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第12話 依頼①

「領主から依頼が来た」


 俺がこのギルドに仮加入してから三日が経った。

 ガイウスに部屋に集まるように言われ、全員が揃った後、ガイウスがそう言った。ガイウスの部屋に入ったのはこれが初めてで、ザ・書斎って感じだ。赤色のカーペットが敷かれ、壁際は本棚で埋め尽くされている。本棚も本がビッシリと詰められていて、読書が苦手な俺にとってはあまり居心地の良い空間ではなかった。ガイウスは書斎机の上で手を組み、俺たちを見ていた。


「暗殺の依頼だ」

「……………!!」


 サラッと言ってのける手慣れた感じが嫌になった。


「誰を暗殺するんだ? 俺らに知らせるってことは、手伝いが必要ってことか?」

「…………っ」


 ユーリィが辛そうにしている。アッカドのことはまだよくわからないけど、ユーリィはそういう仕事をしたことがない、というかガイウスがさせないようにしてたはずだ。なのに集めたのは何故だ?


「初めは全員で情報集めをする。相手は『教会』のトップだ」

「『教会』だあ?」

「…なんでまたそんな人を暗殺するのよ」

「あの、『教会』って?」


 教会ってあれだろ、宗教のやつだろ。この世界にもそういうのがあるのか。


「今この国の人々は三つの勢力に別れている。『王政派』、『民主派』、そして『教会支持派』だ」

「王政派は貴族の集まり、まあ家が偉いからって威張ってるボンボンばっかりよ。まあ、国民の二割は支持してるけど。民主派は国民の七割が支持してて、国民に選挙で選ばれた人たちで議会を作って政治に参加してる。教会支持派は残りの一割が支持してるはずなんだけど、詳しくはよく分かんないわね」

「領主様って偉いんですよね。どこの勢力なんですか?」

「王政派よ。しかもトップ」

「え」


 この人今王政派のトップディスったのか?


「王政派と民主派が争っていて教会支持派は空気みたいなものだったんだが、最近になって教会支持派が不自然に伸びてきている」

「王政派と民主派はなんで争ってるんですか?」

「理由は主に二つだ。一つは、かつて七つの国の中で一番発展しているのはここゴッデスだったんだが、最近アトラスと衝突し、その際向こうが異常な発展を遂げていて、うちの軍は敗走した。それをきっかけに国民が今までの不満を爆発させた。『王政派が余裕をこいてるからこうなった』、『課税を増やす割に成果をあげられていない』、『もはや王政派では対処できない。政権を交代すべきだ』とな」


 今まで自国が一番強いと思ってたのに戦争で負けて、信頼を失ったのか。単純な理由だな。


「もう一つは方向性の違いだ。この国は周囲の小さな国を取り込んでここまで大きくなった。民主派は残っている隣国も早く取り込むべきだと言っているが、王政派は慎重に進めるべきだと主張している」

「まあ隣国の一つがアトラスと手を組んでるしね。その臆病さが民主派は気に入らないみたいだけど」

「今は王政派が政権を握ってるんですか?」

「今はではない。長らく王政派が政権を握ってきた。だが戦争の件で信用は落ち、ここぞとばかりに民主派がデモなどを起こしはじめている」

 

 大変だな...。貴族ってそういう時諦めが悪いんだよな。歴史の授業で同じようなことを聞いた気がする。


「支持率の変化の理由は?」

「…質問が多いな」

「あ、すいません。何も知らないもので…」

「まあいい。それが今回の焦点だ。王政支持者が民主派に流れるのは自然なことだ。だが、なぜか民主派の国民が教会支持派に流れている。まずはその原因から調べる」


 なるほど、調査から始めるのか。…暗殺なのに? なんでそんなこと調べる必要が?


「その、殺す相手って決まってるんですよね。なのにそんなこと調べてどうするんです?」

「調査も依頼に入っている。それに、トップが一人になるタイミングを探る必要があるだろう。調べてからでないとなにもできない」

「あ、そうなんですか」


 はじめに言って欲しかった。

 でもよかった、調べ物からで…ガイウスの負担を減らす方法は実質一つだけだ。


 やめさせるしかない。殺しを。


「一時間後に出る。準備をしろ」

「りょーかい」

「分かったわ」

「…………」


 そういえばアッカドとは全然話せていない。いつか話せればいいんだけど...。


「まだ何かあるのか」

「へ?」


 気付けばユーリィとアッカドはもう部屋を出ていた。俺とガイウスの二人っきりだ。


「あ、その」


 いきなり切り出すか? いや、他のことを話してからがいいか。


「地下牢にいる男たちは、どうするんですか?」


 あれから三日経ったが、あの男たちはずっと牢に入れられている。食事は一日三回しっかり与えているし、処分するつもりはないのだろうか。して欲しくはない。


「そんなことか。あいつらには雑用をしてもらう」

「雑用?」


 前の俺みたいなか?


