第93話 犯罪
「なんか、一方的だったな」
「……うーーん………」
「フレアだけ無傷っす。ずるいっす」
「やめろ、僻むな。態度の問題だろう」
「余計傷つくっす……」
フォード君のお母さんに置いていかれた俺たちは、足を崩して文句を言い合っていた。足が痺れてみんな立てないらしい。俺は立てるけどノリで付き合っています。
「ねえねえ、三人とも」
「どうしたカルディア」
めっちゃウジウジするじゃん。
「あのさ……怪しくない?」
「何が?」
「あの母親。怪しいなー、とか思わなかった……?」
「えっと……」
さては最近間違えすぎて安易に断言できないんだな? イジりたい。が、ここは抑えて。
「変だとは思ったよ。質問の内容とか、魔法に詳しいところとか、適当な誤魔化しを流すところとか」
「同感っす。フォード君のこと心配してる割には、フォード君毎日ここ来てたっす」
「ネクロマンサーと繋げるのは流石に短絡的だと思うが、何か知っている可能性はある……かもしれない」
「だよね、だよね!」
カルディアは確信を得た途端に元気になった。可愛いと思ったら負けな気がする。
「尾行しよう!」
「攻めるな……。でも、どこ行ったか分かんないぞ」
「家でしょ。確か森の中にあるんだよね、彼らの家。まさか蛇行しながら帰るわけもないだろうし、あっちを真っ直ぐ行けば追いつけると思うよ」
「バレたら今度こそ終わりだぞ……?」
「その心配はないよ。ね?」
カルディアはコラブルを見た。
「っす」
コラブルはすぐ肯定した。
「オイラの『エージェント』、他人にも使えるっす」
「マジか!?」
「領域内にいれば可能っす。『エージェント』」
コラブルが魔法を唱えると、足元の影から黒い魔力が溢れ出し、俺たちの周囲を覆ってしまった。それは次第に収縮していき、やがて俺たちの体にピッタリと張り付いた。
「完成っす」
「……なんか、あれだな。意外にも異物感とかないんだな」
「今回は顔にもついてるっすよ」
「へー。でも視界は良好だぞ?」
「目だけ避けてるっす」
「器用だな」
「ぶふっ!」
誰かが俺を見て笑った。
「おい誰だ笑った奴」
「ごめん僕」
「素直だな。……ふっ」
「笑ったな!?」
「カルディアのは初めて見たし。笑っちゃうわ」
「早く慣れようね。ね!」
「そ、そうだな」
恥ずかしがっているのか分からないが、カルディアの声が若干うわずっている。可愛いと思ったら負けだ。早く慣れよう。
「ゴホン! とにかく、この状態ならバレずについていける。見られたのに野放しにするわけにもいかないしね。早く行こう」
「分かった」
俺たち四人はフォード君たちが向かった方向へ歩き出した。
「家に着いちゃったな……」
「真っ直ぐで合ってて良かったね」
しばらく経って、俺たちは森の中のフォード君の家に辿り着いていた。
さほど大きくはないが、質素で綺麗な家だった。大きな窓から中の様子が窺える。部屋も整理整頓されていて、生活感が薄かった。
中ではフォード君とお母さんが何かを話している。流石に声は漏れてこない。
俺は静かな声でカルディアに話しかけた。
「ここからどうする……? 家に押し入るわけにもいかないし……」
「待機だね……。向こうが何かアクションを起こすまでは、ここで我慢だ」
やはりそうなるか。しばらくはここでじっとしていよう。
一時間ほど経った頃。
家から誰かが出て行った。慎重に家の中を覗くと、フォード君しかいなかった。
「カルディア。お母さん出かけたみたいだぞ」
「そっか。じゃあ押しかけちゃう?」
「必要性をあんま感じないけど……」
「ここで怯んでると永遠に見つかんないっすよ、ネクロマンサー」
「……押しかけちゃうかぁ」
フォード君宅に押しかけることにした。
俺たち四人は闇魔法を解き、玄関の前に立った。
二回ノック。しばらくして、
「どちらさまですか」
フォード君が出迎えてくれた。いや、出迎えてくれたわけじゃないか。
「やあ、フォード君。来ちゃった」
「あ、お兄ちゃん。……なんで僕の家知ってるの?」
「野生の勘、かな」
「すごい……!!」
無垢な少年を騙した瞬間である。やむを得まい。
「僕たち、君のお母さんについて知りたいんだけど、教えてくれない?」
「いいよ」
「じゃ、おっ邪魔しまーす」
カルディアはズカズカと他人の敷地に入って行った。それに続いて俺たちも中に入って行った。
「君のお母さんの仕事は何? まさか専業主婦じゃないよね」
「えっと……なんか、難しいことだった」
「魔法関連?」
「わからない」
カルディアはフォード君の家を漁っていた。もちろん形跡を残さぬよう丁寧に漁っているが、よくもまあそんなに躊躇なく漁れるものだ。俺なんか立ってるだけで息苦しいのに。
「君のお母さんっていつも留守なの? 君、毎日来てたじゃん」
「うん。まいにち街にいってる」
「ふーん……」
めぼしいものが見つからないらしく、カルディアはあっちこっちを探っていた。フレアとコラブルも慎重に探索している。俺だけサボりみたいになってるが、俺に他人の家を漁るのは無理だ。
「君のお母さん、何か変なことに加担してない? 些細なことでいいんだ。変なところがあったら教えて欲しいな」
「えっと…………」
フォード君は黙ってしまった。待て、なぜそこで口籠る。
「……あるの?」
「ううん、ないと思う。ただお母さん、変人だから、たまに嫌われる」
「へー……」
変人……そうは見えなかったけどな。もう少し探る必要がありそうだ。
「フォード君。お母さんはいつ帰ってくるか知ってる?」
「たぶん、夜になってから」
「遅いねえ。いつもそうなのかな?」
「うん。いそがしいんだって」
「じゃ、もうちょっと探ろうか」
「……分かった。手伝うよ」
結局は俺も加わり、全員で家を探索し始めた。
「……さっきからなにしてるの?」
「え? あー……『気にしないで』、は無理があるか。物盗んだりとかはしないから、見逃して欲しいんだけど……」
「わかった。みのがす」
「……助かるよ」
指摘されて初めてやってることのヤバさを自覚した。これ、もしネクロマンサーと無関係だったらどう言い訳すればいいんだろう……。




