第11話 決断②
「『仮定の魔眼』…? なんですかそれ」
「仮定の魔眼はね、もしもを現実にすることができると言われているのよ」
「もしもを現実に…それって…」
なんでもできるってことにならないか?
「私たちにはね、ある目的があるの。それを達成するには仮定の魔眼が必要なのよ」
「目的って、教えてもらえますか」
「……まあ、知ってた方がいいかもね。いいわ、教えてあげる」
そんなチートみたいな力がないと達成できない目的。世界を滅ぼすとかじゃないと釣り合わない。
「世界から魔法を消すためよ」
「…………………は?」
あまりに突拍子のない台詞に頭をかき回され、俺は黙り込んでしまった。
「大丈夫?」
「……だ、大丈夫です。でもどうして?」
この世界には魔法が根付いているはずだ。例えばエルリアの部屋の照明。あれも今思えば、魔法で点けられているから違和感を感じたのだろう。なのにユーリィはそれを消すと言う。
「それは、さすがに言えないわ。私たちそれぞれ理由は違うの。他の人のを私が言うわけにはいかないし、自分のも、今は言いたくないわ」
「……そうですか」
「ごめんなさいね」
「いえ、色々教えてくれてありがとうございます」
「あら、もういいの?」
「大事なことは、聞けたと思います」
よく考えるとエルリアとの関係性など聞き忘れた事があったが、とんでもないことを聞かされて頭から飛んでいた。
「じゃあ、ちょっとでいいから、お姉さんの戯言に付き合ってくれない?」
「…? いいですけど…」
ユーリィは決まりが悪そうな顔をして、俺に頼んだ。急にどうしたのだろう。色々教えてもらったし、付き合うのもやぶさかではないが。
「私、何もできてないのよ、ここに来てから。人に任せっきりで。仕事もね、ほとんどガイウスがやってくれる。あの人が全部背負っちゃってる。辛いはずなのに。苦しいはずなのに。そんなそぶりも見せないで」
「…………それは」
殺しの仕事を? この人はやってないのか。確かにこんなに優しい人が誰かを殺せるとは思えない。でも、だとしたらあの男は...。
「あの人ね、私たちには何もさせてくれないの。殺しの依頼は全部自分でやっちゃう」
「………他にも依頼あるんですか?」
「ええ、まあ」
「そっちは、ユーリィさんもやってるんですよね」
「ええ。でも、大したことじゃないし…」
なんて真面目な人なんだ。一番大変なことはガイウスしかやってないとしても、何もできてないわけではないじゃないか。
「あなたのことも、巻き込みたくないんでしょうね。本当はエルリアも。昨日のこと、結構気にしてるのよ、彼。今まであの子が危険な目にあったことはなかった。でも、とうとうあんな大怪我しちゃった。誰かにあの子を守って欲しいの。自分では守りたくないのよ…自分は汚れてると思ってるから」
「そう、なんですか」
ただの極悪人じゃない。わかってるんだ、自分のしていることの重みが。俺には手を汚すことなく、ただエルリアを守って欲しいんだ。
でも。
「ユーリィは、ガイウスに一人で背負って欲しくないんですね?」
「…………ええ。私たちのことも、頼って欲しいの。一応、家族なんだし」
「その、家族っていうのは、誰が言い出したんです?」
「エルちゃんだけど……どうかしたの?」
やっぱりエルリアか。家族に何かしら特別な思い入れがあるのだろうか。
まあ、それは後にして。
「いえ、大したことでは。……あの、一ついいですか」
「何かしら」
「俺をギルドに入れてください」
「本気で言ってる?」
「本気です」
「……ガイウスに直接言って頂戴」
「はい」
俺はエルリアをユーリィに預け、ガイウスの部屋へ向かい、深呼吸してから扉をノックした。
「誰だ」
「俺です」
「………入れ」
思いの外すんなり入れてもらえたのが逆に怖かった。
「なんの用だ」
「俺をギルドに入れてください」
「断る」
やはり入れる気はない、というか入って欲しくないようだ。でも、諦めるわけにはいかない。
「お願いします」
「何故だ」
「…入れてください」
理由は言えない。ガイウスの負担を減らすため、だなんて言えるわけがなかった。
分かっている。調子にのっていると言われても仕方がない。負担を減らすには、人殺しに加担するか、やめさせるしかない。
実現できるかはわからない。むしろできる気がしないが、でもこの場にいて、ガイウスの負担を知っていて、ユーリィの苦悩を知っていて何もしないなんて。そんな冷たい人間になりたくはない。何より、エルリアがガイウスにとって大事な人なら、逆も然りのはずだ。エルリアにとって大事な人なら、力になりたい。
ガイウスはきっと、良い人だから。
「……はぁ。仮加入としてなら、認めてやろう」
「…! ありがとうございます…!」
こうして、このギルドでの生活が始まる。
俺は辛く、苦しく、痛い道程に足を踏み入れた。




