追跡
ビルの5階にあるネットカフェの一畳半程の個室でパソコンをイジっている瞬。海岸で起きた事件のネットニュースを見て、ため息をつく。テーブルに置いてあるオレンジジュースが入ったコップを取り、ストローで飲み干す。そして、腕を組んで険しい顔をして考え込む。
「(ヤバイな、警察は俺が殺した事を知ってるかもしれない。どうやって? 慶太達が裏切るとは思わないし、裏切ってたとしたらもう捕まってる。家も割れて警察が来てるらしいし、状況が悪くなってるのには変わりがない。移動するついでに慶太に電話してみよう)」
瞬はあの事件の直後に家に1度帰り、服などの必要な物をカバンに詰めて持ってきていた。そのカバンを背負い、身支度をする。お金は既に全額引き出しており、ネットカフェを点々とし、最低限の生活は出来ていた。
ネットカフェを出ると、外は夕暮れ時になっていた。念の為にネットカフェから少し離れた公衆電話まで歩き、慶太に電話する。
「慶太、何か異変はないか? 玲奈は?」
「玲奈さんには事情を説明して協力してくれる事になった。ただ、計画についてはまだ立てられてない。あと一つ大事な事がある。能力者対策本部の奴らが俺の家に来た、何も知らないと言ったらすぐに帰っていったが何か怪しい。念の為、移動を続けろ。お前は大丈夫か?」
「そうか、俺は大丈夫。俺もちょうど今から移動しようとしてた所だ。ここから少し離れた場所にある民宿に泊まろうと思う、玲奈には心配するなと言っておいてほしい。じゃあまた」
「分かった。連絡待ってるぞ」
電話を切った瞬の頭に玲奈の顔がよぎる。少し俯いた後、気を取り直して電話ボックスを出る。
すると、目の前の道路を物凄い速度でパトカーがサイレンを鳴らしながら通り過ぎる。向かう先を見ると、先程まで居たネットカフェにすでに4~5台止まっており、警察が10人程居た。
それを見た瞬は反射的に建物の陰に身を隠す。バクバクとなる鼓動を抑えつつ1度呼吸を整え、状況を整理する。
「(なんで!? 情報が漏れてる? やっぱり、慶太達が? ちがう、だとしたら移動を続けろなんて言わないはず……何かがおかしい……とりあえず逃げよう)」
とりあえず、逃げる事が先決だという事にして、早歩きで次の宿の民宿に向かう。
その頃、澤口と藤田は複数の警官を連れ、つい最近まで瞬が居たネットカフェのロビーに居た。
澤口はネットカフェの雰囲気を一通り見ると藤田に命令する。
「藤田、調べろ」
「はい、分かりました」
命令された藤田は素直に命令に応じ、いつも着けている茶色の手袋を外し、ネットカフェの至る所に触れた。ある程度触れた藤田は頭の中を整理し、澤口に伝える。
「澤口さん、もうすでにここには居ないようです。ここが黒田 瞬 容疑者が使っていた部屋です。過去を見てみます。」
藤田は“触れた物や生物の過去を見ることが出来る”能力者。サイコメトリーと言われる能力だ。物に触れれば“その物に触れた人物やその物の製造工程まで見る事が出来る”人に触れれば“その人が喋った事、聞いた事、その人の今までの行動を見る事が出来る”。それがサイコメトリーだ。
瞬が使っていた部屋のパソコンに触れた藤田は再び見えた過去を整理し、伝える。
「ここでパソコンを使って私達の動きや世間の反応を見ていたようです」
「で、今はどこに居る?」
「容疑者の友人達と握手した時に“時々公衆電話から連絡が来る”という風に話していた過去が見えました。この周辺に公衆電話がないか調べた方が良いかもしれないです。」
「分かった。とりあえず、引き続きここを調べろ」
澤口はそう言うと近くに居た警官に「公衆電話が近くにないか調べろ」と指示をし、
ネットカフェの店員に防犯カメラの記録を見せてほしいとお願いして、店の奥に消えていった。
その日の夜、瞬は民宿に着いた。
「この民宿か、少しボロいけど我慢だな」




