終戦
ヘリの機関銃に攻撃され、防波堤に追い込まれた瞬は膝を着き、息を切らす。
「(まさか、ヘリまで来るなんて……)」
瞬の身体は疲労から集中が切れ、液体から元の体に戻っていた。ヘリはその様子を確認すると銃撃を止め、現場から去っていく。すると、すかさず澤口と特殊部隊が近付き、銃を構える。
澤口も同様にテーザー銃を構え、瞬に強く喋りかける。
「おい! 手を上げろ!!」
瞬に冷たい海風が吹き付け、体はブルブルと震える。しかし、その寒気を我慢し、立ち上がって手を上げる。
警官や特殊部隊、澤口らがライトで瞬を照らす。瞬は歯を食いしばり、眉間にシワを寄せ、泣いていた。それを見た澤口は怒りをあらわにする。
「泣いても許されないぞ、クズが!」
「俺は……帰らないといけないんだ……」
「そのまま動かなければ生かしてやる! 少しでも動けば殺す!!」
生かしてやるという言葉に動揺する瞬。ここで諦めて降伏すれば死なずにまた玲奈達に会えるのではないかと考える。玲奈に作戦を伝えた時の事を思い出す。
(玲奈! 俺が囮になるから玲奈は慶太と友美を起こして逃げろ)
(やだよ! そんな事したら瞬くんが捕まっちゃうかもしれないじゃん!)
(大丈夫。俺は絶対捕まらない。絶対帰ってくる)
瞬はこの時点で自分の死もしくは収容所送りになる事を覚悟していた。しかし、澤口の言葉でまた玲奈達に会いたくなる。ここで諦めればと考える。だが、慶太の言葉が蘇る。
(瞬!! 俺達は瞬の為なら絶対諦めない! だから、お前も諦めるな!)
ふと我に返り、強く拳を握り締め、瞬は澤口に答える。
「“俺も”絶対に諦めない!!」
瞬はそう叫ぶと生身の状態で澤口に体当たりしようと1歩踏み出す。もう液体化出来る程の体力が残っていなかったのだ。それを好機と捉えた澤口は瞬に狙いを定め、テーザー銃の引き金を引く。
放たれた電極は瞬に目掛けて滑空し、首元に突き刺さる。
「ゔゔゔっ!!!」
突き刺さった電極は瞬の身体に強力な電気流し、瞬の全身が強ばる。その場に片膝を着き、身動きが取れなくなる。しかし、瞬はそれでも歯を食いしばって気絶しないように気を張り続ける。それを見た澤口は目を見張る。
「倒れない!? コイツ生身の状態でも化け物なのか!?」
瞬は片膝と手を着くが耐える。冷や汗をながしながらも首元に刺さっている電極を抜き取る。しかし、かなり息を切らし、意識が朦朧としている。
「うぅ……ふぅー……ふぅー……よし!」
何とか息を整え、意識も立て直し、フラフラと立ち上がる。
しかし、澤口は腰に装着していたホルスターから拳銃を取り出し構えた。
「お前は警告を無視した。残念だ……“使える”と思ったんだが……殺すしかないようだ」
その台詞を言い終わると澤口は容赦なく引き金を引いた。乾いた音が鳴り響き、その瞬間に瞬の左肩から血が吹き出る。その衝撃を受けた瞬は右手で血を拭き取って改めて傷を確認し、唖然とした表情で呟く。
「え……」
そして、意識を失っていく瞬はで後ずさりし、目を見開いたまま後ろに倒れ、海に落ちた。しかし、澤口は悔しい表情を見せる。
「くそ、心臓外したな」
澤口と特殊部隊、警官達は瞬が落ちた場所をゆっくりと警戒しながら覗き込む。しかし、そこには瞬が身に付けていたズボン、パンツ、靴下、靴が水面に浮いているだけだった。