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第119話 会議

「会議を開く」


 全員で居間の机を囲んで、ガイウスが宣言した。


 リヴァイアでの出来事がある程度の収束を迎えてから一週間が経過した。この一週間、アッカドは街の復興に手を貸し、俺は家でガイウスとコラブル、ユーリィを看病していた。クレイは相変わらず子供たちの面倒を見てくれていた。フレアは多分黄昏てた。


 三人の調子が戻った(ガイウスにはまだ包帯が必要だが)ので、一旦会議を開くことにしたらしい。議題は、


「今後の方針だ」


 ……だそうだ。


「えーっと……つまり?」


 方針ってあれだろ、人助けをしながら仮定の魔眼を探すってやつ。それを変えるのか?


「カルディアとフレアにも人前に出てもらう」

「あ、そっちですか……ん?」

「え」


 カルディアは顔を大きく歪めていた。


「なんでかな!?」


 カルディアが驚くのも無理はない。魔眼使いが世に出るのはまずかったはずだ。がしかし。


 俺にも分かる。それはもう過去の話だ。


「一つは、アトラスの連中に、魔眼よりも優先すべき何かがあること」

「うーんまあ、それは確かに。アトラスの奴ら、魔眼は眼中にないみたいだね」


 イブとオスカーのことは全体で共有済みだ。ユーリィが落ち込んでいたが、アッカドがすごい励ましていた。


 彼らはアトラスの手先である。彼らはフレアとカルディアの存在を既に知っている。にも関わらず何もしないということは、つまりそういうことなのだろう。二人を隠す必要性は薄れた。


「それで、あえて人前に出てもらう理由は?」

「話題性だ」

「わ、話題性?」


 この世界でその単語を耳にすることになるとは。


「魔眼は誰でも知っている。田舎の人間もな。俺たちは各地で人助けをするつもりだろう。それだけでも多少は世に知られるだろうが、魔眼使いであることを明かせば名はさらに広がる」

「……なるほど」

「俺たちに必要なのは情報だ。それをリヴァイアで痛感した。仮定の魔眼を探すとなると、大きな情報網が必要になる」

「その情報網を作るため、ですね?」

「そうだ」


 知名度を上げると、当然知人が増える。俺たちは旅をするわけだから、世界各地に知り合いができることになる。その際魔眼を材料にさらに俺たちの名を広めておけば、知人の輪がより大きくなるわけだ(知人あれこれというよりは、有名人になるって言った方が正確だろう)。


 知人の輪は情報網になる。世界のどこかにいる知り合いが仮定の魔眼を見かけたら、俺たちの耳に入ってくる。ただ旅しながら探すよりも効率がいいし、万が一旅の途中で仮定の魔眼とすれ違ってしまっても、なんの問題もなくなるというわけだ。


 と、一人で丁寧にまとめてみたが、一つ疑問。


「それ、俺たちの目的を明かす前提ですよね?」

「そうだな」

「どこまで明かすんですか?」

「『仮定の魔眼を探している』までだ」

「……ま、大丈夫ですよね」


 ブツがブツだから探しててもおかしくはないだろう。願い叶える系なんだから。


「というわけだ。異論がなければ決定してしまうが」

「少しいいかしら」


 ユーリィは丁寧に挙手した。


「なんだ」

「それ、敵作らないかしら」


 その意見に食いついたのは俺だった。


「敵?」

「或いは争いが起こるかも」

「何故に?」

「仮定の魔眼が持つ力は魔眼の中でも特異で凄まじい。私たちがそれを探して、なおかつ理由を明かさないとなると、心証は悪いんじゃないかしら」

「……なるほど?」


 イマイチピンとこない俺。


「魔眼を餌にするなら、一方的に私たちを認知する人も出てくる訳でしょう? 仮定の魔眼って嫌な歴史しかないし、そういう人たちにしてみれば、私たちは危険人物にならないかしら」

「でもよ、人助けしながらだぜ? そんな心配要らねんじゃねえか」


 俺はアッカドと同意見だ。過程が過程だから、敵云々を心配する必要はない気がするんだけど……。


「私たちが直接関わる人は、信じてくれるかもしれないけれど……そうでない人たちもいるわけでしょ」


 ユーリィはそうでもないらしい。極端な意見だが、可能性もゼロじゃない。


「うーん……どうなんだろうなぁ」


 アッカドは真剣に悩んでいる。この場で様々な可能性を検討しておきたいのも分かるが、今回の場合だと……。


「あの……それって、やってみなきゃ分からなくないですか?」


 俺の一言に、アッカドとユーリィは一瞬固まった。少しして。


「それもそうだなぁ」

「それもそうねぇ」


 見事なハモリだった。相変わらず息ピッタリだな。


「……異論がなければ、この方針で固める。他に意見は?」


 ガイウスが話をまとめにいった。フレアが手を挙げた。


「なんだ」

「話題にはなるだろうが……ゴッデスが色々まずいことにならないだろうか? 魔眼は政治との結びつきが強すぎる。今のゴッデスに魔眼がないことが世間に露呈したら、ゴッデスの立場は……あまり良い予感はしないんだが」


