戦い
大きな倉庫の中に隠れている瞬達。寒さで震える瞬はブルブルと小刻みに震えている。しかし、瞬の目は覚悟を決めた目をして、玲奈を見つめていた。
玲奈は唖然とした表情をしながら涙を零す。覚悟を決めている瞬は両脇に抱えていた慶太と友美を下ろし、元の体に戻って立ち上がる。
そして、玲奈に話しかける。
「玲奈、さっき話した通りに出来るな?」
「嫌だ……」
玲奈は瞬から聞かされた作戦を瞬の腕を強く掴みながら拒否した。玲奈にとっても慶太や友美にとっても良くない選択だと思ったからだ。
しかし、それでも瞬は引き下がらない。
「玲奈!! これしかない……絶対戻ってくる。だから、分かってくれ……」
「…………分かった、じゃあ、約束だよ……絶対帰ってきてよ……」
顔をグシャグシャにして泣きながら玲奈はそう言った。瞬はその言葉を聞くと涙を堪えながら「うん、約束な」と優しく声を掛け、玲奈をギュッと抱擁する。そして、そっとキスをした。
その後、瞬は体を再び液体化し、警察の声がする方へ走り出す。倉庫に残された玲奈は泣きながらも瞬の作戦通りにその場に留まり、慶太と友美を起こそうとする。
そして、瞬は警察達の姿を捉える。一度陸に上げられている船に身を隠す。船の陰に隠れた瞬は目を瞑り、胸に手を当て深呼吸をする。
「大丈夫、大丈夫。俺なら出来る。絶対帰る。慶太達は諦めずに助けに来てくれた。無駄にはしない」
念仏の様に唱えると目を開け、船の陰から出て警官達の方へ歩き出し、対峙する。瞬の前には特殊部隊や大勢の警官、澤口と藤田が立ちはだかる。全ての懐中電灯が瞬に向けられる。
瞬を見つけた澤口は一瞬ニヤリとして1歩前に出て瞬に話し掛ける。
「黒田 瞬だな? やっと投降する気になったか?」
その言葉に瞬は大声で返す。
「投降してたまるか!! 俺は絶対帰る!!!」
すると、澤口は頭をボリボリと掻きながら溜め息をつき、言葉を返す。
「そうか、残念だ。全員構えろ!!」
澤口がそう言うと、警官達は腰に装着しているホルスターから拳銃を取り出して構える。特殊部隊は肩に下げていたサブマシンガンを構える。そして、澤口は懐からテーザー銃を出して構えた。その照準は全て瞬に向けられている。
それと同時に瞬も体が液体化している事を確認し、構える。その場には異様な緊張感が漂う。それは西部劇の決闘の様な緊張感だ。どちらが先に動くか、動けば殺す、もしくは死ぬ可能性がある。
そして、沈黙を破り、戦闘が始まる。
「撃て!!!」
先に攻撃を仕掛けたのは澤口だった。澤口の号令で特殊部隊や警官が発砲する。しかし、液体化している瞬には効果が無い。発砲された瞬は体に銃弾を受けながらも走り出し、海に飛び降りる。
「くそ!! アイツを逃がすな!!」
特殊部隊が走って追い掛け、瞬の飛び込んだ所を銃を構えながら覗き込む。その瞬間、特殊部隊は何かの強い衝撃を受け、15m程吹き飛ばされ、コンテナや船に激突する。吹き飛ばされる特殊部隊を何とか避けた澤口は困惑する。
「な!? おいどうした!?」
瞬は実は海に飛び込んでいなかった。飛び込んだと思わせて、縁を掴んでぶら下がり、足を海に浸けていた。そして、足から海水を吸収し、右手に海水を集め、特殊部隊が覗き込んだ瞬間に巨大化した右手で殴り掛かっていた。
上手く事が進んだ瞬はさらに海水を吸収し、地上に上がった。
「うぅ……コントロールが難しいな」
なんと、瞬の身体は体長が3m程まで巨大化しており、人型ではあるが瞬の面影は殆ど無い。
澤口達もこれには驚き、戸惑う。
「なんだコイツ……化け物か……撃て!! 持久戦に持ち込むぞ!!」
その後も特殊部隊と警官が撃ち続けるも全くダメージがない。すると、瞬はその隙に攻撃を仕掛ける。腕を横に10m程伸ばし、特殊部隊や警官達をラリアットしてなぎ倒していく。なす術なく倒されていく警官や特殊部隊。澤口は寸前でしゃがみ込み避けたが藤田はラリアットに巻き込まれる。
「よし! これなら勝てる!」
瞬は勢い付き、両手を合体させて巨大な1本の腕を作り出す。そして、ハンマーの様に振り上げる。瞬は勝利を確信する。
しかし、そうはいかなかった。瞬が腕を振り上げたその時、警察の応援のヘリが漁港に到着したのだ。ヘリは瞬の近くまで飛行しホバリングを始めた。それと同時に特殊部隊と警官は引いていく。
それを見た瞬は動きを止める。
「ヘリ!? そんなの聞いてねぇぞ!!」
瞬はヘリを警戒し、目を凝らす。ヘリの側面には機関銃があり、瞬の方に向いていた。
「まさか、機関銃で撃つつもりか!? さすがに怖いな!」
ヘリは瞬が動きを止めている間にヘリの下部に付いている強力なライトで瞬を照らし、目を眩ませる。
「ゔぅ……眩しい!」
そして、次の瞬間、機関銃が激しい音と衝撃を伴いながら瞬に向けて放たれる。轟音共に撃たれ、瞬の身体を銃弾が貫いていく。瞬はあまりの衝撃に動けない。それと同時にある事に気付く。
「衝撃が……。ヤバイ!! 水が減っていく!!!」
瞬が吸収した海水は機関銃の威力で飛び散ってしまい、瞬の身体の大きさは元に戻ってしまう。瞬は咄嗟に防波堤の先に走って逃げる。しかし、ヘリはそれ以上の速度で動ける為、機関銃の雨から逃れる事は出来ない。
そして、追い込まれた瞬は力尽き、膝を着いた。