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第8話 王との対談、とアホの娘

 グリーンドラゴンを倒したので、俺とモニカは一度兵士たちのもとへ戻り報告をした。 

 隊長さんがすぐに現場を確認し、やたら恐縮していたので、これ幸いと馬を2頭借り受けてとっとと首都へと向かう。

 ハイデルベルグ王国の首都へと到着してから、首都入口で哨戒中の兵士に事情を説明し、馬をあずけた。

 



 ハイデルベルグ王国、王都ミレハイム。

 そよ風の都と呼ばれる王都は、いつも心地よい風が吹いている。


 俺とモニカは活気のある城下町を抜けて、まっすぐに王城へと向かった。

 門番は俺とモニカを勇者パーティーの一員だったと覚えており、すんなりと話が通り、ほとんど時を待たずしてハイデルベルグ国王と対面していた。


 当初、俺は真面目に臣下の礼のようなものを取っていて、国王もそれに鷹揚にしていたのだが。


「はっはっは!! よく来たなロイ!!!

 貴様、この前来たときはロクに話もせずに帰りおって!!!

 この薄情者め!!!」


 人払いが済んだ途端にこれだ。王は即座に、その辺の元気なおっさんになってしまった。

 傍らに控えている大臣と近衛隊長が苦笑している。


「…………四天王討伐のときは、王もいろいろと大変だったでしょう?

 俺もいろいろ大変だったんですよ。だから仕方なくてですね」


 相変わらず、この王様テンション高いわ。

 そりゃ大臣も隊長殿も、自分の国の王様がただの元気なおっさんのテンションになったら笑うしかないわな。


 俺とハイデルベルグ王は、先代魔王を倒す前からの知り合いで、十数年来の付き合いになる。

 始めて出会ったころから王様だったけど、王は剣の腕に覚えがあったようで、ことあるごとに試合を申し込まれたのだ。

 最初は王様と剣を交わすわけにもいかず、アレコレと適当に理由を付けて断っていたが、向こうがあまりにも熱心だったのと俺自身が面倒臭くなり、一度やりあったことがある。


 あのときは、俺の予想に反して意外にも筋のいい剣を振るってきたので驚いたもんだ。

 さすがに俺が負けることはなかったが、それ以来、俺と王の関係はこんな感じに落ち着いてしまったのだ。


 別に嫌いなわけじゃないんだけど、元気すぎるおっさんだから相手するのが結構疲れるんだよね。

 話のわかる人だし、善人だし、むしろ好きなんだけどさ。

 けどほら、このとおりおっさんだし? 暑苦しいし? これが美女なら話は別なんだろうけどねぇ。


「何をふざけたことを!!

 あの時は大方、俺と話すのは面倒だからとバルコニーにでも避難していたのだろう?」


 くっ、完全に行動パターンが読まれてやがる!?

 …………ったく、一介の剣士と大国の王様とじゃ、思考能力に差がありすぎるぜ。


 得意気な顔をする王に、俺の後ろに控えていたモニカが前に出て、丁寧に頭を下げた。


「ハイデルベルグ王。ご健勝のようで、なによりです」


「がははははは!!! やめよ、モニカ!! 俺とお前の仲ではないか!!

 どれ? そろそろ俺の側室となる決心はついたか!?」


 王がモニカの腰に手を回そうとしたが、パチンっと短い音が響いた。

 モニカはさり気なく王の手を払っていた。


「相変わらずの手癖の悪さですね、ハイデルベルグ王」


「王として、気に入った女は迎え入れねばならぬからな!

 次代の子孫を残さねばならぬ。そう! これは国王としての責務よ!!」


「くふふふふ。冗談は顔だけにしてくださいませ」


「ぐはははははは!!! 身持ちの固い女よ!!

 俺の女となれば、金銀財宝、服飾、装飾品、食事、酒、その他すべてが思うがままだぞ?」


「……………………籠の鳥になるつもりはありません」


 モニカは淡々と断った割には、妙にぐぐぐっっと何かを堪えた表情だった。

 …………さてはこいつ、酒に釣られやがったな?


