海と共に
時間を遡り、瞬が玲奈に作戦を話し、走り去った後まで戻る。玲奈は瞬が走り去るのを見届けた後、必死に慶太と友美を起こそうとしていた。
「慶太さん、友美さん! 起きて!!」
玲奈は意地でも2人を起こして逃げなければならなかったので、頬をビンタして起こす事にした。友美は1回で起きたが慶太は6回程で起きた為、頬が真っ赤に腫れ上がっていた。
そして、気がついた友美が玲奈に声を掛ける。
「んっ……あ、玲奈さん! ここは?」
「ここは、あの女な人に襲われた場所から少し離れた場所にある倉庫です!」
次に慶太が腫れ上がった頬を擦りながら何が起こったか確認する。
「痛てぇ……何が起った?」
「あの消える女は瞬くんがやっつけました!」
「消える女!?」
「あ、気絶したから分からないんですね」
慶太は透明になる女に不意に攻撃され、気絶していた為、話についていけてなかった。そこで、友美が口を挟む。
「慶太は急に現れた女にスタンガンで気絶させられたんだよ!」
「マジか! じゃあ、あのビリビリが……。ん? 瞬は!?」
慶太は友美の言葉に納得し、少し考え込んだ後、その場に居ない瞬の事を玲奈に聞く。
「瞬くんは……戦いに行きました!」
「え!? それどういう事ですか!?」
玲奈は友美が気絶してからここに避難し、瞬に聞かされた作戦を聞くまでの
事を泣きながら話した。
「瞬くんは自分が戦って時間を稼ぐからその間に逃げろって……このままじゃ4人とも捕まるからこれしか無いって……」
玲奈の言葉を聞き、友美が聞き返す。
「え? じゃあ、瞬は今戦ってるんですか?」
その時、遠くから発砲音が聞こえた。3人は身体をビクつかせ、同時に音の方向を向く。それに慶太が反応する。
「今のって!? もしかして、瞬が……?」
「はい……多分そうだと思います。でも、瞬くんはまた絶対に戻って来るって……だから、今の内に逃げましょう!」
涙を流しながら話す玲奈の発言に驚いた友美は玲奈の両肩を掴み、詰め寄る。
「瞬を見捨てるんですか!? 覚悟してるんじゃなかったんですか!?」
玲奈は何も言えず、泣いていた。しかし、2人の傍に立っていた慶太は友美とは違った。
「玲奈さんの言う通りだ。逃げるしかない! 瞬がそう言ってたんだろ? 玲奈さんも本当は見捨てたくないはずだ」
「でも!!」
「友美!!! 瞬の頑張りを無駄に出来ない!! 瞬なら大丈夫だ! 瞬を信じるしかない!」
慶太に怒鳴られ、涙目になっている友美は下唇を噛み、うつむく。そして、少し間を置いて小さくかすれた声で「分かった」と言った。
3人の意見が一致し、は漁港から脱出し、慶太の車に向かう事になる。警察達は全員瞬と戦っている為、追手は来ず、難なく漁港を脱出出来た。そして、3人は慶太の車に向かう。その途中。ヘリが漁港に向かって行くのが見え、慶太が呟く。
「ヘリまで来てんのかよ……瞬……死なないでくれ」
しかし、その思いとは裏腹にヘリがホバリングを始め、同時に重い銃声が響き、ヘリの側面が激しく点滅する。慶太達はそれを見て唖然とし、友美と玲奈は再び涙を流す。
「瞬……だい……じょうぶ……だよね?」
「うそ……もうやめて……瞬くんが……」
2人は涙を流しながらその光景を見ていた。慶太も弱気になりそうになりながらも「今は自分がしっかりしないと」と自分にムチを打ち、2人を引っ張る。
「友美! 玲奈さん! 早く行きましょう! 瞬ならあのくらい大丈夫!! アイツ、銃は効かないはずです! だから、大丈夫!」
玲奈と友美はその言葉に促され、走り続けた。そして、車に着きエンジンを掛けてすぐにその場から離れる。車の中は友美と玲奈の鼻をすする音としゃくり上げる声だけが聞こえていた。
――――真っ暗な世界――――
目の前が真っ暗だ。
周囲を見回しても暗くて何も見えない。
自分の身体も見えない。
自分が浮いている感覚がして、どこが上なのかも分からない。
ここはどこだろう。