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COAST MAN  作者: サクヤダ
オリジン
3/15

覚悟

 周囲は暗く、友美と慶太が持って来ていた2つの懐中電灯が花火の袋、倒れてもがいている男2人を照らしている。

 手で必死に水を剥がそうとし、窒息死寸前の状態になっている2人に駆け寄る瞬。



「なんで、まだ水が!!」



 男から解放され、目の前で起こった事を見て放心状態になっていた友美はハッと我に返り、倒れて動かなくなっている慶太の元へ走る。

 慶太は波に打たれ右半身はびしょ濡れになっていた。友美は慶太を抱きかかえ、顔に付いた砂を落としながら声を掛ける。



「慶太! 大丈夫!?」



 瞬はスマホで2人組の男の顔を覆っている水を照らし、観察する。そして、水がどこかに繋がっている事を知る。それを辿ると男の顔、地面、瞬の足元、そして、水の筋は重力に逆らい上昇する。それは、瞬の左手の人差し指、中指、薬指に繋がっていた。瞬には自覚が無かった。



「マジか……どうやったら水が離れるんだ!」



 コントロールしようと左手を振り回すが変化が無く、コントロールする事が出来ない。瞬は右手で男達の顔を覆っている水を払おうとするも払っても覆われる、払っても覆われるの繰り返しでキリがない。

 こうしている間に男の窒息死へのカウントダウンが進み、金髪の男は痙攣し始める。その様子を見た瞬は目の前で始めて痙攣している人を見て混乱し始めていた。また、人を殺してしまうという恐怖にも取り憑かれていた。



「なんで!! これじゃ本当に死んじまう!! どうなってんだ!!」



 瞬が必死に水を払おうとしている間に友美が慶太の耳元でかなりの大声で叫び、本気でビンタを繰り返し、慶太が目を覚ました。



「ん? あぁ……友美……大丈夫か?」


「慶太! 気がついた! 良かった!」


「アイツらは!? 瞬は!?」



 頬が真っ赤でパンパンに腫れている慶太は周りを見回しながら友美に聞いた。



「大丈夫! 瞬がやっつけてくれた! でも……」



 友美は男達がもがいているのを知っており、瞬がそれを見て取り乱している様子も知っていた。ただ、どうなっているかは理解しておらず、動揺していた。状況を知る為にも、とりあえず慶太が目覚めた事を報告する。



「瞬! 慶太の目が覚めたよ! ……ねぇ……それ、どうなってるの?」



「分からない!! 水がコイツらの顔を覆っていて離れないんだよ!! クソッ!!」



 とうとう金髪の男は動きを止め、ガクンとなり動かなくなった。長髪の男も同時に動かなくなった。それでも、水は顔を覆ったままだ。瞬は膝をつき、うなだれる。最後までコントロールすることは出来ず、水を払う事も出来なかった。



「マジかよ……」



 その様子を見た友美と慶太は立ち上がり、落ちていた懐中電灯を拾い、動きを止めた男達を照らし、その状況を確認する。



「もしかして……殺し……ちゃったの?」


「おい、瞬! その手は……そいつら……死んだのか?」



 瞬は膝をついたまま俯き、何も答えない。慶太と友美は静かに心拍数を上げ、その場に立ち尽くした。

 膝をついたまま俯く瞬、その後で懐中電灯で倒れた男達を照らす友美と慶太。2人は一緒によろめきながら瞬の元へ歩く。慶太が瞬にもう一度問い掛ける。



「お前……殺したのか? 本当に……能力者だったのか?」



 慶太は瞬の前で膝をつき、瞬の顔を覗き込む。その時、瞬は本当に殺してしまったショックで涙を流し、目の焦点が合わず唖然としていた。

 目の前で唖然としている瞬の肩を掴み、揺さぶりながら怒鳴った。



「なんで、言ってくれなかった! 助けてくれたのはありがたいけど殺すのはやり過ぎだろ!!」



 怒鳴られた瞬はハッとし、慶太の目を見る。同時に男達の顔から水が引いていき、瞬の指に戻る。それでも、依然として状況は変わらない。

 友美はその場の状況と慶太の怒鳴り声で何が起きたかやっと理解出来た。すると、頭を抱え、涙を流し、その場に震えながら座り込んだ。それと同時に瞬が口を開く。



「俺だって……知らなかった……殺す気も無かった……」


「これじゃ、お前……収容所送りになっちまうぞ」


「へっ……そんなのただの噂だよな……?」


「おい! ニュースでも何回もやってるだろ! 実験台にされるかどうかが噂なだけで、収容所に収容されるのは事実だ!」



 瞬は能力者が能力を悪用すると収容所に収容される事は元から知っている。しかし、目の前で人を能力で殺した事を信じられず、現実逃避していた。だが、慶太の言葉を聞いて、現実に引き戻される。



「そっか、そうだよな……やべぇよな……慶太……友美……お前らは逃げろ……お前らも共犯者になるかもしれない……」



 瞬は小さい声でそう言ってゆっくりと立ち上がり、慶太と友美の顔を見る。その発言を聞いた慶太は勢い良く立ち上がり、瞬の胸倉を掴み強く問う。



「お前、本気で言ってんのか? お前はどうするんだよ!」


「俺はどうしたらいいんだろう……このまま収容所送りかな……? もう一生……皆に会えなくなるのかな……」



 瞬の頭の中に家族との記憶や玲奈の記憶がまるで走馬灯の様に蘇る。慶太も同じく今まで3人で遊んで来た事や瞬が彼女が出来たと喜んで玲奈の写メを見せてきた事を思い出す。

 そして、2人の後ろで座り込む友美が泣きながら小さい声で言った。



「瞬は……くない」



 その言葉を聞いた慶太が視線を友美に移し、声を掛ける。



「友美? 大丈夫か?」



 次の瞬間、友美は大声で泣きながら叫んだ。



「瞬は悪くない!!! だって、瞬は私達を守る為に戦ったんだよ!? 正当防衛でしょ!?」



 それを聞いた瞬は友美の大声に「ほぇっ!?」驚いて肩が大きく跳ねる。そして、友美の方を振り向き友美の前でしゃがみ、落ち着いた声で冷静に言葉を返す。



「正当防衛じゃなくて、過剰防衛になる……ましてや、能力を使って2人も殺してしまった。収容所送りは確実だし、2人も危ない。だから、俺を置いて逃げろ」



 友美は涙を流し、くしゃくしゃの顔を上げて「嫌だ……」と言いながら瞬の顔を見る。すると、瞬の後ろに居た慶太が瞬に早歩きで近付き、肩掴んで無理矢理振り向かして怒鳴る。



「ふざけんな! だから、お前はどうす」



瞬が慶太の言葉を遮って叫ぶ。



「俺は殺人犯だ! お前らは逃げろ!! 俺は……能力をコントロール出来ない以上お前らとは一緒に居られない。お前らを殺したくない……俺は……救急車を呼んで逃げる」



 瞬の顔は心の中で覚悟を決めた顔だった。その顔を見た慶太はもう何を言っても無理だろうと思った。





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