第47話 勇者と王女
ユエルとジュリエッタが斬り結ぶ。
互いに攻防が逆転することはあるものの、致命傷は双方とも受けずにいた。
「くくく、聞いていたとおりだな!
勇者! お前! 確かにお前は最強を名乗るに相応しいかもしれん!
支援魔法を受けただけで、こうも強くなるとはな!!」
「あなたも支援魔法を受けますか?
その程度の時間でしたら待ちますよ」
「はっ! 必要ない!!
妾がお前と同じ支援魔法をかけられたところで、大した違いはないからな!!」
ジュリエッタが下からすくい上げるような不意の一撃を狙う。
ユエルは動揺することなく剣を振るい右へと弾き、そのまま横斬を放つが、ジュリエッタに防がれる。
剣を合わせたまま双方ひかずに、鍔迫り合いとなった。
一秒、二秒と経つごとに、徐々に変化が生じる。
「……単純な力比べで妾が負けるとはな。
本当に大した女だ、お前は」
ユエルの力に押され、ジュリエッタの足が地面を擦っていた。
「あなたこそ、今の私にまともに対抗できるなんて驚嘆に値します」
「お前に褒められてもまったく嬉しくないな」
「では、誰に褒められれば嬉しいのですか? ロイさんですか?」
「な、何を言うか!?」
「ロイさんが、他人と共に戦うなんてあまりありません。
あの人は普段はいい加減な人ですが、こと戦いに関してはとても厳しい考えをしています。
力不足の人や、足でまといになるような人と共に戦うような人ではありません」
「……やけに断言するではないか?」
「そのくらいはわかります。四六時中、共にいた時期がありましたから。
だから、帝国幹部を次々と倒していったというのがあなたたち二人であるのならば、あなたがあの人にとても信頼されているということは自明です」
「それがどうかしたか。何が言いたい?」
「……別になんでもありません。
ただ事実を述べただけです」
「ふん、ロイから聞いていた話とは違うな。
お前はもっと他人に興味がないような奴だと思っていたが、そうでもないようだ」
「悪いですか?」
「いいや。孤高の勇者などというつまらん人間よりは、よほど面白いな」
ニヤリと笑うジュリエッタに、ユエルは一瞬ロイの顔が重なった。
(…………ロイさんが彼女を仲間にするはずですね。
すごく気が合いそうです)
ユエルは息を止めて、さらに圧力をかける。
ずるずると押されるジュリエッタは力比べを断念し、ユエルからかけられる力を利用しながら後方へと跳んだ。
その行動をユエルは予想していたが、追撃はすることなくその場にとどまっている。
互いに間合いを取ったまま剣を構え、真っ向から相手を見据えた。
「妾はな、お前が気に食わん。
帝国になど味方して、王国に害するなどもっての外だ。たとえ、どのような理由があろうとな」
「そうですか」
「ついでにだが、とあることがうまくいかなかった理由も少しは関係している」
「とあること?」
「あとは、そうだな。
最強を目指すならば、お前は絶対に倒さなければ話にならんからな」
「…………そうですか」
「くくく。涼しい顔をしているように見えて、存外お前はわかりやすいな。
お前も妾が気に食わないようだ」
「……否定はしません。
もう少し話をしたい気持ちもありますが、あいにくゆっくりしている場合でもありません。
そろそろ終わりにしたいと思います」
ユエルから、並みの人間であれば身震いするような気迫が放たれる。
ジュリエッタは柄を握る手に力が入った瞬間、
「行きます」
矢のように疾走するユエルが、あっという間にジュリエッタとの距離をゼロにした。
「獅子連斬」
「ぬぐッ!?」
閃光のようなユエルの三連撃が、ジュリエッタの胸部を切り裂く。
(だめ、まだ浅い)
ユエルは続けて斬撃を放とうとして振りかぶる。
その途中、ジュリエッタと目が合い違和感を覚えた。
(力強い目……もしかして、今のは誘い? しまった!?)
ユエルが悪寒を覚えたのと、ジュリエッタが息を吐いたのは同時だった。
「獅子連斬!!」
ジュリエッタによる三連撃の直後、赤い霧が舞った。




