第96話 急転
「はぁ……」
「はぁ……」
夕飯後。食卓にて。
「「はぁぁぁぁ………」」
アッカドとカルディアが溜め息をつきまくっている。
「あんまり落ち込まないでくださいよ。生きてるだけでも幸運ってものです」
「でもなぁ……勝てねえ相手は久しぶりだ。凹む」
アッカドたちがまたネクロマンサーに襲われたのだそう。みんな無事で良かった。
「察するに、お前らの方も進展ねえんだろ?」
「全くない訳じゃないですけど、正直ネクロマンサーに近づいてる気はしません」
フォード君宅には何もなかった。むしろ無さすぎて逆に怪しかった。
フォード君の物は幾つかあったが、お母さんの私物がほとんど見当たらなかったのである。あったのは服ぐらいで、その数も少なすぎた。
「少年の母親、多分すごく強いんだよねー」
「なんで?」
「今日はあの二人、冬服を着てたでしょ? あれに細工がしてあるのか、魔眼で見れなかった」
「お前が雑魚いんじゃねえか?」
「否定はできないけど、そこまで盲目じゃないよ、僕の魔眼」
推測ばかり捗れど、依然証拠はない。
「もう少しお母さん探ってみよう。それでダメだったら、いよいよお手上げだね」
「寒冷化の方も進展ないしなぁ。結構無謀な事してるのかもしんねえな、俺たち」
「ですね。でも、頑張りましょう」
「そうだな」
今日はもう寝るか。
「俺寝ますね。おやすみなさい」
「おう。……あ、そうだ。アラタ、一個教えとく」
「なんです?」
「ネクロマンサーは女だ」
アッカドは断言した。
「な、なんで分かるんですか!?」
「今日やり合ったときに声を聞いた。あと、多分だが、ネクロマンサーは額の辺りを怪我してるはずだ。俺が傷つけた」
「おー、分かりやすい目印だね」
「だろ? 参考にしてくれよ」
「はい、参考にします…!」
俺はそのまま寝た。色々考えていたので、寝るのに時間がかかった。
ネクロマンサーは女。
その言葉が頭から離れなかった。
「……どういうことですか」
翌日。俺たちは真正面からフォード君宅を訪ねていた。お母さんの顔がとても怖いです。
「このままです」
「来ちゃったっす」
「帰りなさい」
「あー待って閉めないでよー!!」
カルディアは必死に扉をこじ開けた。
「君はフォード君の前には現れるなって言っただけじゃないか。僕らは君に会いに来たんだよ?」
「私に……? 何故ですか」
「えっと……君、強いでしょ?」
「……だったらなんです」
「ほら、そこの化け物がさ、修行中で君に興味があるって」
俺!?
「……だとしても、手合わせはしません。帰りなさい」
「いやーーー待ってよーーーっ!!」
カルディア粘るな……頑張れ!
「……なんですか」
「君、忙しいんでしょ?」
「……ええ。それが何か」
「最近のリヴァイアって物騒じゃないか。だからさ、フォード君を放っておけないんだよ」
ここでフォード君を引き合いに出すとは、うまいな。
「もう他人じゃないからね。よその家庭に口挟むようで悪いけど、フォード君を一人で置いていって、ちょっと無責任なんじゃないかな?」
「…………」
フォード君のお母さんは黙ってしまった。
「……つまり貴方達は、フォードの面倒を見たいと?」
「そこまでは言ってないけど、まあそんな感じかな」
「………」
フォード君のお母さんは考え込んでしまった。
俺は小さな声でカルディアに話しかけた。
「カルディア。ちょっと踏み込みすぎじゃないか……?」
「何言ってんの。ここは踏み込むべきでしょ。それとも何、君にはあれが見えないの?」
そう言うとカルディアは、フォード君のお母さんの額辺りを指さした。
「……見えるよ」
そこには包帯が巻かれていた。
昨日アッカドが言っていた。ネクロマンサーは額の辺りを怪我しているはずだと。
昨日会った時はこんなものなかった。あの後に負った怪我という事だ。
「黒寄りのグレーだよ。僕らが探すべきは証拠、あるいは動機だ」
「今問い詰めたらどうっすか?」
「詰めきれないだろう。せめて証拠は集めるべきだ。……おそらく彼女だろうが」
フレアの言う通りである。
俺たちは最早確信を得ていた。
(たぶん)強いし、アリバイもなければ、ネクロマンサーと同じ位置に傷を負っている。そして、女性。
この人、すごく黒い。
しかしそれでも疑いきれずにいるのは、彼女がフォード君の母親だからだ。
フォード君の母親がそんなことするのかな。証拠も大事だが、今はとにかく動機が知りたい。動機が分からなければ、断定できない。
「……分かりました。お願いします」
フォード君のお母さんは俺たちのお願いを聞き入れてくれた。
「え、いいの!?」
「頼んでおいて何故そんなに驚くのです」
「頼んでおいてなんだけど、普通許可出さないでしょーこんなふざけたお願いに」
「……大事な子供です。失いたくない」
「ふーん……」
「私はサラです。これからよろしくお願いします」
かくして俺たちは、合法的にフォード君と関われることになった。
三日が経過した。
俺たちは今日もフォード君宅を訪ねていた。最近変わったことといえば、気温がさらに下がったぐらいだ。調査は進展していなかった。
「お母さん、お水」
「……はい」
俺たちがフォード君と関われるようになってから、サラさんもずっと家にいた。俺たちの意味がないじゃんか。余程フォード君が心配らしい。
「じゃ、今日は帰るよ。じゃあね、フォード君」
「う、うん……」
最近のフォード君は、俺たちが帰る時に悲しそうな顔をしていた。懐かれたらしい。
「明日も来るよ」
「……うん」
俺たちはフォード君宅を出た。
「サラさんでほぼ間違いないはずなんだけど……」
「何にも掴めないね」
未だ事態は進展していなかった。ただただ時間を浪費し続けているだけのように思えた。
そんな時だった。
「ま、待ってください!」
「……?」
その声に後ろを振り向くと、サラさんがこっちに向かって走ってきていた。
「ど、どうしたんですか」
「フォードは一緒ですか!?」
「いや、いませんけど……」
「そんな……」
「何かあったのかな?」
そうカルディアが尋ねた。サラさんの返答は信じ難いものだった。
「フォードが居なくなりました……!!」
実に意外なことに、事態を急転させたのはフォード君だった。




