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第12話 依頼②

「………………」

「………………」


 ガイウスと行動を始めてから十分ほど経ったが、まだ一度も言葉を交わしていない。商店街のような場所を歩いていて周囲はかなり賑やかなのだが、沈黙が痛い。何か話さないと。


「…………あの」

「なんだ」

「教会って、支持を受けてるからには政治で何かしらの役割を担ってるんですよね」

「ああ、多分な」

「たぶん?」

「俺も政治には詳しくない」

「…そうなんですか」


 意外だ。なんでも知ってそうだったのに。


「なにより、教会は最近できたんだ。おそらく俺に限らず多くの人間は教会に詳しくないだろう」

「そうなんだ…」


 じゃあどうやって情報を収集するんだ。出てきたからには当てがあるはずだが。


「着いたぞ」


 どこに向かってるんだろうとは思っていたが、ガイウスは酒場と思わしき場所の前で足を止めた。


「中に知り合いがいる。そいつなら教会に関する情報を持っているはずだ」


 俗に言う情報屋か。かっこいいな。


「でも俺、こんな格好で怪しまれませんかね」


 俺は丈がすごく長いフード付きのマントを羽織っていた。中には以前もらった服を身につけている。他にはくれないようなのでこれを身につけるほかない。…もらったわけじゃないか?

 この世界に獣人とかはいないらしい。そうなると俺のこの容姿は、明らかに目を引いてしまう。……今も十分目を引いている。マントは真っ黒だし、マントで背丈は誤魔化せないし。なんで連れてきたんだろう?


「問題ない。この酒場の中には裏のやつしかいない。みんな姿を隠すようにしている。当然俺も顔を隠す」


 そう言ってガイウスは右手で、貴族がかぶるような帽子を深く被った。どこから出したそれ?


「そうですか…ならいいですけど」


 と返したが、よくはない。なんでそんな危ない場所に入んなきゃいけないんだ...。


 鈴の音と共にガイウスが扉を開ける。俺はその後ろをピッタリ張り付くようにしてついていった。

 中にはカウンター席とテーブル席があった。割と人がいるが、そんなに空気は重くなくむしろ陽気で、酒場として違和感がなかった。ガイウスは真っ直ぐ一番奥にあるテーブル席へ向かい、俺は誰とも目を合わせないようにして後をついていった。


「お、来たな」


 テーブル席に着くと、一人の男が顔を黒い布で隠して座っていた。すこしぽっちゃりしていて、身長は低い。


「教会の情報を頼む」


 ガイウスが座りながら言った。俺も情報屋の様子を窺いながらガイウスの隣に座った。


「とりあえず今持ってる情報はやるが、実はそんなに集められてないんだ。警戒されてるみたいでよ」

「警戒? どういうことだ」

「いやぁ俺の前に情報を探ってた奴がいたみたいでさあ、そいつが派手に動き回ったみたいで、『証を持ってない者に話すことはない』って、証がないとだめになっちまったんだ」


 証。でも、


「それじゃあ新しく入りたいって人が入れないんじゃ?」

「お、連れさん良い声してんねぇ。びっくりしたよ」

「……気にするな」


 しまった。思わず声に出してしまった。


「その通りだけど、まああれだ、会員紹介制みたいな感じなんだよ。教会のくせになあ?」

「その『証』とやらを手に入れることは、おまえでも無理だったのか?」

「いやあ知り合いにいなくてよお、教会に入ってるやつ。既に入ってるやつに近づいて貰おうとも思ったけど、なんか入ってるやつみんな警戒心強くてよお、今ひとりトライしてるけどまだ貰えてねえんだ」

「ふむ…いつ頃になりそうだ?」

「まあ、あと三日ぐらいあればいけるかな?」


 三日か…手に入るのはひとつだよな。


「それって、人数分なきゃいけないんですか?」

「んや、グループで一つあれば教えてくれるぜ」

「あ、そうです、か…!?」


 足に鋭い痛みが走った。ガイウスに思いっきり踏まれたようだ。しまった、あんまり喋んないほうがよかったか...?