「一昨日エルリアと、業火の魔眼の魔法書を回収するために、お前があいつらに襲われた現場に行ってきた」


 なんと、そんなことしてたのか。俺も連れてってくれればよかったのに...いや、いてもしょうがないか。


「だが、魔法書は無かった。議会の奴らに回収されたんだ。あいつらが失敗したということがすでにバレている。もうここ以外に居場所はない。だったら好きなように使わせてもらうだけだ」


 使うって、もっと言い方があるだろうに。あえて酷い言い方をしているみたいだ。…きっとそうなんだろう。


「終わりか?」

「……やめましょうよ」

「…何をだ」


 俺は勇気を振り絞って切り出す。


「人を殺すの、やめましょう」

「無理なお願いだな」

「なんで…!」

「ユーリィから何か聞き出したんだろうが、それが俺の仕事だからだ」

「…………」


 答えになってない。なぜその仕事を辞めないんだ。そんなに情報が欲しいのか。そんなに魔法を消したいのか。なんで。


「そこまでして魔法を消したいんですか!!」

「ああ」

「な…!?」


 男は動揺することなく淡々と返した。まるで俺とユーリィの会話を聞いてたみたいだ。


「嫌なら辞めればいい」

「…やり、ます」


 ひとまずそう答えておいた。

 そんなすぐに諦めるわけにはいかない。

















「どれくらいで着くんですか?」

「もう見えているだろう」

「さっきからずっと見えてますよ。もう結構歩いたのにまだつかないなんて…」

「精霊のくせに弱音吐くなよー。疲れたわけじゃないんだろー?」

「…心が疲れました」


 こういう雑談ならアッカドとも出来るんだけどなあ。

 家を出て結構経つが、変わることのない緑の景色に俺は飽き始めていた。シンボルらしきものは見えるが、一向に着く気配がない。


 あの男たちにはエルリアの相手、掃除、洗濯をさせている(ユーリィは自分でやるらしい。当然だ)。あの家しか居場所はないのだから、エルリアに手をあげることもないと踏んでのことだ。


「もうすぐだ」


 ガイウスにそう言われ前方を見ると、森の切れ端が目に入った。やっとか…この人たちなんで森の深くに住んでいるんだろう。

 森を抜け、太陽に全身を照らされる。突然直射日光を浴びて思わず目が眩むが、ゆっくりと目を開けて目の前にある街を見る。


「………すごい」


 その都は、それはそれは大きな森の中に堂々と栄えていた。


「これが、この世界一の国、王都ゴッデスだ」


 ゴッデスは円状で、三つに分けることができる。外側から一般国民の住宅が並び、その次に商業施設、中央付近にはには貴族たちの豪華な屋敷が並んでいた。周りは鉄製の格子で囲われ、森とゴッデスの境界線を明確に示していた。しかし最も人々の目を引くものは、


「……なんですか、あれ」


 雲の上まで続く塔だった。決して太いわけでもなく、むしろ細く見えるそれは、堂々と都市の中心に建っていた。さっきからずっと見えてはいたが、根本から雲のところまで太さは同じ。そこから上は見えないが、多分同じ太さだろう。


「『世界の頂上』と呼ばれている、文字通り世界で最も高い建造物だ。昔の王が魔法の繁栄の証として、魔法を使って建てたものらしい。塔の表面は刻印だらけだ」

「刻印?」


 初めて聞く言葉だ。


「物の表面に文字を彫って、魔法を持続的に発動させるものだ。持続的に限らず、任意で効果のオンオフを切り替えられるように改良させたものもある」

「…あ、地下牢も?」

「そうだ。内側に強度向上と魔法反射の刻印が彫ってある」


 出る気はなかったけど、出ようと思ったら勝手に出れるものだと思っていた。そこらへんの対策はしっかりしてるか。


 この街は周りを鉄格子で囲われているので、当然出入口も限られる。少し鉄格子に沿って歩いた後、検問所のような場所にたどり着いた。ガイウスが身分証明書のようなものを提示し、なんの問題もなく入ることができた。

 ここはまだ街の端っこで、もう少し歩かなければならない。何か移動するための手段とかあればいいんだけど、そういうものはないらしい。

 この辺りは人があまりいない。家にはヒビが入っていて、時々見かける人々の服は所々破れていた。住宅街らしく、店などは見当たらない。


 また結構な距離を歩き、中心に近づくにつれて、だんだんと賑やかになってきた。人の多い通りに出ると、この街がいかに栄えているかがうかがえる。人々の話声が、この街の活気さを表していた。

 この辺りで暮らしている人々はお洒落に興味があるようで、服装はさっきと比べてバラエティに富んでいた。厚着をしている人や、短パンにシャツだけという女性もいる。だが元居た世界と比べると、かなり感じが違って見える。冒険者みたいなのは見当たらないし、この世界は俺が思っているような所じゃないのかもな。

 建造物の多くはレンガを使っていて、道にも赤や茶色でさまざまな模様が描かれていた。

 多くの店が見えてきたところで、ユーリィが口を開いた。


「ねえガイウス、どこかで休憩しましょうよ。疲れちゃったわ」

「さんせー。喫茶店でも行こうぜ」

「調査を怠らないなら、自由にしていい。俺に休みは必要ない」

「了解。じゃ、アッカド、いきましょ。あ、狼さんも来る?」

「ああ、いえ、自分はガイウスと行きます」

「え、いいのガイウス?」

「……好きにしろ」


 ユーリィ達について行きたい気持ちもあったが、今はガイウスと行動を共にしよう。というか、今名前を聞く絶好のチャンスだったよユーリィさぁん...気になんないのかな。

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