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第65話 街を歩いて

 ハイデルベルグ城でのパーティーは、つつがなく終わった。

 つつがなくとか言っても、まぁいろいろとひどかった面はぬぐえない。

 モニカは酔っぱらいまくって手が付けられなくなるし。

 スヴェンの旦那は早々に酔いつぶれて動かなくなるし。

 ティアンはつぶれた振りして旦那の横から動かなくなるし。


 祝いの席だから深くは突っ込まれなかったけど、アレ、城の人達ちょっと引いてましたよね……。

 そして翌日。


 旅支度の買い出しで、俺はユエルと街中を歩き回っていた。

 俺だけなら大した荷物にはならないのだが、パーティ全員分となると馬鹿にならない。

 昼から出ていたのに、買い終えたころには日が落ちかけていた。

 ふといい匂いがしてきて顔を向けると、匂いと一緒にすきっ腹に直撃するような肉の焼ける音が聞こえてきた。

 

「焼きまんじゅうかぁ。一個食ってくか?」  


「もう少しで夕飯ですし、私はいりません。

 ロイさんだけ食べてください」


「そうか? じゃあちょっと行ってくるわ」


 俺は屋台の前に行って、おっちゃんに一つ頼む。

 威勢のいいおっちゃんから焼きまんじゅうをもらって、待ってるユエルのところへと戻った。

 ……うーん、いい匂いだねぇ。屋台で売ってる食い物って、なんでこんなにうまそうなんだろう。うまいからかぁ。


「はふはふっ! あっつ! …………うん、うまい!」

 

「よかったですね」


「おう、これは当たりだな。もちもちしてて、中に入ってるちょいピリ辛な肉がいい感じだ」


「ロイさん、ちょっと辛いの好きですよね」


「激辛はダメだけどなぁ。繊細なんだよ、俺の舌は」


「そうですね」


「はふはふっ…………くぅっ、うんまーい!

 ユエル、本当にうまいぞこれ。今からでも買ってくるか?」


「いえ、私は本当にいいですから」


 くすりとユエルに笑われる。

 お、珍しいな、こんな風に笑うユエルは。


「でもモニカさんには買っておいた方がよかったかもしれませんね」


「え? ……あぁ、そうかもな」


 あいつ、エルフのくせに肉も普通にバクバク食うからなぁ。

 というか何でも食うか。雑食エルフだ。


「戻って買ってきますか?」


「いや、やっぱ面倒だしいいや。モニカには黙ってりゃわかんねぇしな」


「そう言って、いつもうっかり口を滑らしている気がします」


「だ、大丈夫だ! ……けど、もし危ないときはフォロー頼むぞ。

 あいつ食い物にはうるさいときあるからなぁ。怒らせると面倒だ」


「そこまで言うなら戻って買いましょうよ」


「……いや戻らん。モニカのためにいちいち遠回りするとか、あいつに知られたらその方が面倒だ!