「王であれば、エルフなど珍しくもないでしょう? 他をお当たり下さい」


「お高くとまっているだけのエルフに用などない。

 俺は、強き意志をまとった、美しい女にしか興味はないわ!!!」

 

 王は自信満々に宣言して、こっそりとモニカの尻を触ろうと手を伸ばす。今度は強めに叩かれていた。


 …………この王様、本当一皮むけば、ただのおっさんだよなぁ。




 ◇ ◇ ◇




 俺たちは、改めてハイデルベルグ王と向かい合って座り、勇者と帝国の状況について説明した。

 王は、眉をひそめて腕を組む。


「………………厄介な話だが……それでは、まだこちらが動くわけにはいかんな」


「理由を教えてもらってもいいですか?」


「お前ならわかるだろう、ロイ?

 王として情けない話ではあるがな、現状、我が国は帝国と戦争するわけにはいかんのだ……」


 王は沈痛な面持ちで吐露する。


「……勝てない戦争ほど、馬鹿らしいものはない」


「それほどまでに、帝国との戦力差は大きいのですか?」


 俺の問いに、王がうなずいた。


「大きい。単純な兵力だけでも倍は離れていると見ていい。

 しかも帝国兵は精強でもある。

 単純にぶつかり合えば、負けは目に見えているな。

 そんな死地へ、おいそれと兵を送るわけにはいかん」


 倍かぁ。

 そりゃちょっと厳しいモノがあるな。

 俺と王が黙ると、モニカが口を挟んだ。


「そうなのですか?

 もしその情報が事実であれば、帝国は勇者を抱え込むことなどせずとも攻めてきそうな気もしますが。帝国が勝利する可能性は高いのでしょうし。

 本当にそれだけの戦力差があるのですか?」


 モニカの疑問に、王はニヤリと笑った。


「ただ攻め滅ぼすだけなら、帝国の勝利は揺るがないだろうな。

 しかし奴らは、できるだけ疲弊せず、そしてできるだけスムーズにこの地を手に入れることが望みなのだ。

 我らとて、万に一つの勝ち目もなくとも、祖国を滅ぼそうとする侵略国であればそれこそ死ぬ気で抵抗する。

 総力戦となれば、両国は疲弊し、たとえ帝国が我らに勝てたとしても、得られるのは衰弱した敵国民と荒れた地だけ。

 それでは、うまみがなさすぎるだろう?」


 王の言葉に俺は頷く。


「だいたい、首尾よく国を手に入れたとしても、それを問題なく統治するのは決して簡単なことじゃない。

 そのあたり、帝国には過去に侵略戦争をしてきた経緯があるからノウハウはあるんだろうが、それでも王の言ったことは事実だ」


「…………なるほど。それでユエルの出番なわけね」


 モニカが合点がいったように、うなずいた。


「魔王を倒した勇者様が相手となっちゃあ、降参したり逃げ出したりする兵士も出てくるものねぇ」


「そうだ。兵士の士気が落ちるのが一番の問題だな。

 …………だがな、勇者殿のことを抜いても問題は別にもある。

 帝国のみであれば、戦力差はあれど我らもやりようはあるのだ。

 専守防衛ならば、わかっていようとも避けられぬ罠も張ることができ、いよいよとなれば、冒険者ギルドに要請をすれば一時的ではあれ帝国に拮抗する力は維持できよう。

 しかしな…………」


 王が、椅子によりかかり、大きく息をついた。

 やれることはあるだろうに、王はもどかしく感じているように見える。

 ということは……、

 

「戦力を固めたり罠を張ったりは、全部帝国が実際に攻めて来てからってわけですか?

