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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第95話 落とし物

「アッカド、(はや)るな。強敵なのだろう」

「あいつは今、ここで捕まえる!!」

「分かっている。逃すつもりはない」

「ボス、援護頼む!!」


 アッカドは骨の軍勢に突っ込んでいった。全身には赤い刻印が現れ、行く手を遮ろうとする骨たちをものともせずに突破した。

 その様子を見たネクロマンサーは後退した。アッカドがそれを見逃すはずもない。


「逃げんな!!」


 アッカドとネクロマンサーが接触した。


「逸るなと言っただろう……!」


 置いていかれたガイウスもその戦闘に加わろうとする。しかし。


「……!?」


 目の前の骨の軍勢が一箇所に集まったかと思うと、合体して大きな人の上半身を形作った。そして、巨大な右腕でパンチを繰り出してきた。

 ガイウスは当然障壁で防いだが、勢いで後方に吹き飛ばされた。


「ボス! ……ボス!?」


 アッカドが異変に気付いた。ガイウスはどこにも見当たらない。


「……まあいい。一人でもやるだけだ……!!」


 ネクロマンサーと睨み合った。相手の表情は、依然窺えなかった。







「チッ……分断されたのか」


 吹き飛ばされたガイウスは、ゆっくりと立ち上がった。前方からは巨大な骨の塊がゆっくりと近づいてきている。


「……やむを得ない」


 ガイウスは黒い剣と辞書よりも厚い本を取り出した。剣の柄を右手で握り、厚い本を左手に持ち、両手が塞がっている。


「こんな稚拙(ちせつ)な戦い方はしたくないんだがな」


 ガイウスは剣を道に突き立て、本を開いた。そしてすぐに呪文を唱えた。


「『ファンタズマゴリア』」


 瞬間、ガイウスの周囲から金色の魔力が爆発的に溢れ出した。それは次第に大きな人を型取り、やがて目の前の白骨と同じ姿になった。


「すぐ終わらせる」


 その掛け声と同時に、ガイウスの金色の魔力が動いた。右腕を引き、先刻やられたパンチと同じ動作で白骨の集合体を殴った。

 白骨の集合体は非常に脆く、それだけで砕け散ってしまった。だが、これで終わる訳もなかった。

 砕け散った骨が再び組み上がり、何事もなかったかのようにまたガイウスの行く手を阻んだ。


(ネクロマンサーがいる限り不死身か? だとしたら、面倒なことになったな)


 ガイウスは再び、今度は左腕を操って骨の塊を殴った。


「失敗するなよ、アッカド……!」


 また骨が組み上がった。持久戦が始まった。














「おい、逃げんなっつってんだろ!!」


 アッカドは全く攻撃してこないネクロマンサーを相手に、ひたすら攻撃し続けていた。

 そのいずれもヒットすることはなかった。当たりかけても触手で防がれるし、逃げ足も実に素早いものだった。


(速え……! 目で追うので精一杯だ…!)


 やはり強敵だった。ネクロマンサーは街を駆け回り、アッカドは必死に追いかけていたが、はっきりと捉えることが出来ずにいた。


(やっぱ『枷』邪魔だな…!)


 アッカドはとにかく追いかけ回しながら、ネクロマンサーに向かって叫んだ。


「おい、お前! 何が目的だ! なんで攻撃してこねえ!? 人の死体操って何する気だ!」


 そこまで言った瞬間、ネクロマンサーはアッカドの方を振り返った。そして四本の触手を合成して巨大な触手を作り、アッカドに向かって真っ直ぐ攻撃を放った。


「っぶね!?」


 間一髪だった。なんなら少し掠っている。

 ネクロマンサーは逃げることをやめ、立ち止まった。アッカドも距離をとって立ち止まった。

 両者はピタリと動きを止めた。しばらくの間睨み合った。


 アッカドは感覚派であり、基本直感に従って生きているから、色恋以外のある程度のことは察することが出来た。故に。


「……お前、なんで怒ってる?」


 ネクロマンサーが怒っていることを感じ取ることが出来た。


「……さない」

「あ?」

「許さない!!」


 突然触手の数が増えた。その先端の全てがアッカドに向けられた。


「『許さない』ねえ……だがよ、声変えなくてよかったのか?」

「……!!」

「お前、女か」


 アッカドの問いかけに答えることなく、ネクロマンサーは攻撃を仕掛けた。


(っ!? 強えし速え!)