「知っていることはそれだけか?」

「あと一つ、あいつら人に無償で食料を配ってるらしい」

「なに?」

「いや、現場を見たってやつがいるんだよ。特に隠す素振りもなく堂々と配ってたらしいぜ」

「そうか、充分だ。感謝する」

「いいってことよ。じゃ、これからも俺を利用してくれよな」


 ガイウスと俺は席から立ち上がり、素早く酒場を後にした。外に出ると、


「おい」


 ガイウスが話しかけてきた。


「は、はい」

「あまり目立つな。お前自分が精霊だってこと、忘れてないだろうな」

「あ」


 忘れていた。自分は普通の人じゃないんだ。


「あの中には精霊を収集してる奴もいる。珍しいとはいえ、その道に慣れた奴もいるんだ」

「………」


 なにそれ怖い...でも、ガイウスは俺のことを考えてくれているのか。心配してくれるのか。人の良さが漏れていると勝手に思ってしまった。


「二人と合流しよう」

「どうやって?」

「アッカドと連絡を取る」


 そう言いガイウスは腕に向かって話しはじめた。瞬間、腕に文字が浮かび上がってきた。

 刻印で連絡を取るのか。これがあれか、オンオフを切り替えるタイプの。


「街の外れで何かを見つけたらしい。西の方だ。行くぞ」

「は、はい」


 そう言い俺たちはまた歩き出した。


 ……そうだ、アッカド達はどうやって調べるんだろう。ガイウスは当てがあったみたいだけど、あっちは人に聞いて回るしかないだろうし。

 ガイウスに聞いてみようか...いや、聞いたところで何かあるわけでもないし...ふむ、どうしよう。

 そう思っていると、


「なあ、たすけてくれよぉおお、なぁああ」


 道の端から不気味なうめき声が聞こえてきた。俺は声のする方に顔を向けた。そこには酷くやつれ、髭の長い男がいた。しばらく体を洗っていないように見え、近づくのははばかられた。しかし男は自分から道行く人に手を伸ばし、しきりに何かをせがんでいた。

 なんだ、あれ。まるでホームレスだ。


「転生者だ」

「………は?」

「あの男が気になるのだろう? 彼は転生者だ」


 転生者。あの男が? なんだよそれ。


「おそらくあいつも調子に乗った口だろう。だが、あいつはそもそも魔力を持っていなかった。ただの人間だったんだ。いや、ただの人間以下か」

「……でも、働く場所を見つければ生きていけるんじゃ?」

「それを怠ったんだろう、あいつは。やらなかったか、少しやって諦めたか。この国は労働者不足ではない。むしろ少し多いくらいだ。無駄に多く従業員を雇う場所もない」

「…それって、ホームレスが結構いるってことになりますけど」

「ああ、少なからずいる。だが、そういう奴らでも自給自足をしたり、仲間同士で助け合ったりと生きる努力をしている。あいつはどうかな?」

「…………」


 なにもしていない。なんでなにもしない。


「毎日誰かが恵んでくれるのを待っているようだな。この辺りじゃ有名だ。必要とあらば金は出せる。どうする?」

「……………」


 試されている。やはりこの男は悪魔だ。そんなことを試してなんになる。……いや、大事なのはそこじゃない。

 俺はどうしたい。


「なあ、めぐんでくれよぉぉぉお」

「…………」


 俺はその男とは反対方向へ歩き出した。


「助けないのか?」

「何もせずに誰かを頼っちゃダメだって、教わったから」

「そうか」


 そう言いガイウスも歩き出した。方向はこっちであってるようだ。よかった。が、


「こんにちは。今日も恵みのない貴方に、神の恵みを」


 後ろからそんな言葉が聞こえた。

 「神の恵みを」。

 その言葉に反応し、ガイウスと俺は同時に振り向いた。


「ああ、ありがとう、ありがとう」

「さあ、好きなだけどうぞ」

「…………なんだよそれ」


 そこでは、ホームレスが真っ白なマントを羽織った男から、食料を受け取っていた。

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