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第48話 再会

 大分手こずっちまった。くそっ、手間取らせやがってブラックドラゴンの糞野郎め!


 俺は王国兵と共闘して、どうにかブラックドラゴンを打ち倒していた。

 王国兵には弓や魔法で援護をしてもらい、俺はひたすらに斬りまくるという完全脳筋な戦いをしたせいでめちゃくちゃ時間がかかった。

 勝利の余韻に浸るまもなく、俺はエッタが走り去った方向へと全力疾走していた。


 あいつら、無茶してなきゃいいんだけど……やらかしてそうな気がするんだよなぁ。

 遠目に見る限り、まだ戦ってるようだから少なくともヤバすぎることにはなってないんだろうけど。


獅子連斬(ししれんざん)!!」


 エッタの声が戦場に響き、三連撃の直後、赤い霧が舞った。 


 へ?

 今の獅子連斬(ししれんざん)、エッタがやったのか? 剣技を?

 …………うそーん、あいつもう剣技使えるようになったの? この前コツ教えたばっかだと思ったのにマジか? どうなってんだよ、あいつの成長率は。


「って、かなり血飛んでなかったか、今の!?」


 まだ数十メートルは離れてるのに、飛散した血が見えたってまずいだろ!? 致命傷じゃなくても、もう戦えるような状態じゃないはずだ。

 俺は焦る気持ちのまま速度を上げて、ようやくその場に到着した。


 二人は間合いを開けてにらみ合っていた。

 ユエルは剣を構えたまま、少し荒い呼吸をして額に汗が浮かんでいる、

 エッタは右肩を抑えて、痛みのためか歯を食いしばっていた。少し顔色も悪い。


「エッタ!! 大丈夫か!?」


「ロイか。ブラックドラゴンはどうした?」 


「あんなもんぶっ叩き続けてれば倒せるんだよ!! それよりお前、大丈夫か!?」


「騒ぐでない。……この程度、大した傷ではない」


 いや、大した傷だろ。右肩から血がダラダラ出てるぞ。

 ったく無茶しやがって。ユエルの奴、支援魔法かかってるじゃねぇか。つまり、『勇者の加護』が発動してるってことだろ? 無敵モードじゃねえかよ!


「エッタ! お前、ユエルとの実力差ぐらいわかるだろうが!

 なんでまともに戦ってんだよ!」


「地力の差がある格上との戦いというのは以前に体験しているからな。レッドドラゴンよりも実力が上の人間というのは、新鮮だった。

 それに結構惜しかったのだぞ? そやつの隙をついて倒してやろうと思ったのだがな、なかなかに強情な奴だ。まさかあの状態から、妾の肩を突いて強引に妾の斬撃をずらしてくるとは思わなかった」


 意味は完全にはわからんが、なんとなく互いに無茶やったというニュアンスは受け取れる。


「いいから退いとけ。僧侶ヒーラーの兵士に俺の後についてくるよう頼んどいたから、来てもらったらすぐ回復魔法かけてもらえよ?」


「ポーションでは治らんのか? さっき斬られた傷はすぐに治ったのだが」


「重度の傷は、普通は何日も安静にしてなきゃ治んねぇよ! 回復薬はそこまで万能なもんじゃねーっての!」


「そうなのか。では僧侶ヒーラーの魔法だと治るのか?」


「そうだよ! 優秀な奴ならな!」


「便利なのだな、回復魔法というのは」


 感心したように言って、エッタは自分の剣を拾って後ろへと下がった。

 その様子を見て、ようやくほっと一息つくと、それまで何も喋らなかったユエルがぽつりと零した。


「随分と慌てるんですね? ロイさん」


「何言ってんだ。あんだけ血出てりゃ慌てもするだろうよ」


「死ぬようなことはないと思いますが」


「あのな、ユエルと一緒にするなよ。

 お前なら死ななきゃすぐ回復できるだろうけど、普通の人はそうもいかないんだよ」


「……そうですね」


 ユエルは相変わらずの無表情だった。

 めずらしく荒く呼吸をしていたが、今はもう落ち着いている。


 俺の見立てじゃ、エッタとユエルじゃ、勇者の加護を発動した状態だとまともな勝負にはならんと思っていたけどな。

 エッタめ、多少なりともユエルを動揺させるとは大した成長ぶりだぜ。


「ホントもりもり強くなりやがって。まるで、いつかのユエルみたいだな」


「彼女――ジュリエッタさんのことですか?」


 おっと、独り言が出てたか。


「あんなに強い人なのに、私は彼女を全然知りませんでした」


「俺だって知ってから間もないぞ。とにかくデタラメな奴でなぁ、変な奴なんだよ本当に」


「……最後、危なかったです。半ば斬られたかと思いました。かなり冷やっとしました」


 ユエルにここまで言わせるとか、あいつマジでなんなの?

