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第50話 最後通牒

 遠方より飛翔した影が飛来し、


翔麓岩砕撃しょうれいがんさいげき


 振り抜いた一撃が地面を抉り轟音が鳴り響く。

 たった今まで俺たちがいた場所に、直径10メートルはあろうかという大穴が空いていた。


「…………やはり避けられてしまいましたか」


 大穴の中央に小柄な人影がうずくまっていた。

 のそりと、大型モンスターのような動きでユエルが立ち上がった。


 ぶ、物騒すぎるだろ、この娘!! だれだ、こいつにこんな技教えたの!? 俺だ!!!


「前々から思っていたことですが、この技って隙も多いですし、棒立ちの人にしか当たらない気がするんですけど」 


「そもそも人に当てる技じゃないからな!! 大型モンスターとか、アホみたいに耐久力ある奴専用みたいな技だからな!!」


「最大威力だからといって、いつでも有効なわけではないですよね」


 そうだよ! でも、やられた方は滅茶苦茶びびるからな!!


 かわいそうに、俺がかついだ僧侶ヒーラーさん、めっちゃガタガタ震えてるじゃねぇか!! 大の男なのに漏らしちゃいそうな勢いだぞ!!


「あ、ああぁあっぁぁ、ありががががとうございますすす」


「こちらこそ、支援魔法ありがとうございました。危ないんで、どうか離れててください」


 この人の深緑の祈り(グラン・プレア)の効果がなかったら、人抱えて迅速に退避する余裕なんてなかっただろうしね。


「そ、そそそうさせていただきますぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


 僧侶ヒーラーさんを地面に返してやると、ものすごい勢いでダッシュしていった。速っ。

 脱兎のごとく駆けていく彼とは真逆に、エッタは随分のんびりしている。


「エッタ、お前もまだ完全に回復はしてないだろ。あの僧侶ヒーラーさんと一緒に下がっとけ」


「断る……と言いたいところだが、そうも言ってられる様子ではないな。妾も、ここまでとは思っていなかった。致し方ないが、今はまだ素直に治療に専念しておこう。

 しかし、ロイよ。その女、本当に勇者なのか? 魔王かそれに類するものといった方がしっくりくる気がするのだが」


「私は勇者です。あなたが呼びたければ、魔王でも魔人でもなんでも構いませんが」


「ふぅむ。ならば鬼神というのはどうだ? 鬼のような恐ろしさのお前にはぴったりくる」


「ではそれで。ですが、どちらかというと無鉄砲な行動をするあなたにこそ相応しい呼び名と思えますけどね」


「言うではないか」


「そちらほどではありません」


「…………」


「…………」


 なんで無言で睨み合ってんだよ。怖いよ君たち。


「では妾は向こうへ行っている。

 ロイよ、そのような邪神に負けるでないぞ」 


「わかったから、これ以上無駄に挑発しないでくれませんかね」


 これからユエルの相手するの俺なんだぞ。もしかして、遠まわしな俺への嫌がらせじゃねぇだろうな?


「魔神の攻撃から、怪我人で、恋人たる妾を完全に放置して、僧侶ヒーラーだけを助けた報いだ。

 妾を信頼していたのはわかるが、妾がいつもそう受け取るとは思うなよ?」


 エッタは、ふんっと鼻を鳴らして僧侶ヒーラーくんの後を追った。

 

 なんなの?

 普段なら手助けしようとしたら、いらん! とか言って普通に断りそうなのに、今日に限ってなんでそんなこと言うんだ、あの姫さんは。


 走り去っていくエッタの姿が小さくなり、十分に距離をとったところで振り返ると、鬼がいた。


「うお!?」


「どうしたんですか?」


「い、いや……なんでもない…………」


 び、びっくりした! なんでか一瞬、ユエルの目が暗い赤珠のように錯覚しちまったよ……。

 髪と同じ黒色のはずなのに…………本当に鬼かと思ったわ。


「ところでロイさん。

 やっぱり、ジュリエッタさんとは恋人同士なのですか?

 あの人が言っていましたけど」


「へ?

 あー…………まぁ。そう、だな……」


 エッタの奴、恋人たる妾って言ってたし。

 俺もエッタも、関係を終わらせる話は一度もしてないわけだし。

 それなら、あの時の話は有効なわけで、それなら、俺たちはまだ仮であっても恋人同士のままということになるよな。


「それとも、あの人が勝手に言っているだけですか?」


「そういうわけじゃないぞ。双方同意の上は間違いない」


 雑な始まり方ではあったけどな。


「ま、いいだろその話は。

 そんなことより驚いたぜ。お前がそこまで本気になるとは思わなかったからな」


「……………………ゾギマス大臣のことですか?

 私も彼が神々の祝福(ゴッド・ブレス)が扱える術者だとは思いませんでした。大臣になる前は、帝国支部の大司教であると聞いていましたから高位の支援魔法が使えるとは思っていましたけど。

 様子が見たいからと、わざわざ何人かの伴を連れて、あそこまで来たようですね」


 ユエルが首だけを傾けて後ろに視線をやる。

 ゾギマスはここからかなり離れているものの、帝国軍からはかなり突出した形になっていた。


「支援魔法を頼んだのは私ですが、さすがにかなり疲労はしたようでしたね」


「あの野郎が神々の祝福(ゴッド・ブレス)を使えたことも確かに驚いたけどよ。

 じゃなくって、お前が本気だってことがだよ」


「……私が?」


「てっきり、あのままゴリ押してくるかと思ったんだけどな。

 わざわざ改めて高位の支援魔法をかけてもらいに行くとは思わなかったからよ」


 あの時点でも、地力の差は明らかだった。

 今はマジでヤバイほどに差が開いてるんだけども。


「…………私は、負けられませんから。

 ロイさん、聞くのはこれが最後です。

 ここから退いてはくれませんか?」


 頼み口調ではあるが、ユエルはぞっとするようなプレッシャーをかけてきた。

 一流の冒険者であっても、いや、一流だからこそより明確にユエルの力量を感じて、この場から逃げ出してしまってもおかしくない。


 結局は俺も、逃げ出したうちのひとりだしな。


「ロイさん……」


「断る」


 俺は、右手に持った魔剣を構えてはっきりと告げた。

 込上がってくる震えを無理矢理に押し殺し、強引に口角をつり上げる。


「…………どうしても、ですか?」


「どうしてもだ。

 ユエル。お前にだって譲れないものがあるから、今ここにいるんだろう。

 奇遇だな、俺もだ」


 クーチェやザザ村の人たち、ハイデルベルグ城で世話になった人たち、王様、大臣や近衛団長、兵士たち。それと。


「…………くく」

 

 あいつの笑い声が聞こえた気がして、思わず噴き出してしまう。

 気づけば震えは止まっていた。


「来いよ勇者。

 剣聖ロイが相手をするぜ」


「…………」 


 ユエルが無言で上段に剣を構える。

 その姿は、不吉な死神のようでも、慈悲深き女神のようでもあった。


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