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第56話 戦いのはじまり

「ははははははは!!! どうした勇者!! そのように慌てて飛び退くなど貴様らしくないのではないか?」


「…………」


 魔王ゼーレスドーグルが、さらに続けて魔弾を放ってくる。着弾と共に爆裂し、次々と地面をえぐっていく。

 ユエルはそのすべてを十分な距離をもって回避していた。


 詠唱もなしにあの威力とか、ヤバすぎるな。

 しかも魔王の魔法って、確か変な呪いだかがあって回復がおぼつかないんだよな? 反則じゃね?


「この程度の魔法に怯えるなど、勇者とはかくも勇敢なものだな!!

 ……どれ、それでは少し本気になるとしようか」


 魔弾がやみ、魔王の周囲に比喩ではなく黒い霧が現出する。

 詠唱を開始した魔王の周囲に目に見えるほどの圧倒的な魔力があふれ出て、その手にさきほどまでの魔弾の数倍の大きさの炎球が生まれた。

 やばい! でかいのがくる!?


炎裂弾ファイアー・ボール


飛燕烈天駆(ひえんれってんく)!」 


 放たれた炎裂弾ファイアー・ボールに、ユエルが剣技を発動させて突っ込んだ。

 瞬間、爆裂した衝撃と炎が周囲に荒れ狂う。


「おおおお!?」


 共に飛びのいたエッタから驚愕の声が漏れた。

 あっぶねぇな!? 余波だけでこの威力とかやってらんねぇぞ!?  


 灼熱の炎はすぐに収まり、視界が開ける。

 ユエルは魔王に飛び込む前の位置で立っていた。あの威力の魔法を受けたにしては浅い傷だが、ユエルに魔法で傷をつけたのだ。

 上級魔法が直撃しようとも平然としているのがユエルだ。

 さすがは魔王、人の杓子ではかれるようなシロモノじゃないってことか…………って、斬られた跡もある? あれは俺との戦いでできた傷じゃねぇぞ。


「存外芸がないな、勇者よ」


 魔王は悠然とたたずみ、その手にはいつ出したのか漆黒の剣を手にしていた。


「今までこの俺の魔法に特攻する者など存在しなかった。ゆえにあのときは不意を突かれたが、そうそう同じ手は食わん」


「……魔王が戦い方を学習するなど、殊勝なことです。

 ですが、以前よりも魔法の威力が下がっていますね?」

  

「未だこの身体には慣れておらんからな。なに、心配してくれるな。時が経てば元に、いや、さらに俺の力は増すだろう」


 低く唸るような声で笑い、魔王の黒剣は虚空へと消失した。


「喜べ勇者よ。力の使い方には慣れが必要だが、この身体の頑強さはなかなかのものだぞ?

 あのときと同様の攻撃で、この魔王に傷をつけられると思うなよ」


「…………」


「さて、これ以上長引かせても興ざめするだけだな。

 そろそろ雌雄を決すると……」


 不意に魔王は言葉を切り、あさっての方向に目をやる。

 視線を追うと、遠方に黒い巨大な塊がいくつも見えた。かなりの勢いで王国軍へ接近していた。


「……黒雛が動き出したか。

 すべてをけしかけるとは。ゾギマスめ、臆病なものだ」


「黒雛……?」 


 ユエルのつぶやきに、魔王が愉悦の表情を浮かべる。


「人間とは面白い発想をするものだな?

 自我の目覚める前のブラックドラゴンの幼体を、人為的に魔力を注ぎ成長させ意のままに操ろうとするなど。なかなかに興味深い実験だ」


 黒雛って、やっぱりありゃ帝国の仕業だったのかよ。本当にブラックドラゴンだっていうなら、そりゃ堅いわけだ。

 見たところ10体はいるようだし。1体であれだけ手間取ったんだ、放っておいたら王国軍が壊滅しちまうかもしれねぇ…………くそ、向こうに応援に行きたいところだが、ユエルの形勢も悪い。それにこのままだといずれ……、

 

「ロイ……ロイ!」


 強く肩を引かれて、ようやくエッタが俺を呼んでいたことに気づいた。


「おぉ、なんだよエッタ?」


「あのでかい黒いのは妾に任せておけ。そなたはそっちの黒いのを倒すのだ」


「そっちの黒いのって、魔王のことか?」


 確かに黒衣を纏ってるし、なんか魔法も剣も黒いのばっかだけど言い方!


「勇者め、魔王相手に劣勢ではないか。妾が割って入ってやってもよいが、あの女を助けるのは気が乗らん。兵も心配だしな」


 気が乗らんって……ユエルの何がそんなに気に入らないんだろ。そういやユエルもエッタと話してるときは様子が変だったし。

 ライバルとかじゃなくて、純粋に険悪なの、君たち?


「それに、あの魔王はそなたにはうってつけの相手にも見える。

 勇者とそなたでなら十分に倒せるだろう。ぬかるでないぞ!」


 ばんっと俺の背中を叩いて、エッタが走り出した。

 あの黒雛たちをエッタだけに任せるのも不安だが、今は魔王に専念した方がいいか。


 と、魔王が詠唱を始めて、さきほどと同様の炎裂弾ファイアー・ボールを紡ぎだした。

 ……って、二つ目? 野郎、両手に炎球を生み出しやがった!?


「ブラックドラゴンとて、この魔法の前には一瞬で焼き尽くし爆砕される。勇者がどれだけ耐えられるか楽しみだ」


 自信に満ち溢れたの魔王が一度、意味ありげにユエルの後ろへと視線を向けた。


「……紅絶爆エクスプロージョン!!」


 魔王が両手の炎球を合わせて、倍加した炎球を打ち出す。

 しかし、ユエルに躱す気配がまったく見えない。反応できないスピードではないだろうに、射線上にいる王国兵を気にしてんのか!? あの糞真面目が!!


 俺は練気れんきを発動させ、全力で踏み込んで翔びユエルの前に躍り出る。


「ロイさん!?」


 ユエルの上げた声に応えるように、俺の魔剣が炎球を真っ二つに斬り裂いた。


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