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第52話 決着

 間合いを取って、俺たちは剣を構えたままにらみ合う。

 ユエルは先程までの余裕の表情は消え、額から汗が吹き出していた。


「…………やってくれますね、ロイさん。今まで手を抜いていたんですか?

 明らかに動きが違いすぎるんですが」


「そういうわけでもないぜ。

 ただ、本気にひとつ本気を上乗せさせたけどな」


 俺の謎かけのような言葉に、ユエルは眉間にシワを寄せた。


「……ジュリエッタさんが使っていたという、練気れんきですか」


「おう。

 俺も短時間なら意識的に練気れんきを使い続けることはできるようになったわけだ。

 それでも、今のユエルの身体能力にはまだまだ届かないけどな」


「私の方が未だスピードもパワーも上回っているとは、とても思えません。

 反応だって追いついてませんし……」


「そりゃ、お前は双剣使いとの戦闘経験なんてないからな。

 変則的な攻撃にいきなり完璧に対応できる方がおかしいだろ」


「それはそうかもしれませんけど……」


 納得のいっていない表情のユエルを見て、俺は胸がすっとする。してやったりですよ。

 15の小娘相手に我ながら大人げないとは思うが、向こうは勇者なのだから多少ムキになってもいいんです。


「こうやって少しは間を置かないと、俺の場合は集中が切れて練気れんきが発動できなくなっちまうしな」


「……そういうことをしゃあしゃあと言うところ、とてもかんに触ります」


「ちょいと前にさんざん挑発されたからな。少しはやり返せたようで俺も溜飲が下がるよ」


 ユエルの眉間のシワが深くなり、僅かに腰を落とした。

 ピリピリとした空気に、俺の心がざわつく。


 短い時間とはいえ、一度はまともに斬り結んだんだ。

 次にユエルとぶつかりあえば、もっと的確に対応されるのは間違いない。

 下手に時間をかけるのは俺に不利だ。

 っつーわけで、俺から仕掛けるとしよう。


 俺は練気れんきを意識して発動させ、地面を爆発させるように強く蹴りつけて、一気にユエルとの距離を埋める。

 近づいたところで、一度フェイントを入れて斬りかかるが、ユエルも焦ることなく動き完全にガードをする。

 左右から4度斬りつけるが、すべて隙なく防がれる。


 この様子だと、すでにかなり見極められてるな…………迂闊に攻めると手痛いカウンターをくらいそうだ。


 その後も何度か斬撃を繰り出すが、そのすべてを防がれ、受け流される。

 時折ユエルも反撃をしてきて、その回数は加速度的に増えていく。

 次第に厳しい表情だったユエルの顔に余裕が感じられるようになっていき…………、


 ……頃合だな。


双嵐絶華(そうらんぜっか)!!」


「くっ!?」


 風嵐絶華ふうらんぜっかの双剣バージョンの剣技、とにかく手数が半端じゃねぇ。

 問答無用の斬撃の嵐に、ユエルも防御一辺倒になり、それでも完全に防ぐことはできずにいる。

 双剣は数度、ユエルに浅くはない傷をつけた。


 スピードもパワーも俺のほうが不利。

 俺の勝機は、ユエルの知らない剣技が扱えること。そして、ユエルの行動がある程度読めることだ。


 俺の斬撃がやむと、ユエルがすかさず反撃の突きを入れてくる。

 鋭い……が、これはフェイントだろ!


 ユエルは突きを繰り出すと即座にバックステップをして距離を取った。

 ユエルが後ろへと飛んだ瞬間、俺は大きく振りかぶった。


「食らえッ!!」


「……なっ!?」


 全力で右手に持った魔剣をユエルに向かって投擲する。

 かなりのスピードで迫った魔剣を前に、ユエルは態勢を崩しながらも剣で弾く。

 そのときにはすでに、俺は深く腰を落として限界まで集中力を高めていた。


烈空天翔破(れっくうてんしょうは)!!!」


 俺は矢のような速さで一直線に翔ぶ。

 ユエルに体当たりする勢いで突進し、両手持ちにした剣で斬撃を放つ。

 ユエルは態勢を崩しながら、俺の一撃を真正面から受け止めた。俺の勢いに押されながらも、ユエルは倒れない。


「さすがだな…………だが、これで終わりだ!!」


 俺は剣を合わせたまま腰を落とし、爆発するようにしたたかに地を踏み込む。

 突進した勢いを上乗せさせて、俺は鍔迫り合いをするユエルごと、高く翔び上がって吹き飛ばそうとして、

 

「させません!!」


 ユエルが上から押しつぶすように圧力をかけてくる。

 剣技を発動している俺を相手に、ユエルは持ち前のパワーでお構いなしに封じ込めにきていた。


 だよな。お前はこの剣技知ってるもんな。ここで抑え込んできてくれると思ったぜ! よく反応してくれたな!!


「…………え?」


 俺は剣を手放して、さらに身を低くする。

 ユエルは押し合いをする俺を見失い、大きくバランスを崩した。

 強引に剣技を中断したので俺の体勢は多少崩れるが、ユエルほどではない。

 俺は隙だらけのユエルにタックルを決めて、腰から一気に持ち上げた。

 

 っしゃ、完璧に捉えた! このまま地面に叩きつける!!

 あとはユエルから剣を奪って終わりだ!!


 俺は勝利を確信して、勢いのままユエルを叩きつけようとしたとき、肩を押し出すような手の感触があった。


 …………あれ、空ぶった? ユエルはどこいった!?


 慌てて振り返ったときには、なぜかユエルが空中で一回転していた。

 やけに姿勢がよくて華麗な宙返りに、思わず見入ってしまってしまう。


 え? どゆこと? 俺、今確かにユエルにタックル決めて持ち上げてたよな? なんであいつあんなところに……まさか抜け出して? ………………って、ぼーっとしてる場合じゃねぇだろ!?


 俺は弾かれたようにユエルに向かってダッシュした。

 くそっ、素手勝負ステゴロでマウント取って勝負決めるつもりだったのに!!

 だが、まだ着地前に接近できれば一撃くらいは入れられる!! 勝機はある!!


 全力ではしる。が、惜しくもユエルの着地の方が早かった。

 ユエルがわずかに振り返り、横目で接近してくる俺の姿を捉える。


 ちっ!! 賭け事は好きじゃないんだがな!!! 


 俺は限界まで速度を上げて、正面を向いたユエルの顔面に向けて拳を突き…………………………ギリギリのところで寸止めした。

 ユエルの左目あたりに俺の拳がある。ユエルはまっすぐに俺を見ていた。

 そのまま動かずにいると、ユエルが口を開いた。


「…………どうしたんですか、ロイさん」


「お前こそどうしたんだよ……いきなり棒立ちしやがって」 


「もう勝負はついてましたから」


 ユエルの視線が外れて、俺の後方に注がれる。

 俺もそちらへと目を向けると、先ほど戦っていたあたりにユエルの剣が転がっていた。


「素手同士となると、私とロイさんでは勝負になりません」


「……やってみなきゃわからねぇだろ?」


「わかりますよ。多少の身体能力の差なら、今みたいにひっくり返されちゃいますから。それに私には素手での戦いの経験なんてありませんし」


「…………」


「だから私、あの時言ったじゃないですか。ロイさんは強いですって」


 降参の意を示すように、ユエルは完全に殺気を消して小さく息を吐いた。 

 自身の敗北を認めるユエルはしかし、ほっとしたように弱々しい笑みを浮かべる。


 俺はその姿を見て、不意にいつかの………………初めてユエルと会ったときのことを思い出していた。

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