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COAST MAN  作者: サクヤダ
オリジン
2/15

能力の開花

 いつもの様に慶太が運転席に座り、瞬は助手席に座る。友美は後部座席に座っており、袋に入った何かを弄っていた。すると、慶太が何かを思い出したかの様に瞬をチラチラ見ながら「実は花火を持って来てる」と言い出した。そう言うと友美は袋から花火を「じゃじゃーん」と効果音付きで取り出して瞬に渡した。花火を受け取った瞬は「時期が少し早くないか?」と思いつつ久しぶりの花火に期待に胸を膨らました。

 それから3人はお互いの事を報告し合った。



「そういえば、俺最近暑くもないのにめっちゃ汗かくんだよな」


「え〜、なんかの病気じゃない? 私に移さないでよ!」



 友美は心配してくれるが、いつも笑いながら少し小馬鹿にする。

 元バスケットボール部に所属しており、髪は肩ほどまで伸びていて、少しボーイッシュだが男子からの人気が高い。性格は小さい頃から変わらず、いつもハキハキとしており、男女構わずみんなと仲が良い。 

 友美の言葉を聞いた慶太が笑いながら口を開いた。



「もしかして、お前も能力者なんじゃないのか?」


「何のだよ」


「汗を異常にかく事が出来る能力者」



 慶太の周りにも能力者はいない為、慶太は少し能力者をバカにしている。

 普段は真面目で元々野球部の副キャプテンを務めていた為、時々リーダーシップを発揮し、優しく逞しい1面もある。しかし、瞬や友美と居る時は冗談を言ったりする事が多いが、少し強面の為、女性や子供には怖がられる事が多い。

 その会話を聞いた友美はすかさず笑いながらツッコミを入れた。



「そんな能力絶対要らないじゃん」


「要らねぇ でも、割とありえるかもな」



 瞬は友美のツッコミに同意しつつ、どんな能力がこの世に存在するか分からない為、否定は出来なかった。それと同時にふと「もし本当に能力者だとしたらどうしよう」という考えが頭をよぎった。

 それとは裏腹に慶太は能力者のノリに乗っかって冗談交じりに話を続けた。



「能力使って悪い事したら収容所送りだぞ、実験台にされるって噂だからな」



 能力を使い、罪を犯した者は収容所に送られるのは事実だが、その中で人体実験が行われているという噂はネットでかなり有名だ。向かっている間、慶太の近況や友美の恋愛事情など色んな話をして盛り上がった。

 そして、三人は海に着いた。砂浜が広がっており、すぐ近くには防波堤もあった。海風に乗り、潮の香りがする。その日は涼しいくらいだった。

 瞬は水を溜める用のバケツを後部座席から取り、先に水を汲みに行く事にした。



「じゃあ、俺先に水汲んでくるわ!」



 水を効率良く汲めそうな場所を探し、防波堤の方に向かう事にした。防波堤に着いた瞬は濡れない様に海面と近い場所を探して慎重に手を伸ばしバケツに水を汲んだ。

 一時的に無理な姿勢で水を汲んだ為、水入りバケツを地面に置き、その場にしゃがみ、ひと息付く。その時、何気なく右手を水入りバケツの中に入れた。



「冷たいな〜」



手首まで入れ、少しかき混ぜて気持ち良くなっていた。

 しかし、瞬は違和感を感じた。自分の右手が水に溶けていき、バケツの中に広がっていくような不思議な感覚だった。左手で自分のスマホを取り出し、ライトで照らした。

 その瞬間、驚き、叫んだ。



「ひぇ!!?」



 ライトに照らされた右手の手首から先が無くなっていた。瞬は反射的に急いでバケツから手を出した。それと同時に触れていないはずのバケツが少し宙に浮いた。もう1度右手を確認すると手首から先は元に戻っていた。



「えっ……さっき確かに手首が無くなっていたはず……」


「おーい! 大丈夫か!?」



 瞬の叫び声が聞こえたのか、遠くから慶太の心配の声が聞こえ、瞬は我を取り戻した。また、自分の叫び声がそんなに大きな声だったのかと恥じらいも感じていた。右手を見つめつつ心配させない為に動揺しながらも問い掛けに返答した。



