第11話 決断①
「………領主の、犬」
「ああ。そんな奴らの家族になるというのは、そういう意味だぞ」
そういう意味。つまり、俺も人殺しになるということ。領主とやらからの命令を、否応なしにこなさなければならないという事。
「エルリアは知ってるんですか」
「ああ、一応伝えはした。理解しているかはわからんが」
「………なんで、そんな事してるんですか」
見たところ、この人たちは貴族でも何でもない。そんな人たちが、なんで領主とやらの命令をこなしているんだ。
「取引の結果だ」
「取引? なんの取引ですか」
「仲間でもないお前に話す義理はない」
「………」
ここまで話しといてそれは教えてくれないのか。俺はこの人たちにとって敵ではないだけで、味方でもない、ということか。ならば、これからの俺の扱いはどうなる。
「俺の事はどうするんですか」
「ギルドに入るつもりがないのなら、エルリアの護衛をさせる」
「エルリアの護衛…」
そうだ、この人達とあの子の関係はなんなんだ。間違いなく血縁ではない。だったら、なんであの子と一緒に暮らしてる? ガイウスにとって大切な人と言っていた。どう大切なのだろう。
「なんでエルリアと暮らしてるんですか。あんな小さい子と闇ギルドの人たちが一緒に暮らしてるなんて、どう考えてもおかしい」
「お前が知る必要はない」
「……ありますよ!」
「部屋で大人しくしてろ」
「…………っ」
結局教えてもらえないのか。後ろの二人は何も言わないのか?
俺は後ろに立っている二人をこっそり見た。
「……………」
「…………っ」
アッカドは平然としていた。だがユーリィは、なんだか辛そうな顔をしていた。
あとでユーリィを尋ねよう。とても優しい彼女のことだから、何か教えてくれるかもしれない。
とりあえず今は大人しく部屋に戻ろう。ガイウスがいる場で聞き出せるとは思えない。
俺は踵を返し、部屋に戻った。
「……………はあ」
何もすることがない。ユーリィはまだガイウスといるだろうし、話を聞くのはもう少し時間を置いてからでないといけない。それまで何かで暇をつぶしたいが、女児の部屋を勝手に調べる訳にもいかないしな。今までの振り返りでもするか…。
「……ねえ、ガイウス」
「何だ」
「過去に会った転生者って、この世界のことを知ったら人を殺しはじめたのよね。だからあいつにも教えなかった。でも、結局教えたのはなぜ?」
「あいつにそんな度胸ないだろう。それに、契約した後なら、いざという時にエルリアが対処できる」
「………それ、エルリアにあいつを殺させるってこと?」
「…………」
「あんたねぇ……!!」
「あくまでその場に俺がいなかったらの話だ。俺がいれば、俺が殺る。お前が悩む必要はない」
「………そんなこと、言わないでよ…」
女は優しすぎる。いつでも仲間のことを考え、他人のことを考え、世界のどこかの人の生を考えている。『死は絶対の終わりであり、恐怖であり、他人によってもたらされていいものではない』。そう思っている女が、誰かを殺せるはずもない。
「お前が気にする必要はねえよ。お前は誰かに優しさを振りまいてりゃいい。それがこの世界で、お前がしてやれることなんだ」
男は一途だった。いつでも仲間のことだけを考え、一人の女の事だけを考え、自らの手を汚すことに躊躇はなかった。しかし、そんな男も他人を直接手にかけたことはなかった。
「………全部俺に任せておけばいい」
そう、この男だ。いくつもの命を屠り、自らのため、ある女性のためにあらゆるものを犠牲にし、自らを極悪人と称するこの男。自らだけを極悪人と称するこの男。
三人で『エゴイスト』。それは実質一人だった。全てを一人で背負うと決めたが故に。仲間の手を汚させないために。
「ねえ、ガイウス。わたし、おにいちゃんのところに行ってくるね」
「……ああ」
全ては、彼女のために。
床の上でゴロゴロと転がっていると、ガチャッと誰かが扉を開け、部屋に入ってきた。俺は仰向けになって扉に目をやった。
