第94話 再び
「さてと。おっさん、古語とやらは読めたのか?」
場所はアグリクト二階。ジー、ガイウス、アッカドの三人は昨日と同じように話し合っていた。
「完全な解読はできていない。だが、うむ。重要な部分は解読できた気がする」
「どういう内容なんだ?」
「少し神話染みているな。正直ピンとこない」
「読んでくれ」
「ああ」
ジーは現代語訳を写した紙を手に持って、音読し始めた。
そしてある日、それは現れた。突如北の街が、雲をも突き抜けるほどの大樹に囲まれたかと思うと、我々の知らぬそれはその中央の大地を突き破って出た。我々はそれを見て唖然とした。
それは生きていたのだ。今はまだ深く呼吸をするのみ。しかし、人々はあれを恐れている。あの得体の知れぬ巨体が放つ、人体を蝕む瘴気を恐れている。
故に、我々はあの脅威に備えなければならない。我々の全力を持って、あの脅威を乗り越えなければならない。我々の貧弱な魔法の知識をもって、あの災害のような脅威を乗り越えなければならないのである。
「……以上だ」
「ったく、接続語から始まるなよ……はっきり言って意味わかんね」
「寒冷化との関連性も分からんな。全文の解析にはどれほどかかる」
「すまんが、全文は無理だ。かなり古いようでな、そもそも読み取れる部分が少ない」
「そうか。ふむ……」
ガイウスは考え込むふりをした。深い意図がある訳ではない。
「なあ、もう一度行って、より詳しく探索してみないか? 人員も増やして、準備も整えて」
ジーからの提案だった。妥当な判断に思われる。
「……そうだな。準備はしっかり整えて行こう。だが、人員は必要ない」
「何故だ?」
「以前のようなことがあっても困るからだ」
「……そうか、そうだな。俺たちだけで行こう。準備を整えてくる。あんたらも身支度を整えてくれ」
「分かった」
ジーは部屋を出て行った。
「俺たちも行くぞ」
「おう」
ガイウスたちもそれに続いて部屋を出た。
「さてと。沢山見つかるといいな、手がかりみてえなもん」
「正直に言うと、望みは薄いだろう。見つかったとしても、解読できるかどうかも怪しいしな」
「やるだけやってみようぜ。な、ボス?」
「そうだな」
三人は地下の街に来た。レンと馬車は地上で待機している。
「手分けして探さないか? その方が効率的だ」
「手分けねぇ……俺的にはナシだが、どうする、ボス?」
「別れよう」
「……ボスがそう言うなら、そうするか」
「イェスマンなんだな」
「嫌な言い方すんな、おっさん」
三人は手分けをして探索することにした。
「ふむ」
ガイウスは建物跡地をひたすら調べていた。未だにめぼしいものは見つかっていない。
あるのは白骨や瓦礫のみ。書物のカケラのようなものは見つかっても、読むことのできるものはなかった。
(場所を変えるか)
ガイウスは探索範囲をさらに広げることにした。
「ふむ……」
何も見つからない。探索とは本来こういうものであるから、彼がめげることはなかった。しかし。
(妙……ではないが、不自然だな)
地下の街は変に整っていた。邪魔な瓦礫がほとんどないし、白骨も全て隅に置かれていた。
(やはり、大方は既に探索済みか。ならば、ここに来る意図はなんだ?)
ガイウスはジーへの疑いで頭がいっぱいだった。
ガイウスはしゃがんで、転がっている白骨の一つを見つめた。すると、白骨の頭蓋が上を向き、ガイウスと目が合った。
「……………」
もちろん白骨が言葉を発することはない。故に意思疎通が図れない。だが、ガイウスは必死に目で訴え続けた。
(どうやって動いた……?)
そして白骨は、何も分からぬガイウスを嘲笑うかのように、突然カタカタと口を動かした。
「何!?」
ガイウスは後ずさった。目の前の白骨は、ガイウスを逃す気がないのだろうか、立ち上がってガイウスに抱きついた。
ガイウスは即座にそれを引き剥がし、蹴飛ばした。白骨は後方の壁に激突し、砕け散った。
「……終わりか?」
そんな訳はなかった。
目の前に散らばったバラバラの白骨が勝手に組み上がるのと同時に、周囲に転がっている沢山の白骨も立ち上がった。そしてその全てがガイウスの方を向いた。
「………怪談は苦手なんだがな」
ガイウスがポツリと呟いた。次の瞬間、白骨の大群と人一人との戦闘が始まった。
「なんもねえなー」
アッカドは一人で探索を続けていた。途中、
「アッカド! 戦闘だ!」
ガイウスの叫びが聞こえてきた。
「……はいはい。今行きますよ、ボス!」
アッカドは大きく跳躍した。空中で複数回捻った後、ガイウスを襲わんとしている白骨を砕きながら着地した。
「呼ばれて参上! なんだ、相手は骨か?」
「だけではない。アッカド、一つ聞いておく」
「なんだよ」
「あれがネクロマンサーか?」
「……ああ?」
ガイウスの視線の先には、見たことのある姿があった。
異形の獣を模した仮面を顔に付け、全身をローブで覆い、裾からは十数本の触手が生えていた。
それはカルヴァスを屠った魔法使いだった。
「白骨も死体に含まれるらしい。厄介なことになった」
ガイウスは冷静だった。だが、アッカドは違った。
仲間を屠った存在が目の前にいる。ユーリィを傷つけた存在が目の前にいる。
「てめぇ……」
アッカドはネクロマンサーを強く睨んだ。
「どのツラ下げて俺の前に現れてんだ、ああ!?」
ネクロマンサーはその威嚇に動揺することなく、ただそこに佇んでいた。




