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畏怖×if 無に帰す魔法と八つの魔眼  作者: 金剛陽薙
第5章 枯れた大地を屍が這う
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第90話 地下の街

 ジーがゆっくりと瞼を開けると、目の前には緑に輝く魔力の天井があった。


 体を起こすと、節々が痛んだ。特に腰の辺りを強打したらしく、すぐに立ち上がることができなかった。


「お、起きたかおっさん」


 そばにアッカドがいた。彼は無傷のようだった。


「ここは、どこだ?」

「俺には分かんね。でも地上じゃないぜ」

「なに……?」

「記憶大丈夫か? 頭打ったか?」

「いや、頭は大丈夫だ」


 ジーは冷静に気を失う前のことを思い出した。


「……ここは、地下空洞のさらに奥深くか」

「そういうことになるな。ちなみに落ちてから三十分ぐらい経ってるぜ。周辺の安全確認も済ませてある」

「相変わらず能があるな。見事なものだ」


 ジーは腰の辺りを押さえながらやっとの思いで立ち上がり、辺りを見回した。


「これは……!?」


 石製の建物がそこにあった。それも一つや二つではなく、視界にある分だけで一つの村を形成できるほどの数だった。

 リヴァイア外縁の街のように住居が点在しているわけではなく、それらは綺麗に並んで立っていた。おそらくだが、街としての規模もかなり大きいだろう。


「どういうことだ。何故こんなところに……人はいるのか?」

「いねえ。白骨ならあるけどな」

「ということは、()()のか」

「そうなるな」

「ガイウスは?」

「ちょっと遠くを見に行ってる。もうそろそろ戻ってくると思うぜ」

「そうか、分かった」


 ジーは後ろにある、緑に光る壁に目を向けた。それは天井と同じもので、この大きな街をドーム状に覆っていた。不透明で、向こうの様子は窺えない。


「端っこの方に落ちたのか。しかし、これは通り抜けられるものなのか?」


 ジーは壁に近寄り、人差し指の先端でちょこんと触れた。指の先端は壁にぶつかった。


「無理か。ならどうやってここに入った?」

「それ、硬いっちゃ硬いけど、全然壊せるぜ」


 アッカドはジーの横に並んで、思い切り緑の壁を殴った。拳は緑の壁を突き抜け、すぐ後ろにある石の壁に激突した。


「な?」

「お手本ありがとう。しかし、向こうに空間は無いのか。もしやこのドームごと地面の奥深くに埋もれているのか?」


 ジーが壁に空いた穴に目を向ける。しかし、穴はもうなかった。緑の壁は何事もなかったかのように無傷だ。


「む、穴はどこにいった?」

「この壁、すぐに治るっぽいんだよな」

「それはまた奇妙だな……」

「目が覚めたか」

「ぅお!? なんだ、ガイウスか」


 ガイウスが戻ってきた。


「どうだった、ボス?」

「魔物の気配はない。この空間の崩落も、緑の魔法障壁が防いでいる。安全に探索できるだろう」

「マジか? こんな場所で安全に探索できるっていうのは、それはそれで不気味だなぁ」

「運が味方をしてくれている。行くぞ」


 三人は街の探索を開始した。


「にしても、変な場所だな。人がいたのは確かだろうが、いつ住んでたんだ?」

「かなり過去の話だと俺は考える。ここを保っていられるのは、あの緑の壁のおかげなのだろう? おそらくだが、ここは元は地上だったんじゃないか」

「なんでそうなるんだ?」

「元々地下だったら色々矛盾するだろう。街など作れるはずもない」

「……あー、確かにそうだな」

「しかしそうなると、数千年ほど前ということになるが、うむ……」


 そこにある建物のほとんどは、既にボロボロだった。天井はなくなり、壁は崩れ、随所に白骨が転がっていた。


「人口も多かったようだな」

「……そうみてえだな」


 しばらく歩くと、広場のような場所に出た。白骨も建物もなく、地面も舗装されている。


「どっから手ェつけたもんかなぁ。どうする、ボス?」

「全体を調べるのは難しいな。大きな建物の跡地を探そう。何かあるかも知れない」


 三人は探索を続けた。途中いくつかの廃墟を探索したが、めぼしいものは見つからなかった。


「なあボス、次はあそこ探してみようぜ」

「ああ」


 そこはこれまで見たどの建物よりも大きかった。丈夫に作られたようで、他に比べて比較的形を保っていた。