 

「仲間、なんですよね? あの人、ロイさんの……。

 すごく親しそうに見えましたけど、どういう関係なんですか?」


「え? 普通に仲間だけど……………………ついでに、恋人同士ですけど」


 なぜかバツが悪くなって、思わず敬語&小声になってしまった。


「は?」


「だから、エッタとは一応恋人ってことになっててな。仮なんだけどさ。

 ……あ、いや待てよ? あれってまだ続いてるのか?」


 あの夜、ハイデルベルグ城でエッタの告白を断ったときに俺たちの関係って終わったことになってんのか? なってんのかなぁ? なっててもおかしくないよね……。

 あれ、なんだろ。微妙に力抜けてくるんですけど。


「…………結局のところ、なんなんですか?」


「うぅむ、俺もよくわからん」


「私はもっとわからないんですけど」


 でしょうね。でも俺もこれ以上はわからないんだからしょうがないよね。


「っつーか、それよりもだ。

 お前こそ、まだ帝国に肩入れするつもりなのか?」


「スヴェンさんの件がありますから……」


 うん? ユエルの奴、なんで今チラッと後ろ見たんだ?

 …………誰かいるな。格好からして僧侶ヒーラーと、………………あれ? なんか見たことあるような…………。


「って、フィラルさんじゃねぇか!?」


「道中の彼女を助けたらしいですね? 感謝していましたよ」


「そ、そうか……あー、あのときは偶然でなぁ。つか、フィラルさんと知り合いだったのか?」


「彼女は帝国にいる私についている騎士です。城下町でロイさんと会ったときに私を監視していたというのも彼女ですよ。

 帝国にいる間、いろいろと気にかけていただきました」


「そ、そうなのか……よ、よかったなぁ、でいいのか?」


「はい」


 迷わず頷くユエルを見て、俺は背中にぐっしょりと冷や汗をかいていた。

 あ、危ねぇ! フィラルさんは中枢にパイプ持ってるとは思ってたけど、まさかユエルが世話になってる人だったとは…………短慮で斬らなくて本当によかったぜ!!


「まぁ、とにかくユエルに引く気はないってことはわかった」


「ロイさんは、なぜ王国についたのですか?」


「俺もいろいろあるんだよ」


「…………帝国は、よい国だと思います。あれだけの戦力を保ちながら、街も栄えていました。

 統治者が優れていなければ、あのようにはならないでしょう」


「かもな。国力で言えば王国よりも上だろうよ」


「だから、それなら…………」


 ユエルの歯切れが悪い。今日はユエルの珍しいところがよく出るようだ。


 ……あぁ、そうか。

 俺は勘違いしてたのかもしれない。

 ユエルの奴、スヴェンの旦那の件があるから帝国に黙って従ってるのかと思ってたけど、それだけってわけでもなかったのか。


「ユエル、お前そういえば、会ってたんだよな。帝国の皇帝陛下に」


「……はい」


「俺が会ったのは相当昔だけど、相変わらず聖人みたいな人だったか?」


「そう、かもしれません」


 あぁそうだ、思い出せばわかることじゃねぇか。

 ……十年以上前に陛下に謁見したとき、俺だってそうなってもおかしくなかった。

 皇帝陛下も皇后様も慈愛に溢れた方で、でも必要な厳しさも持ち合わせていて。

 陛下なんて、政治力も軍事力も確かで、半ば神様みたいな人だ。あの人だからこそ、帝国は繁栄しているんだ。

 あのときの俺も思ったもんだ。皇帝陛下がここら一帯を治めれば、もっと平和になるんじゃないかって。

 結局、ゾギマスとそりが合わなかったから帝国に直接関わることもなくなったけど、それがなかったらどうなってたかはわかんねぇな……。


「なるほど。おとなしくユエルが退いてくれそうにねぇってことはわかったよ」


「……ロイさんも、ですよね?」


「まぁな」


 小さくため息を吐いて、俺は剣を構えた。

 ユエルは、すでに中段に構えていた。最初に俺が教えた、もっとも基本的な構えだった。

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