「おにいちゃん、わたしとおはなししよ」
「あ、ああ。いいよ」
エルリアだった。俺は体を起こし、エルリアと向き合って座った。固定されている腕が痛々しい。全て自分のせいだ。謝らなければ。
「ごめん、エルリア。腕、痛いよね」
「んー……? あ、だいじょぶだよ。もうすぐなおっちゃうもん」
「それって、どういう意味」
明らかにおかしい。誰かに治してもらうというニュアンスではないと感じる。でも、だとしたら。
「かってになおっちゃうの」
「………そう、なんだ」
勝手に治る。自然治癒で治るという認識で相違ないだろうが、どういう事だ。まだ一日も経過してないのに、もう治りそうだと? どうやらこの子についても色々探らないといけないみたいだな。
「それより、おはなししよ!」
「あ、ああ」
最近のエルリアを見ていると、こういう年相応な時のほうが珍しく感じてしまう。
「おにいちゃんって、なんていうの?」
「なんて……ああ、名前?」
「うん」
この世界に来て初めて聞かれた。多分まだ誰も知らないだろうな...。
「俺は『アラタ』って言うんだ」
「アラタ…? へんなひびきだね」
「そうかな」
この世界では変か。
それから少しの間、下らない話で時間を潰した。俺は基本的に聞くことに専念していた。楽しそうに話しているエルリアを見ると、なんだか気が楽になった。
「ねえ、あらたおにいちゃん。ユーリィにききたいこと、あるの?」
「え、なんでわかったの」
「えへへ、なんとなく」
エスパーかな。 ...エスパーなのか? ほんとにいそうで怖いぞこの世界。
「ユーリィのへや、いこ。もうもどってるよ」
「教えてくれるかな」
「ユーリィはやさしいから、きっとおしえてくれるよ。こっち」
エルリアに案内され、ユーリィの部屋の前に来た(案内されずとも来れるが)。今はエルリアの言葉を信じよう。俺は勇気を出してノックした。
「はい……あんた」
「すいません、聞きたいことがあって」
「………外で話しましょう」
そういって廊下の、食卓と反対側の裏口から外へ出た。
ユーリィは裏口を閉め、誰も出てこれないように扉に寄りかかった。俺はユーリィと向かい合い、エルリアと手を繋いだままユーリィからの言葉を待った。
「聞きたいことって?」
前置きなく本題に入る。でも、どうやら教えてくれるらしい。
「取引の結果闇ギルドをやってるって言いましたよね」
「……ええ、まあ」
なんだか歯切れが悪いが構わず続けよう。
「取引ってなんですか」
「……領主様との直接の取引でね、情報を貰う代わりに、領主様からの命令に従う。まあ、主に依頼をこなすの」
情報との交換? だとしたら、人を殺さないと手に入らないぐらいの情報ってことになるぞ。そんなに価値があるものなのか?
「情報って、なんの情報ですか」
「魔眼の情報」
「まがん? なんですかそれ」
「……それを知るには、この世界のことを知らないといけないんだけど……」
「…? どうしたんです…」
ああ、そういう事か。俺が前の転生者の二の舞になりかねないと思っているのか。
「大丈夫です。前の転生者みたいなことはしません」
「…………この世界はね、七つの国に分かれてるの。王都ゴッデス、夢都グローリア、魔都アトラス、男都スタンブルク、枯都リヴァイア、数都アルキメデス、神都レジエント。なんとか都ってやつは通称ね。それで、かつてはそれぞれを魔眼を持った魔法使いが治めてたの」
「じゃあ、国のトップの情報を集めてるってことですか?」
それだと少しおかしい。人殺しまでしなくとも情報ぐらい手に入れられそうだ。まさか国のトップが素性を明かさないなんてことはないだろうし。
「話は最後まで聞くものよ。『かつて』って言ったでしょう? その体制はもう崩れてるし、七つのうち一つは…いえ、二つは行方不明なのよ」
「じゃあ、それを探していると?」
「ええ、私たちが探し求めているものは行方不明になっている魔眼の一つ、『仮定の魔眼』よ」