 ガイウスの返事は素早かった。


「知ったことではない」

「……なるほど、そういうスタンスなのか。まあいい。私も知ったことではないしな。異論はない」

「カルディアは」

「ないよー。どっちがと言うよりは、敵も味方も出来るだろうし。足し引きで考えても、やってみる価値はあるんじゃないかな?」

「そうか」


 なんとなく、決まった感じの空気が流れた。ガイウスがそれを逃すはずもなく。


「では今後、カルディアとフレアを積極的に人前に出していく。いいな?」


 その場にいたほとんどが同時に返事をした。


「ええ」

「問題ない」

「はい」

「出せ出せー!」

「了解っす」

「いいんじゃねえか」


 ……こうも揃わないか、返事。逆にすごいな(ちなみにクレイはずっと黙っていた。こういうことには口を出さないスタイルらしい)。


 ぬるっと決まってしまったが、かなり大きな変更だ。フレアとカルディアを表舞台に出せるとなると、出来ることも多いだろう。俺とエルリアはまだ隠れなきゃいけないんだけど。


「ではこれから中央の街に復興を手伝いに向かう。カルディア、フレア、言いたいことは分かるな」

「………」

「今日から働けって!? そんなバカな!?」


 完全にニートなカルディアは放っておくとして、今日からやるのか。相変わらず凄まじい行動力。


 ガイウス、カルディア、フレア、アッカドの計四名は外出の支度をし始めた。カルディアはずっと渋っていた。でも準備するんだよな。お利口さんだ。


 ガイウスは包帯が取れていないのに、もう働くつもりらしい。


「平気なんですか?」

「問題ない」


 俺の心配を軽くいなし、扉の取っ手に手をかけた。


「行ってくる」


 結局四人は、三十分も経たないうちに出発してしまった。カルディアは最後まで嫌そうな顔をしていた。


 俺、ユーリィ、コラブル、クレイに子供たちは家に残った。コラブルとユーリィはもう少し安静にしておくのが良いからで、本当はガイウスも残るべきだったのに……。


「今日もダメだったわね」


 ユーリィが優しい声で話しかけてくれた。


「……はい。ダメでした」


 「ダメだった」というのは、俺とサラさんに関する話だ。


 カルディアには勿論、クレイにも鬼の形相で怒られた。ユーリィとアッカドには励まされた。コラブルとは屋根の上で話したし、エルリアには普通に叱られて、フォード君には半分泣きながら謝った。


 ガイウスだけだ、何も言わないのは。俺が危うく人を殺しかけたことに、彼だけが無反応だった。俺はそれがずっと気になって、落ち着かない。だから話をするタイミングをうかがっていたのだが、なかなか訪れない。


「……もしかして、その話題を避けてるんでしょうか」

「私にはそう見えるわね」

「やっぱりそうですよね。なんででしょうか」


 思うところはあるだろうに。


「ガイウスにはアラタ君の気持ちが分かるんだろうし、だからこそ話しづらいこともあるんじゃないかしら」

「……そうなんですかね」

「正確なことは分からないわ。私はガイウスじゃないし」


 俺とユーリィがうだうだと話している隙に、クレイとコラブルは子供部屋に行ってしまった。今はエルリアとフォード君がいる。フォード君が来たから、改めて子供用の部屋を用意したのだ。部屋はいくつか空いていたから、その一つを改造した。ちなみに他の部屋を使わないのは、後々片付けが面倒になるからである。だから寝室ぎゅうぎゅうです。


 とても都合がいいな。さっきの会議の件でユーリィに聞きたいことがあったんだ。


「話は変わるんですけど、一つ聞いていいですか?」

「ん、何かしら」

「ユーリィはさっきの件、もしかして反対だったんじゃ?」

「あら……分かっちゃう?」


 やっぱりな、ちょっと無理矢理だなと思ってたんだ。


「意見がちょっと……」

「無理があったかしらね、あれで押し切るのは。そう、そうなの。私あんまり気乗りしないのよ」

「理由を聞いても?」


 ユーリィは脚を組んで、頬杖をついた。


「だって……私がどういう風に生きてきたか知ってるでしょ? 十歳まで山の方で暮らして、それから今まではガイウスの元で目立たないように生きてきたんだから……」

「あー、目立ちたくない?」

「嫌悪じゃないのよ? ただ、怖いの。ガイウスらしいっちゃらしいんだけど、思い通りにいくのかどうか……」


 ちょっと分かる。情報網を広げたいという狙いは理解できるが、人助けでも十分なのでは? とも思う。見ず知らずの人間に知られたところで、そいつから提供される情報の信憑性などたかが知れているし、過剰な持ち物は邪魔になりかねない。ガイウスの本当の狙いは別にあるのでは? そう感じてもおかしくはないだろう。


「はぁ……何にしても、また忙しくなりそうね」

「ですね」


 全部が解決したわけではないが、少なくとも寒冷化は終わった。だから、ガイウスたちは大して厚着することなく出ていったし、ユーリィもとても快適そうにしている。


 そろそろ移動するタイミングだ。


「お兄ちゃん」

「ぅおう!?」


 久しぶりの感覚。いつの間にか背後にフォード君がいた。


 半袖半ズボン。火傷の跡が全身を巡っている。日本なら虐めを受けるだろう。申し訳なさでいっぱいだった。


「……どうしたの」

「言いたいことがあります」


 敬語。クレイが教えたか?


「なに?」

「ぼく、ここを出ていきます」

「………なに?」

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