 以前にも増して熾烈(しれつ)。反撃の隙などあるはずもなく、アッカドは回避するだけで精一杯。


「……っ、何で怒ってんだ!? 言っとくが、俺の方が怒ってるぜ!! 許さねえからな! カルヴァスを返せ!」


 アッカドはやっとの思いで反撃した。いつかと同じように、仮面を思い切り殴った。


五月蝿(うるさ)い……!!」


 ネクロマンサーは怯まなかった。しかし、彼女の仮面はそうもいかないらしい。

 以前の一撃も響いているのだろうか、仮面にはヒビが入っていた。


(あと一発入れれば、顔が見える!)


 ネクロマンサーは仮面のヒビに気づいていなかった。絶好の機会である。


「お前、人の死体操んのが目的なんだろ!? なんでそんなこと目指してる! 何がしてえんだ!?」

「……だから、五月蝿い……!!」

(今だ!)


 アッカドは会話で隙を作り出した。ネクロマンサーの気が乱れ、触手の操作が雑になった。


「顔を見せやがれ!!」

「……っ!?」


 アッカドは一直線に走って、仮面に飛び蹴りを食らわせた。


(どうだ!?)


 すると、アッカドの思惑通り仮面全体に亀裂が入り、仮面は粉々に砕け散った。


(見える!)


 そう思った。だが。


「うぐっ……!!?」


 アッカドにも隙が生まれていた。それをネクロマンサーは見逃さなかった。新たに触手を一本生やし、アッカドの腹に突撃させた。

 アッカドは遥か後方に吹き飛ばされた。廃墟の壁に激突し、倒れ込んだ。


「クッソ……!」


 立ち上がることが出来ない。まともに鳩尾(みぞおち)に食らい、体を起こすのがやっとだった。


「ま、待て……!」


 ネクロマンサーはまたも逃げ去った。顔を見ることは叶わなかった。

 アッカドは倒れたまま叫ぶこともできず、拳で床を砕いた。

















「………!」


 骨の塊の動きが止まった。

 突然形が崩れたかと思うと、カラカラと乾いた音を立てながら骨は床に散らばった。


「終わったか」


 ガイウスは魔法を解いた。剣と本を仕舞い、アッカドを探した。


「アッカド、何処だ!?」


 何故か何処にも姿がない。周囲の廃墟はさらにボロボロに崩れ、戦闘の激しさを物語っていた。


(アッカドに限って負けるなどと……いや、ユーリィがいなければ有り得るか。まずいな)


 ガイウスは丁寧に探し続けた。そして。


「……こんな所にいたのか。探したぞ」


 アッカドがネクロマンサーと接触した場所からかなり離れた所に、アッカドは壁にもたれて座り込んでいた。


「ああ、ボスか。悪いな、捕まえらんなかった」

「いや、無事ならいい。一人では無茶だったろう」

「認めざるを得ねえなあ。素の状態じゃ勝てね」

「今後ネクロマンサーとの戦闘は避ける。アラタたちに任せよう」

「それしかねえか……」


 アッカドはガイウスの肩を借りて立ち上がった。


「そういやあ、ジーのおっさんは何処だ?」

「外かもしれん」

「はあ? なんでだよ。探索してるはずだろ」

「どのみち、お前を一旦外に出さねばならない。行くぞ」

「へいへい……」


 二人はゆっくりと歩き出した。















「ジー、何をしている」

「む!?」


 馬車に到着すると、そこにジーはいた。


「探索はどうした」

「いや、すまない。忘れ物を探していた」

「忘れ物? 何忘れたんだよ」

「お守りだ。肌身離さずつけていたんだが、見当たらない」

「どんなやつなんだ?」

「子供が作ったもので、木の実の種と紐で作られた、小さなやつだ。かなり前に贈られて、大切にしてたんだがな……」

「地下の街に落とした可能性は」

「ゼロではないが、探して見つからなかった」

「そうか。なら、今日は戻ろう。アッカドが負傷した」

「負傷……? 転びでもしたか?」

「襲われたんだよ。ネクロマンサーに」

「ネクロマンサー……とは誰だ?」

「北の街で俺らを襲ったやつ」

「何!?」


 ジーは驚いた。


「そういう訳だ。一度戻ろう」

「分かった。レン、起きろ」

「………はい。はい? あれ、寝ちゃってました?」

「気持ちよさそうにな。馬車を出してくれ。帰還する」

「わ、分かりました」


 調査隊は一度街に帰還した。

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