訪問者
突然の警察の訪問で凍り付く3人。自然と3人は声を潜め、顔を見合わせる。すると、少し間を置いて再びチャイムが鳴り、同じセリフを繰り返す。
「警察の者ですが、開けて頂けませんか?」
慶太はふと我に返り、脳内をフル回転させ、友美と玲奈に小声でこう言った。
「俺達は瞬の事は知ってるが事件の事は何も知らない事にする。俺に話を合わせろ」
友美と玲奈は無言で頷き、息を呑む。慶太は立ち上がり、ゆっくりと玄関に向う。そして、怪しまれぬよう平静を装い、警察の問い掛けに返事する。
「はい! 今出ます!」
ゆっくりと玄関を開けると、20歳前半くらいの若い男性と女性が2人立っていた。男性の方はスーツを着ていて短髪で身長が高くスポーツ万能そうな見た目、女性は俯いていて、小柄で茶髪のショートヘアだ。女性だけは私服で、茶色の手袋をしており、少し違和感がある。
若い男性が慶太の顔を見ると軽く会釈し、話し掛けた。
「あぁ、すみません、私達はこういう者です」
その男性は懐から警察手帳の様な物を取り出して慶太に見せる。
そこには能力者対策本部(psychic countermeasure headquarters)
と書いてあった。
それを見た慶太は予想通りではあったが、内心かなり焦っていた。顔や行動に出ない様にするが警察相手に通用するか分からない。しかし、そうするしかなかった。
慶太は何も知らないフリをして質問する。
「能力者対策本部……あの、何か用ですか?」
「はい。海岸で男性2名の遺体が見つかった事件についてお話を聞きたいと思いまして。もし良ければ、中でお話したいのですがよろしいですか?」
「友人も来てるのですが大丈夫ですか?」
「はい、問題ありません」
警察の発言に「(問題ないのか?)」と思いつつ警察を家に入れる。友美と玲奈がいる部屋に案内すると。警察に一言言う。
「そこら辺に適当に座って下さい」
「あぁ、急にすみませんね」
警察の2人は部屋の中央のテーブルを挟んで慶太達とは反対側に座る。すると、男性が自己紹介を始めた。
「私は澤口と申します。こちらの女性は私の部下の藤田です」
澤口はそう言うと、手を差し出し、慶太・友美・玲奈と握手をした。藤田も手袋を外し同様に握手をした。同時に慶太達も一人一人自己紹介をする。
「木口 慶太です」
「小林 友美です」
「皆川 玲奈です」
お互い自己紹介し終わり、澤口が慶太達3人の顔を1人ずつ威圧する様に見る。藤田は依然として常に俯いている。
そして、澤口がスーツのポケットからメモ帳とペンを取り出し、話し出す。
「では、話を早く終わらせる為に直球で聞きます。あなた達が “黒田 瞬 容疑者”と友人であるという事は知っています。海岸で男性2名の遺体が見つかった事件について何か知っていますか?」
澤口の質問に慶太が眉間にシワを寄せ、食い気味に答える。
「容疑者!? 瞬がやったっていう証拠でもあるんですか!? 俺達も何も分からないんです! 勝手に容疑者なんて呼ぶな!」
その様子を眉一つ動かさずに見る澤口。それに反して藤田は少し身体をビクつかせた。
そして、なんと澤口は慶太をなだめながら話を締め始めた。
「落ち着いて下さい、容疑者であって犯人と確定した訳ではありません。しかし、何も知らないのであれば仕方が無いです。話は以上です」
澤口はそう言うとそそくさと立ち上がり、藤田も同じく立ち上がる。慶太は予想外の出来事に唖然とし、即座に口を開く。
「え? それだけなんですか!?」
「はい。何も知らないのであれば聞くことはありません。他を当たります」
澤口達はそう言うと、そそくさと玄関に向かい「それでは、お邪魔しました」と言い、家から出ていった。
呆然とし、部屋にポツンと佇む3人はしばらく言葉が出なかった。3人の鼓動が収まり始めた頃に友美が口を開く。
「あれだけなの? なんか、あっさり帰っていったね」
「どこまで瞬くんの捜査が進んでるか聞きたかったのに……」
玲奈は情報を聞き出すつもりだったがあまりにも予想外な事が起き、話を切り出せなかったのだ。その後、3人は気を取り直し、作戦会議を開始した。
澤口達は玄関を出て、早歩きで黒塗りの乗用車に戻った。澤口が運転席に座り、藤田が助手席に座る。シートベルトを着用し、エンジンを掛ける。
そして、一息ついて澤口は藤田に質問した。
「藤田、何が見えた? ヤツはどこに居る?」
「ここから、車で1時間程の場所にあるネットカフェです」