「だ 大丈夫! 少し滑っただけ!」



 不安に思いながらも水入りバケツを持ち、花火の準備を進めている慶太と友美の元に戻る。水入りバケツを置き、一息つくと友美がさっきの叫び声を心配し、瞬に声を掛けた。



「さっき大声出してたけど大丈夫?」


「うん、気にするな。ちょっと滑っただけだから」


「これだから、家に引き篭もってゲームばっかりしてる奴は……、彼女さんと一緒に夜のスポーツでもして汗かきなよ!」


「へ!? おま……! アホ!! 黙れ変態!」



 友美は悪い顔をして、かなり焦って照れている瞬を見て笑っていた。慶太もその様子を見て笑っていた。

 そう談笑しつつ3人で花火を開始した。

花火をグルグル回したり、∞の形に素早く動かしたり、線香花火対決などをし、花火が残り半分程になった頃、瞬はどうしても気になっていた右手を確認する為に防波堤に再び向かう事にした。



「すまん、さっき滑ったときに家の鍵落としたかも! ちょっと探してくる!」


「俺達も手伝おうか?」


「いや、大丈夫、落とした場所は予測ついてるから」



 慶太が手伝おうとしていたが断り、走って防波堤に向かった。再び防波堤に着き、2人からは見えない様な場所を探した。



「ここなら大丈夫かな」



 そう呟きつつ、今度は楽な体勢で右手を伸ばし手首まで海に入れる事が出来た。海に入れた右手には特に違和感は無いがスマホのライトで照らして確認する。予想通りに海に入っている右手首から先は普通にある。



「なんで、さっきは消えたんだ?」



 瞬がさっき手首から先が消えた状況を思い出している時、異変が起こった。また、右手の手首から先が溶けていく感覚がした。それを逃さずに見ていると、少しずつ透明になっていき手首から先は完全に海と同化した。手の感覚が海の中に広がっていく。



「なんだよこれ……もしかして、透明化の能力? でも、手が溶けてるような……」



 さらに、水に浸かっていない手首から肘にかけても少しずつ透明になって来ていた。特に溶けていく感覚は無いが皮膚が小刻みに波打ってる様子は見てとれた。それは腕の形は保っているが、まるで水の様だった。



「うわ! 肘まで透明に……ん!? え……なんだこれ……水になってんのか……?」



 自分の右手に集中して混乱している瞬の耳に遠くの方から怒鳴り声が入った。



「おい!! やめろ!! てめぇら殺すぞ!!!」


「ん!? 慶太!?」



それはかなり怒っている慶太の声だった。


 怒鳴り声を聞いた瞬は防波堤の上から慶太達の方を見る。目を凝らして見ると、地面に無造作に置かれた二つの懐中電灯の近くで誰かが慶太を殴っている様子が見えた。それを見た瞬は走り出した。

 慶近付いてみると慶太が地面に倒れており、友美が長髪の男に羽交い締めにされ、もう1人の金髪の男が倒れている慶太を蹴っていた。

慶太はお腹を押さえて苦しそうに立ち上がり立ち向かうが、顔を蹴られて地面に倒れ、動かなくなった。その様子を見て、友美は叫ぶ。



「やめて!! 慶太を蹴らないで!! 慶太!!!」



 友美の叫び声を聞き、かなり切迫している状態を知った瞬は自分の存在を知らせる為、走りながら大声で2人の名前を呼んだ。



「慶太!!! 友美!!!」



 その呼び声を聞いた男達2人は瞬の方を向き、面倒臭そうに頭を掻き、頬を掻く。そして、金髪男は呟き、もう1人の長髪男はテンション高めで煽る。



「あ?もう1人居んのかよ、めんどくさ」


「アイツもさっさと片付けてコイツとヤろうぜ!」



 この男2人組はその日、瞬と玲奈に絡んでいた2人組だった。性欲を満たす為に女を探しに同じ砂浜に来ていた。そこでちょうど慶太と友美が2人で花火をしているのを見つけ、慶太を動けなくして、友美を連れ去ってレイプしようとしていたのだ。

