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1.森の奥

私たちの村は大きな壁に囲まれていて、壁の奥からは賑やかな音が声と重なりせめぎ合っている。

村の人たちは言った。壁の奥はとても危険だと。壁の奥に潜り込んだ子供は大怪我をして帰ってきた。

直接天使から食べ物を奪おうとして帰ってこなかった者もいた。

壁の内に居る間は危害は加えてこない。ここが一番安全なんだと、みんなが口を添えていうのだ。


それでも私は、壁の外が気になって仕方が無かった。

天使はどんな生き物なんだろう、どんな顔をしているのだろう。

たまに聞こえる声らしき音が、天使と言葉が通じるのではないか、もしかしたら仲良くなれるんじゃないかと。


壁の外の音が大きな時もあった。そのときは皆怯えるように家の中から出てこなかった。


私にはそれはまるでパーティのように感じた。

音が響くたびに、胸が高鳴り、音楽らしきものが伝わって来る度に混ざりたくて、仕方が無かった。



そんな私を、村のみんなは「変わり者」とそう思っていることだろう。


*


「ソティ!みてみて、完成したよ!」


ドアを開いて、アーシャは袋を見せてくれた。

リボンと同じ赤い布をアーシャに私はプレゼントしてあげた。布袋は小川から食べられないものを運ぶためのものだけれど、それでもやっぱり女の子だ。綺麗な刺繍はまるでオシャレをするかのように鮮やかに彩られている。


「素敵にできたわね、これであなたも立派な子供だわ」

そういう私にアーシャは目を細め頬をいっぱいに笑顔を見せた。

布袋を作り初めて3日。もちろんアーシャは小川に行くのも、ダナヴィスのところにいくのもついてきてくれた。

きっと私がいなくても、明日から一人でお仕事できるのだと確信はしているけれど、それでもアーシャは私と行くと言い張るのだ。

仕方のないこ……そう思いながらも、それが嬉しくも思う私はやはりまだまだ子供なのかもしれない。


「ごめんなさい、ソティ……本当は今日もソティについて行きたかったんだよ」


そんな私にアーシャは悲しそうに俯いた。

きっと、アーシャに動物のみみがついていたら垂れ下がっているわね……


「いいのよ、アーシャは3日も随分手伝ってくれたんだもの」


今日はアーシャは母の仕事を手伝うために、昨日は泊まり込みで袋を仕上げたのだ。


「でも今日は森にいくんだよね」

「えぇ、少し今日は贈り物が少なかったから、探してくるわ」


壁の終わりには木が生い茂っており、そこには森が出来ていた。

奥へ進むとそこには世界が広がっているけれど、森を出てしまうとそこは神様の目が届いておらず、神様の加護失ってしまう。

神様の加護を失えば、天使の贈り物はもらうことができずに、いずれ餓死してしまう。

そんな決まりごとはないけれど、暗黙のようにそれは村での掟になったのだ。


“森の外にでてはいけない”


神の加護を失い、天使の贈り物も途絶え、そしてそれは、村にも帰れない……そういう意味だと皆思っている。


しかし、それらは森へ入ってはいけない……とはなっていない。

森には数は少ないけれど、木の実や虫やきのこが採れるのだ。天使の贈り物も少なければ生きてはいけない。そのためには狩りも必要になる。


「森は危険だよ、この間キムジィも変な音が聞こえたって言ってたし……」


キムジィはそんな狩りを仕事とする、年配の男性だ。


「大丈夫よ、あまり暗くならない内に……それにあまり外には近づかないわ」


心配するアーシャを諭すように私はそういった。


確かにここ数日、天使の贈り物は少ない。ダナヴィスが交換してくれる食べ物にも限りはあるわけで、家族がいない私にとっては狩りも自分でしなければいけなかった。


「緑のマントがあるもの、きっと獣には私が木や草と勘違いして見逃してくれるわ」

「……きっと何言ってもソティはガンコモノだね……あんまり無理しちゃだめだよ!」


自分よりもいくつも年下のアーシャに呆れられてしまった。それがおかしくてつい笑みをこぼしてしまう。

「約束だからね」と念を押してアーシャは家に帰っていった。

日が昇り始めてどれだけたっただろう、太陽ももうすぐ真上に登りきってしまう。

明るいうちは獣もおとなしくなっており、日がくれる前に帰りたいものだと、私はみどりのマントを羽織って籠を持った。


森は村のはずれの細い小道をかき分けた先に森はある。

基本は木の実やきのこがメインで、キムジィからもらった小さなナイフしか持っていない私は、運がいいときしか獣は狩れない。


獣は火を通せば、野菜や果物よりもお腹を満たしてくれる貴重な食べ物。

最近の贈り物の数を考えれば、一羽でも小物の獣を捉えられたら僥倖だ。


「……でもそれはキムジィに教えてもらった罠にかかっていたら……なんだけど」


勝負どころね……と私は身を引き締め森に入った。

森は壁と一緒で、私たちを太陽の熱から守ってくれる。そして風が涼しく、吹き込むたびに木々が嬉しそうに歌うのだ。

危険だとはわかってはいるけれど、まるでひみつの抜け道のようで私は森がだいすきだった。


木の実やきのこを見つけるたびに必要な数だけ籠に詰んだ。

森は私だけのものではない、それに積みすぎると次のご飯がなくなってしまうからだ。これはキムジィに教わった。

私は木の実を拾いながら罠の調子を見る。罠は3箇所しか設置していないから、かかっているかは本当に運次第になってしまう。

最後の罠も不発であるのを確認した私は、覚悟はしていたけれど肩が落ちてします。

……それ以上は私だけじゃ管理できないものね、仕方がないわ。


再度罠を仕掛け枯葉で隠しながら今日は木の実だけかと籠に視線を落としたその時……


ドサッ!


それは私を呼ぶように鈍い音が森に響いた。

私は何を思ったのか、その音がする方へ駆け出していた。今思えば何をそんなに焦ることがあったのだろうか。

もしかして獣が地に落ちたような音だったから?弱っているなら狩れるとおもったから?なにか落ちたような音、それが果物かもしれない、そうじゃないかもしれない。

多分その時私はそんなこと頭の片隅にも浮かんでいなかっただろう。ただただ惹きつけられるようにその場に向かった。

……だってそうじゃない、もしちゃんと考えられるなら……


――そこが森の外だって……気づけたはずだもの……


「……男の……人?」


森をぬけ、太陽が差し込む神様の加護を得られないその場所には……


見たこともない男性の姿があった。




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