 なんやかんや、からかわれそうな気がする!」


「いいじゃないですか、そのくらい。

 まったく、ロイさんは」


「そうは言ってもな。あいつどうでもいいネタで結構しつこいときないか?」


「ロイさんがすぐムキになるからですよ。

 スヴェンさんが何かしても、変にからかったりしないじゃないですか」


「そりゃ、あいつも旦那には言わないけどさ。

 ……でもそれって旦那自身がどうこうというよりも、ティアンが旦那にびったりくっついてるからじゃねぇの? 他人がアレをからかう気にはなれんだろ」


「それは……そうかもしれないですね」


「俺がいなかった間も、ティアンは相変わらずか?」


「いえ、より重度になったと思います」


「えぇぇぇ。アレよりかよ……」


「ロイさんとスヴェンさん、よく話してたじゃないですか。その時間がそのまま入れ替わる形になったので」


「それもう四六時中くっついてるようなもんだろ」


「仲いいですよね」


「仲いいとか、そんなほんわかしたワードじゃ収まらんだろ……」


 ティアンはもともと、スヴェンの旦那をストーキングしまくってたからなぁ。生来の性質がそういうもんなのかも。

 でもティアンって黙って普通にしてればいい女だし、度が過ぎなければ普通に羨ましい状況だ。


「旦那は、奥さんに怒られればいいと思う」


「スヴェンさん、王城でのパーティが終わったら一度家に帰るって言ってましたよ」


「え、マジで?」


「はい。ティアンさんも一緒に、いろいろとお話するそうです」


「わぁ…………それ修羅場不可避だろ。ユエルも行くのか?」


「私は当事者ではないので遠慮します」


「だよな」


 すげー面白そうだけど、巻き込まれたら怖いし下手に近づかない方がいいだろう。

 あとで話だけ聞けばいいや。がんばれ旦那。


「あの、ロイさん。

 ……私、帝国側について戦っていたのに、王都のパーティに出席してしまってよかったのでしょうか?」


「今更それ言うのかよ。復活してた魔王を倒したのはユエルなんだし、構わないだろ。

 帝国側についてたってのも、別に誰かを殺したわけでもないしな。ユエルが実際に戦ったのだって、俺とエッタだけだろ」


「……王国のお姫様と戦ってしまったなんて、相当なことだと思うんですけど」


「あー」


 字面だけで捉えると確かに激しく不味いな。普通に怨敵だわ。

 けど大丈夫じゃねぇかな。


「エッタは気にしないだろうし、問題ないだろ。

 むしろあいつの場合、ユエルと戦えてよかったって考えてそうだぞ」


「それは、そうかもしれません。

 再戦も申し込まれましたし」


 うむ、エッタの奴、安定の脳筋具合だ。


 支援魔法ありだと、勇者の加護の効果でユエルの圧勝だろう。

 でも支援魔法なしなら、パワーとスピードはエッタ、技術ならユエルってところだ。エッタに分があるだろうけど、互いに訓練相手としてちょうどいいかもな。

 

「いつになるかは、わからないとも言われましたが」


「まぁ、どうせすぐは無理だしな。

 しかしエッタの奴、そんなこと言ってたのか。こりゃガチでユエルに勝とうとしてるな」


 近衛隊長とドーベングルズ将軍の二人を同時に戦って勝利したこともあったし、エッタならなんか面白いこと思いつくかもな。

 そんときが楽しみだ。


 …………それまでは、少し退屈かもな。

 

「おーーい!!」

  

 宿の近くまで戻ってくると、手を振る人影があった。


 え? この声、もしかして……?

 俺が思った時には、ユエルはすでに駆け出していた。


「どうしたんですか、こんなところで!?

 城から出て平気なんですか!?」


「うむ、問題ない!」


 胸を張って言い切るエッタに、ユエルは絶句する。


 本来であれば、ハイデルベルグ王国の姫であるエッタが城の外にいるわけがないんだけど、昨日のパーティーで一つ決まったことがあった。

 エッタは先の王国と帝国との戦いで、複数の部隊長を倒し、さらにはブラックドラゴンもどきである黒雛を何体もぶっ倒すという大戦果を挙げていた。

 この戦果をたてにして、エッタはハイデルベルグ王から、旅に出る許可をもぎ取ったのだ。

 もちろん、娘を溺愛する王は超嫌がっていたが、近衛隊長や大臣に根気よくなだめられて最後には泣く泣く承諾していた。


「問題ないって、お前。旅は許可するけど、代わりに一か月は城にいるって話じゃなかったか?」


 王がドン引きするレベルで漢泣きしながら言った提案を、エッタも納得してたはずなんだが……まさか油断させておいて黙って出てきたのか? 鬼かよ。


「それがな。朝起きてから四六時中ずぅぅぅっとすぐ傍にいられて、いい加減嫌になったのだ!」


 ……おぅふ。一国の王がストーカー(ティアン)と同レベルかよ。

 ユエルが沈痛な面持ちであごに手を当てる。


「それは確かに嫌ですね」


「だろう? 妾も数時間は我慢していたのだが、それが限界であったな。面と向かって、もう旅に出ると言って出てきた。

 父上のことは敬愛しているが、しばらくは顔も見たくないぞ」


 辛辣なコメントが続き、無関係なはずの俺の胸が痛くなってくる。

 おっさん、ショックで放心してなきゃいいけど……。


「それに、あのままでは執務にも影響が出てしまうからな。

 どうせなら妾もそなたたちと共に行きたかったし、ちょうどよかったのだ」


 エッタはコホンっと咳払いして、嬉しそうに笑った。


「これからよろしく頼むぞ、ロイ、ユエル!」


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