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第1話 目覚め

 ふと目を覚ますと、見覚えのない床が目の前にあった。俺はその硬さを感じながら、ゆっくり体を起こした。

 

(ん……なんだろう……頭が重い)

 

 全身、特に頭部に違和感。正体を探るため手を動かしてみるが、

 

「わぁっ!!?」

 

 手元にいたクモに驚いて大声を上げてしまった。脚が長く毛がふさふさ。森にいるようなサイズだ。俺はすぐに立ち上がり距離を取った。

 虫は苦手なんだよ、気持ち悪いし。俺は何か叩くものを求めて部屋を見回し、クモの行方を逃すまいと再び目を向けたが、


「あれ……どこいった?」


 既にいなくなっていた。


(最悪だ、どこにいるかわからないのが一番嫌なのに……)


 こうなってしまっては仕方ない。眠気が覚めただけでもよしとしよう。今は状況把握に努めねば。


 まず、体。立ち上がった時に特に感じたが、異様に軽い。股間のあたりも以前に比べて空いている。そして自分の声。


「あー、あー」


 高い。これじゃあまるで女児の声だ。手や足も小さく、俺の肌にしては白かった。というかなんでこんな硬い床で寝てたんだ? 俺は......あれ、何してたんだっけ。

 

 記憶は曖昧だがとりあえず、

 

(鏡はないかな)

 

 部屋をぐるっと見渡す。六畳くらいか? 今の日本では珍しい石造りだ。ボロく見えるが、隅々まで掃除されているようで、床に手をついても埃があまりつかなかった。


 自分の正面には木製の扉、左の方にはピンク色のベッド。枕元には動物のぬいぐるみが四つ置かれている。これまたしっかり洗われているようで、シミや汚れはなく澄んだ色をしていた。その前方には本棚があり、少数の本が雑に横たわっている。なんの本だろう。ここから見えるのは......何かしらの文字。見たことのない文字で読めなかった。


 右の方には足の低いテーブルと座布団のような敷物がある。敷物も可愛くされていて、テーブルの上には何もない。俺の頭上で電気もついているが、電球の中おかしくないか? ぽわぽわしているような…。

 そのまま流れで後ろまで目を回す。


(お、あったあった……なんだ、これ)


 初めは鏡を疑った。鏡に嘘などつけないというのに。


 俺は「小さな女の子」になってしまっていた。それもかなり可愛い。ロリコンとかではないのでご安心ください。


 女体化、というやつだろうか。


 鏡に近づき自分の体をよく観察する。頭身が幼児そのものだから、頭が重いのだろう。髪やまつ毛などは綺麗な銀色だった。本当に可愛いな。何歳ぐらい若返ったのだろう。もとが十九歳だからさして若返っていないと思うが。


 そんな感じで自分の容姿をベタ褒めしてみたが、それとは別に、女体化にしてもおかしなものが二つある。自分の頭とお尻の少し上、ちょうど尾骶骨あたりについている、

 

「………これは」

 

 茶色のケモ耳と尻尾だ。


 なんだこれ。体から生えてるのか?


 尻尾を両手でモフモフする。それと同時に全身がむず痒くなった。生えてるな、これ。

 美少女にケモ耳がプラスされると、可愛さが止まることを知らない。自分に見惚れるだなんてことがあるとは。ナルシストってこういう気持ちなのかな。


 鏡を覗き込むようにして、今度は耳から尻尾まで含めた自分の姿形をじーっと観察する。服は白いワンピースだけで軽装だ。目は少し青色を帯びていて、まるで外国人のようだ。……あれ、普通の耳もあるじゃないか。合計で四つ付いている。なんて面妖な……。



 美少女すぎて思わず見入ってしまったが、自分の体ばかり観察していてはいけない。もっと考えるべきことがある。



 ここはどこだろう。誰かに拐われたのだろうか。なんで女体化したんだろう。「拉致」と「女体化」が全く結びつかず、状況把握が難しい。あとこの部屋、窓がない。監禁されてるのか? いずれにせよ、あまりいい状況とは言えない。扉が開くかどうかだけ試してみようか。


 そう考えていると、後方からガチャっと扉の開く音が鳴った。瞬時に振り向くと、


「………なんだ、その茶色いものは」

 

 その男が部屋に来たことよりも、その問いかけに驚いた。茶色いものって、尻尾とケモ耳のことだよな。俺のことを知っているのか? でも俺は知らないぞ。誰だこの人。


 歳は三十くらいだろうか。こんな状況でも「イケメンだ…」と思ってしまうほど顔が良い。逆光で見づらいが、瞳は金色のようだ。随分変わった色をしている。だが目つきが悪く、簡潔に言い表すならば「カッコいい悪人面」だ。


 などとあまりの動揺とその男の容姿端麗さにくだらないことを考えてしまったが、ふと我に帰った。気づけば男がめちゃくちゃ俺のことを睨んでいた。そして目が合ってしまった。

 

「……………」

「…………っ」

 

 少しの間見つめ合った次の瞬間、

 

「誰だ貴様」

「え?」

 

 突然の一言に今日一番の動揺を感じた。

 どういうことだ、さっきと言ってることが違う。さっきは俺のことを知っているかのような口ぶりだったのに。訳のわからない状況に俺の頭はついていけなかった。


「質問に答えろ」


 ………あれ、この人の服、変に古めかしいな。西洋の貴族が着るような感じだ。

 

「聞いてるのか」

 

 というか、廊下の灯りはこの部屋のよりもっとぽわぽわしている。随分と変な照明だなあ。ん? 廊下の壁も完全な石造りだ。もしやお城? いや、日本のお城でも部屋の壁は木だしな。もしやここは日本じゃない? じゃあどこなんだ?

 

「おい!」

「ハイ!!??」

 

 突然の大声にびっくりした。しまった、ついつい考え込ん「さっきからなんだお前は何度もびくびくして。こちらの質問に答えもせずずっと黙り込むとは、いい度胸だな。悪いがお前のような人間を許せるほど俺は寛容ではない。こっちへこい。そのおかしなものを切り落としてやる」


 急に早口で喋らないでくれ。……おかしなものって………。


 俺はゆっくりと自分の尻尾に目を向けた。


(ちょっと待ってヤバイこの人ヤバイ思ったよりピンチだこれ!!?)


 焦っているうちに腕を掴まれた。力の差は一目瞭然。詰みだ、と思ったが足元にハサミが落ちていた。


(これだ!)


 拾おうとした瞬間グッと引っ張られ、手が届かなくなった。

 

「させないぞ」

「……………」

 

 詰んだ。

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