 できれば今からでも、全力で備えて欲しいところなんですけどね」


 帝国と王国がぶつかり合うなら、戦力で劣る王国がまともな体勢も取れずに開戦してしまえば一気に押し切られてしまう可能性だって十分にある。

 だいたい敵は帝国だけじゃない。

 向こうには、味方にいれば頼もしい、敵に回ればすべてを蹂躙されかねない、勇者ユエルがいるのだ。


「……それは難しいだろうな。

 いくら勇者の仲間がもたらした情報といえど、それだけで事を進めるには、話が大きすぎる。

 俺ですら、信じようと思えるのは、お前たちの人とナリを把握しているからだ。臣下に納得の行く説明をできるとは思えん。

 我らが動くのであれば、それは迅速になさねばならん。

 下手に動きを見せて、いたずらに帝国を刺激すれば、警戒した帝国が即座に攻めてこんとも限らん。

 結局、それでは帝国の攻撃に対応できんだろうからな」


 王が、傍に控えている大臣と近衛隊長をかえりみる。

 二人は、共に渋い顔をしていた。


「私も、王と同意見です」


「私もですね。近衛隊長という立場上、ある程度兵たちに指示はできるでしょうし、剣聖殿の言うことであればと納得する者もいるでしょうが…………ことがことだけに、すべての兵士の意欲を維持できるかと言えば………………あ! 決して、ロイ殿を侮辱するつもりはないのですよ!?」


「はは。わかってますよ」


 今の時代は魔王を打倒した勇者一色だからなぁ。

 おじさんのが弱いし、そこはしょうがないんよ。


 しかしなぁ。

 どーにかしないとまずいのは確定してるんだが…………ちと、手詰まりだなぁ。

 ユエルだけでも頭が痛すぎるってーのに…………せめて、兵同士、国同士の戦いは均衡が保てないと厳しすぎるよなぁ…………。

 

 その場にいる者全員で、うんうん唸っていると、唐突に勢い良く扉が開いた。


「どこだ!? 剣聖はどこだ!?

 おい、お前!! 剣聖だ!! 剣聖ロイはどこにいる!?」


 突然部屋に騒々しく乱入してきた女に、俺たち5人は全員が反応できずにいた。

 呆然とする俺たちに向かって、女はずんずんずんっと風を切って向かってきた。


 年のころは、20前後。

 目鼻立ちがやたらとくっきりしており、体格は大きくもなく、小さくもなく。

 金髪を器用に結っていて、室内に漏れ入る陽光に反射して、眩しいと称せるほどの輝きを放っている。

 ドレスでも着ていれば非常に似合いそうだが、女は一介の兵士のような動きやすい格好をしており、剣を手にしていた。


 え? 剣? マジか? なにこの女?

 ここ、一応王様がいる場所なんですけど…………殺気はないけど、そんな格好で、そんな豪快に入ってきていいの? 斬り捨てられたりしない?


 俺の当然な疑問は解消されることなく、女は俺に向かって掴みかからりそうな勢いで迫ってきた。


「おい? 聞いているのか!?

 ロイという男はどこにいるのかと聞いているのだ!!」 


「…………えと、ロイは俺だけど?」


 女に正直に告げると、女はさらに興奮して、


「なに!? 貴様がロイか!?

 なんだ、それならそうと早く言えばいいものを!!

 大して覇気も感じられんし剣も持っていないから、新しい文官でも雇ったのかと思ったぞ!!」


「はぁ」


 文官て。

 どう見ても旅人の格好してる奴を、どう考えたらそんな風に思えるんだ、こいつは……。 

 あれか。やたら元気いいし、アホの娘か。


「しかし、ちょうどよかった!

 国に帰ってきたばかりで会えるとは、(わらわ)はなんと運がいいのだ!!

 よし、ロイ!! 剣を持て!!!」


 は? 剣?

 …………剣って……………………剣以外に、なんか他に意味あったっけ? 


 ?マークで埋もれる俺に、女は堂々と胸を張って言い放った。


「妾はハイデルベルグ王国第1王女、ジュリエッタ・ハイデルベルグだ!!

 剣聖ロイよ!! 尋常に、妾と勝負しろ!!!」


「……………………………………………………………………は?」


 …………あー、うん。

 なるほど。わかった。


 やっぱりアホの娘のようだな。

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