「俺あっちの方探してみるわ」

「なら、俺は向こうに行こう」


 三人は手分けしてその跡地を探索した。


 しばらくして。


「お? なんだこれ。おーい、なんかあったぞー!」


 アッカドが何かを見つけた。呼ばれた二人はすぐにアッカドの元へ駆けつけた。


「それは……本か?」

「どう見ても本だな。でもよ、何書いてあるかわかんねんだわ」

「ほう? 見せてみろ」


 アッカドはジーに見つけた本を手渡した。ジーはそれを一ページずつ丁寧に読み込んだ。


「読めんのかぁ?」

「……古語、だな」

「読めんのか!?」

「時間があればもっと詳しく読める」


 驚きだった。


「どこでそんな知識身につけたんだよ」

「リヴァイアは土地の開拓も行なっているからな、稀に何かを掘り出すこともある。中には遠い過去の遺産もあるから、そのために勉強した」

「はえー……」

「役立つかは分からんが、やっと見つけたな」

「ああ。もう少し探索しよう」


 三人は探索を続けた。街が大きいためにかなりの時間を要した。


「……今日は切り上げよう。空が見えないせいで、どれほど時間が経ったか分からない。長居は愚策だ」

「うむ、それもそうか。しかし……」


 ジーは天井を見上げた。そこには依然緑の壁があるだけだった。


「どうやって戻る?」

「それ、俺も気になってた。なんか考えあんのかよ、ボス」


 アッカドの問いかけにガイウスは答えなかった。


「……まさか、戻る時のこと考えてなかったのか? 久しぶりに見たわ、抜けてるボス…」

「なんだと……!? 一大事じゃないか!」

「あまり騒ぐな。今考えている」

「手遅れな気がするが……!?」


 動揺するジーをよそに、ガイウスは一人考え続けていた。


 ジーはアッカドと話し合っていた。


「出口のようなものを探してみるか?」

「いやあ、ねえだろそんなもん」

「可能性はゼロではない。それに、ずっとここにいるよりはマシだろう」

「それもそうだけどなぁ……」

「なあガイウス。とりあえず歩いてみないか?」

「……いいだろう」


 良い案が思い浮かばなかったらしい。三人はとりあえず動き回ることにした。


「壁伝いに行こうぜ。出口があるとすんなら、壁近くだろうし」

「そうだな、それがいい」


 三人は街の外縁を歩き始めた。ジーが先頭を歩き、その後ろにガイウスとアッカドが続いた。


「ジー、今のうちに聞いておきたいことがある」

「なんだ」

「お前、領主か?」

「……ああ」

「んん!? どういうこった?」


 アッカドは置いてけぼりだった。ガイウスは構わず続けた。


「本名はなんだ」

「ジルクラック・キリングだ」

「そうか」


 ガイウスは発言をやめた。


「……もう終わりか、ボス?」

「ああ」

「じゃあ次は俺から。おっさん、領主って本当かよ」

「本当だ。私は嘘はつかない」

「なんで隠してたんだよ」

「俺には荷が重いからだ。名乗ることが躊躇われた」

「……そうかよ」

「もういいのか」

「十分だよ」


 そこからは、三人とも黙って歩き続けた。中途半端に舗装された地面にぶつかる靴の音だけが、ずっと響き続けていた。



 外縁の四分の一ほどを歩いた時だった。


「ん……?」

「どうした、おっさん?」

「ここのところ、妙に壁が揺らいでいないか」

「どれどれ……? おお、結構グラグラしてんな」

「アッカド、殴ってみろ」

「おう」


 アッカドは緑の壁を思い切り殴った。すると、揺らいでいる部分が丸ごと砕け、空間が現れた。


「マジかよ……」

「行くぞ」

「お、おう」


 三人は現れた道をしばらく歩いた。来る時と同じように傾斜がキツかったり、大きな段差があったりしたが、三人は淡々と進み続けた。




 一時間ほど経って。


「………流石に運良すぎねえか?」

「ツイてる日に来て良かったな」


 三人は外に出ることに成功していた。入った穴からかなり離れた場所に出たようだ。


「馬車の位置はわかるか、ジー」

「ああ。この辺り、見覚えがある。まさかこの穴があんなところに続いてるとは思わなかったがな」

「ならさっさと戻ろうぜ。日も暮れてきてるし、あいつ心配してるぞ」

「そうだな。急ごう」


 三人は馬車に向かって歩き出した。

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