第92話 邂逅
「一日ぶりの広場だな」
「特に何も感じないね。少年が来るまでは、適当に時間潰そうか」
「っす」
翌日。予定通り広場に来た。ここに来ると修行をする気分になるが、今日はその必要はない。
「フォード君、いつ来るかな」
「さあね」
「フォード君の位置とか分かんないんすか?」
「探せば分かる」
「じゃあ探すっす。待ってる必要はないっすよ。こっちから突撃すりゃいいんっす」
「……ちょっと待ってね」
カルディアは魔眼でフォード君を探し始めた。
「……あれぇ? 覚えたはずなんだけど……」
「見つからないのか?」
「うん。なんか見当たらないや」
「じゃあ待つっす」
「切り替え早いな」
俺たちはしばらく木陰に入りながら待っていた。途中の会話はくっだらないことばかりだったので割愛。
かなり時間が経って。
「お。コラブル、あそこ見てみ」
「んん? おお、いるっす」
丁度反対側の木の後ろから、フォード君がこちらをチラチラ覗いている。この距離、魔法がないと見えなかっただろうな。
俺はすぐに立ち上がって、駆け足でフォード君の元へ駆け寄った。道中目が合い、フォード君は笑い出していた。罪悪感があるなら来なきゃいいのに……。
「アラタどうしたの?」
「フォード君見つけたんっす」
「本当? どれどれ……うーん? 何も見当たらないなぁ……」
「……まずい」
「フレア? 何か見えたんすか?」
「ああ。コラブル。アラタを止めろ。全力で」
「アラターーーー!!!! ステイっ!!」
なんだ? 騒がしいな。
俺はもうフォード君の目の前にいた。一度コラブルたちの方を振り返ってみると、大きな仕草で何かを必死に訴えていたが、俺には伝わらなかった。
いいや、放っておこう。
「フォード君、一日ぶり」
俺はとうとう声をかけてしまった。
「う、うん……」
「……? どうし、た………」
不意に、誰かがフォード君の後ろに立った。俺がゆっくりと視線を上げると、目が合った。
三十くらいの女性だった。長い茶髪を一本に結い、化粧はなく地味な服装。確かリヴァイアの冬着。だが、風貌などどうでも良かった。
見られた。女性の顔は真っ青だった。
「…………どうも」
挨拶してみた。
「きゃあああああああああああああああ!?!?」
「どわあああああああああああああああ!?!?」
最悪の邂逅だった。
「説明してください……!!!」
「い、いや、これには訳が」
「せ、つ、め、い……!!」
現在、俺たちは四人全員正座させられています。すごくデジャブ。
なんと、女性はフォード君の母親でした。しかし、こうなるのは時間の問題だったのかもしれない。
「昨日家に帰ってみたらフォードが家にいなくて、必死に探してたら森の中で一人で歩いているし、理由を聞いてみたら気になることがあるとしか言わないから、今日確かめに来たら……」
女性はゆっくりと俺を見た。
「こんな化け物と関わっていただなんて……!」
初めて言われた率直な言葉は、俺の心の奥深くまで突き刺さった。
「化け物……だと……!? 酷い……」
「否定できないよねー」
「諸々のツケが回ってきたっす」
「私語は謹んでください……!!」
「「「すいません」」」
母、ガチギレである。
「フォードと何をしてたんですか?」
「いや、何かをしてた訳ではなく、フォード君が一方的に見てきただけで」
「……そうなの、フォード?」
少年は首を横に振った。
「あいつやってんな」
「コロッス」
「クソガキぃ!!」
母がヤジを飛ばす俺たちをキッと睨んだ。場が静まり返った。
「……もう何をしていたかはどうでもいいです。とにかく、二度とフォードには関わらないでください」
「……善処します」
「約束、してください」
「……はい」
今、すごく理不尽なことを言われている気がする。全てはフォード君次第だというのに。
「……少し、質問いいですか」
「な、なんですか?」
俺たちに聞きたいことがあるようだ。心当たりがありすぎてどれか分からない。
「貴方は……なんですか?」
なんですか、と来たか。精霊だと言うわけには行かない。上手く誤魔化そう。
「俺は……魔物です」
「魔物、ですか?」
「はい。めっちゃ賢い魔物です」
全然上手くない。警戒されてもおかしくないが、いけるか…?
「そうですか」
いけた!?
「そちらの二人が眼に宿しているのは、魔眼ですか?」
「へー、魔眼の色とか知ってるんだ。詳しいねー」
「基礎知識でしょう……?」
「魔法使い界隈では、そうだねー」
カルディアの奴、やけに煽るな。何か視たのだろうか。
「……透視と業火は、ゴッデスが所有しているはず。何故こんなところにいるんですか」
「え? あー……家出?」
「……本当に?」
「うん、本当」
苦しい。苦しいぞカルディア。ママさんの顔を直視できない。
「……そうですか」
いけた!?
「あれ、意外と興味ないんだね。魔法詳しいんでしょ? もっと思うことないの?」
「ないです。興味もない。早く家に帰りなさい」
「辛辣だねー……」
「……そこのふくよかな男」
「はははははいっす」
コラブルめっちゃ震えてる……。
「貴方、昨日会いましたね」
「はははいっす」
なにぃ?
「暇な人間を探してるそうですが、何故ですか」
「そそそれは………強い人を探してるっす」
「探してどうするんですか」
「えええっと……」
まずい、思った以上に踏み込んでくる。ここは上手く誤魔化さないと……!
「あの、俺が!」
「……化け物が?」
「……俺が、強くなりたいなー、って」
「何故ですか」
怒涛の質問攻め。なんなんだ?
「憧れ、的な?」
「……そうですか」
いけた!? 何故こんな適当な誤魔化しが通じるんだ……。
「あの、何か気になることでもあるんですか? 質問の内容が変というかなんというか……」
「いえ、特には」
「嘘だぁ」
「言っておきますが、貴方たちに興味はありません。私たちはこれで失礼します」
そう言うとフォード君のお母さんは、フォード君の手を取って歩き出した。
「二度と、息子の前に現れないでください」
そう吐き捨てた後、彼女がこちらを振り向くことはなかった。
フォード君は、ずっと俺のことを見ていた。




