決断
スタンガンを持ち、灰色のツナギを着た女を睨む3人。瞬は直ちに玲奈と友美を自分の後ろに隠す。
「テメェ誰だ! 玲奈! 友美! こっちに来い!」
瞬が激しく威嚇すると、その女はスタンガンを構え、キッと睨み、怒りとはまた違った様な感情を剥き出しにする。
「大人しく捕まれ! お前を捕まえないと……私は!!」
女は左足を一歩前に出し、呼吸を整える。それと同時に瞬は身体を液体化させ、戦闘態勢をとる。すると、次の瞬間、女が一気に走り出し、瞬達に襲い掛かる。
女の動きを見切った瞬は素早く反応し、右手に液体を集中させ、反撃しようと拳を握り構える。しかし、突如女は目の前で姿を消し、瞬達3人の視界から消えた。瞬は右手を構えながら周囲を見回すが姿が見えない。
「な!? 消えた!?」
すると、瞬の頭の中である記憶が蘇る。それは、約1週前に電器屋のテレビで見た窃盗事件のニュースだ。
(先日、能力者による窃盗事件が発生しました。犯人は逃走中で現在、能力者対策本部が捜査中との事です。尚、犯人は透明化の能力者との情報が入っております)
「まさか……透明人間?」
詳しい事は知らないがあの女は透明人間である可能性が高いと瞬は考えた。瞬は友美と玲奈の方を振り返り、可能性を伝える。
「あの女は透明人間かもしれない! 気を付け……」
しかし、その女は瞬が言い終わる前に現れてしまった。友美の後ろに。女はスタンガンを友美に振りかざし、バチバチと電気が流れる音と共に友美が倒れる。
「うゔぅっ!!」
友美を攻撃すると女は再び姿を消した。反応が出来ず、悔しい表情をする瞬は友美に声を掛ける。
「友美!! 大丈夫か!?」
玲奈が瞬の声掛けと同時に倒れた友美を抱きかかえて声を掛けるが応答がない。
「友美さん! 友美さん! ……反応がない!!」
瞬が友美の元へ駆け寄ろうと足を踏み出した瞬間にまた女が現れ、今度は玲奈を背後から攻撃しようとスタンガンを当てよう振り上げる。しかし、瞬が即座に反応し、右手の巨大な拳で殴り掛かり、女を吹き飛ばした。吹き飛ばされた女はコンテナ勢い良くにぶつかり、苦しそうにうずくまる。
「よし! 今の内だ! 玲奈逃げるぞ!!」
瞬は能力で両手を変形させ、慶太と友美を両脇に抱きかかえて走り出した。それを先導するように玲奈が逃げ道を探しながら走る。
しかし、さっきの戦闘に時間を取られてしまい警官達の声が近くなってきている。瞬は2人を抱えて走っている為、速度がかなり遅くなっている。玲奈も今まで走っての移動が多かった為、かなりバテてきている。その状況を見て瞬は別の作戦を考える。
「(このままじゃ4人とも捕まる! せめて、この3人だけでも逃がさないと!)」
瞬はある案を思い付き、玲奈を連れて船が仕舞われている大きな倉庫の中に入り、隠れる。そして、暗闇の中、玲奈と向き合って作戦を伝える
「玲奈、作戦がある。聞いて欲しい」
「分かった!」
一方、澤口と藤田達は先ほどの透明人間の女がうずくまるコンテナの近くに居た。そして、うずくまっている女を見つけた澤口は怒りを露わにし、少し息を切らしながら、女に質問する。
「おい、お前アイツ逃がしたのか?」
女は苦しそうに「ゔぅ……」と嘆きながら澤口を見上げる。澤口の表情を見た女はフラフラになりながらも体を起こし、震えながら答える。
「すみません! 今すぐ追い掛けます!」
逃げられた事を知ると澤口は感情を爆発させ、声を張り上げる。
「いらん!! せっかくチャンスを与えたのにこの様か!! お前は収容所に帰ってもらう」
女は澤口が放った収容所という単語を聞くと涙を流しながら、大きく取り乱し、ヒステリックを起こす。
「いやぁ!!! またあそこに戻るなんて……お願いです!! もう一度チャンスを下さい!!」
しかし、澤口はそれに全く怯む事はなく、今度は淡々と話し出す。
「お前は“元々犯罪者”だ。1度チャンスを貰えただけで感謝すべきだろ? 2度目は無い」
澤口はそう言い終わると近くの警官に「連れて行け」と命令する。すると、指示を受けた警官が女をスタンガンで気絶させ、警察2人に抱えられながら連れていかれた。
澤口の後ろに隠れる様に立っていた藤田は終始目を伏せており、少し手が震えていた。
倉庫に隠れる瞬と玲奈は作戦の事を話していた。しかし、瞬の言葉を聞いている玲奈は眉間にシワを寄せ、涙を目に貯めていた。そして、玲奈がその作戦に反論する。
「そんなの嫌だよ!! 納得出来ない!」
「ごめんな……これしかない」