぅ、まんぞく! あ、質問なんだけど」

「…………」

「えぇ……」


 男は黙っていたが、女性の切り替えの早さに俺は思わず声を上げてしまった。そんな俺の反応を見て、女性は眉をひそめた。


「あれ……? エルちゃんってそんな反応する子だっけ」

「え?」


 『エルちゃん』。おそらく『エルリア』の愛称だろう。この女性は完全に俺を『エルリア』という人だと思っている。


「おかしいだろう」

「ええ」

「切り落とせば治るかもしれない」

「本当?」

「八割ぐらいだ」


 会話が勝手に進んでいく。八割って、成功率? 高い。この流れはまずくないか。


「……切り落としましょう」

「ハァ!!!!??」


 沈黙の後言い放たれたその言葉に絶望した。尻尾になんの恨みがあるんだ!? ここには悪魔しかいないんだな……!?


 今度こそ詰んだ。ここで俺の人生終わるんだ……。

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