 玲奈は瞬が助けに来てくれた事を確認し、泣きながら助けを求めた。



「瞬!! だずげで!!!!」



 瞬はダッシュした勢いでを慶太を蹴っていた金髪男の胸に飛び膝蹴りを入れる。金髪男は衝撃で地面に倒れるが、瞬も衝撃で地面に倒れた。

瞬は素早く立ち上がり友美を羽交い締めにしてる長髪男を引き離そうとするが、素早く起き上がった金髪男に殴られ、再び地面に倒れた。アゴに拳が入り、意識が朦朧とするなか立ち上がると瞬は今日あった2人組だという事に気付く。



「うゔ……お前ら……またか!!」



 すると、長髪男が瞬の事に気付き、友美を羽交い締めにしながら煽る。



「お? コイツ手汗ヤバイ奴じゃん! こんな所でまた会うとか運命だな」



 それを聞いた金髪男は「そうか」と言い、瞬に近寄って腹に思い切り拳を入れる。一瞬宙に浮いた瞬は「ゔほぇっ」と苦しそうな声を出し、足に波が当たりピシャピシャと音を立てながらよろける。さらに、うずくまる瞬の顔面に金髪男の膝が入り、声にもならない声を出し、とうとう倒れてまう。

 倒れた瞬の左頬を踏みつけ、金髪男が笑みを浮かべながら言う。



「コイツ殺してあの女、今度こそ回そうぜ」



 瞬は左手で足をどかそうとしたが力が入らず、どかす事が出来ない。押さえ付けられている瞬の顔に波が当たり、呼吸を妨害する。

 目や鼻に水が入り、視界も悪くなりもがく。咄嗟に能力でどうにかしようと思い、海に右手を伸ばすも、先程と同様に手が溶け、感覚が広がっていく感覚はあるが他には何も起こらない。

 その様子を見た長髪男は金髪男に声を掛ける。



「もう終わった? この女、車に連れて行っとくわ」


「おう! 後部座席にガムテープあったはずだから黙らせとけ」



 命令を聞いた長髪男は友美を連れ去ろうと羽交い締めしたまま引きずる。引きずられる友美は叫び、助けを求める。



「いや!! 瞬!! 慶太!!! 誰か!! もう………や……めて」



 その時、瞬の様子が変わった。



「ゔゔゔっ……殺す、殺す……殺す!!!」



 瞬の右腕から左手に海水が伝って男の足に絡み付き、動きを封じた。瞬は海水と同化した右手に力を入れ、思い切り男に殴り掛かる。なんと、瞬の右腕は半透明のまま海水を吸収し、巨大化していた。海水で出来た巨大な瞬の拳に殴られた金髪男は吹き飛ばされ、地面に倒れてもがく。

 吹き飛ばされた仲間を見た長髪男は驚き、友美を突き飛ばして逃げようとする。



「うわ! なんだアイツ! 能力者かよヤベェ!!」


「お前も許さない!!!」



 起き上がった瞬は怒りに任せて液体化し巨大になった右手を伸ばし10m程離れた男を捕まえる。右手は男の胴体を捉え、両腕も封じた。そのまま、右手を収縮し、男を引き寄せる。

 男の胴体と両腕にまとわりついた水は徐々に顔に近付いていき、鼻と口を塞いだ。

 男は瞬に許しを乞い、謝る。



「うぐっ……ごべんばばい! ゴボボ」


「もうこんな事2度とするな!! 俺達や玲奈に2度と近付くな!! 次は無いぞ!! 分かったか!」



 男は必死に頷き、涙を流す。それを見た瞬は倒れている金髪男の方へ長髪男を投げ飛ばした。しかし、先に倒し終えたはず金髪男はまだもがいていた。さらに、解放したはずの長髪男ももがく。

 それを見た瞬は「なにかがおかしい」と思い、一呼吸置き、少し落ち着いた所でスマホのライトで2人の男を照らした。




 2人の男達の顔にはまだ水がまとわりついており、両手で必死に水を剥がそうとしていた。しかし、剥がれる事はなく、窒息死寸前の状態になっていた。


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