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第43話 遊撃戦

 ゲノブル平原。

 王国領ではあるものの、帝国側から容易に進軍できる平原であり、過去幾度も軍の衝突があった場所である。


 斥候の報告は正確だった。

 王国軍5万に対して、帝国軍は8万の兵士。帝国軍と時を同じくして、王国軍は陣形を組んでいく。


 やがて、どちからともなく相手の軍に向かって前進を始める隊が現れる。

 波紋にも似た人の動きはいつの間にか大波へと変化し、結果、大勢の兵士たちがぶつかり合う。


 戦いが始まった。


「…………さて、そろそろ俺たちも動くかね」


「うむ。……しかし、そなたのそれ、本当になんとかならんのか?」


「うん?」


「その気の抜けた面のことだ。視界に入ると緊張感が消えていくようだ」


「そうはいってもなぁ」


 俺は帝国の怪しげなおっさんから買った、レッドドラゴンの骨素材のほげーっとした面を装備していた。防御力も確かだが、それよりも顔を隠す目的で面をしていた。

 もしゾギマスが戦場に来ているなら、なるべく俺がいることを知られたくないんだよね。

 別動隊でも用意されてて、スヴェンの旦那や家族をたてにとられても嫌だし。


「……わかった。我慢する。そろそろ仕掛けるぞ」


 エッタの合図に無言でうなずく。

 左方で兵士たちが衝突したのを見届けて、俺たちは無人の平原を疾走する。

 まだ待機中の帝国軍の左陣に、俺たちは大回りをして横から突っ込んでいく。


 平原ゆえに遮るものは何もない。当然ながら、帝国兵は俺とエッタの動きに気づいていた。

 たった二人が何千という隊に突っ込んできたからといって、どうというものでもない。

 まだ帝国軍と数百メートル以上も離れたところで、十数名の帝国兵がパラパラと隊を離れて、俺たちの方へと向かってきた。

 向かってくる帝国兵はすでに抜剣していて、部隊として動いている様子はあるものの、想定外の敵に困惑しているような迷いが垣間見えた。


「この程度の数で止められると思われているとは、わらわたちも舐められたものだな」


「妥当な対処だろ。俺が隊長なら、大軍を相手に何しに来たんだこいつらって思うよ」


「ではその判断が間違いであったと、その身に刻んでやるとしよう!」


 エッタが帝国兵へと突っ込み、こちらへと向かってきていた帝国兵に肉薄する。

 ここに至って帝国兵たちも、わけのわからん相手というよりは、敵が来たのだと明確に認識できたらしい。


「貴様等! 王国の者か!? 止まれ!! 止まらんかぁ!!」


 突出していた兵の一人が、エッタに向かって剣を振り下ろす。


「遅い!」


 エッタも横薙ぎに剣を振るうと、鉄のひしゃげる音が響いて帝国兵の剣がバラバラに砕けた。

 

「…………は?」


 エッタと交錯した兵が足を止める。

 砕け散った自分の剣を見たまま激しく困惑している様子だった。


「ほいっ」


 疑問符を浮かべたままの兵士に向かって、俺は飛び蹴りを入れる。

 綺麗に顔面に決まって吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がっていく。打ちどころが悪ければ死んでいそうだが、そのときは運がなかったものとして諦めてもらう他ない。


 前方では、すでにエッタが帝国兵を次々と斬り捨てまくっていた。


「な、なんなんだお前はぁ!?」


 周りの兵士と比べて、少しばかり良質な装備をしている男が動揺した声をあげる。

 おそらく、こいつが分隊の長だろう。


「ふっ! 妾はハイデルベルグ王国第一……」 


「しがない傭兵さんですよっと」


 エッタの脇を抜けて接近した俺に、男が慌てて袈裟斬りに剣を振るう。俺は身を沈めて躱し、すれ違いざまに掌底を顎に直撃させた。

 ぶっ倒れる男を横目に、俺とエッタは再度走り始める。


「むぅ、今のは妾の獲物であったのに……」


「っていうか、何であなた様は普通に名乗ろうとしているんですかね」


「はっ!? しまった、つい……」


「つい、じゃないがな」


 ぽかっとエッタの頭を叩くと、抗議の目を向けてきた。

 が、自分が失敗しかけたことは痛感しているのか、文句はない。


 さすがにこんな状況で、第一王女を名乗るのは勘弁していただきたいですよ。

 なにせ、これからアホみたいな人数を相手に立ち回らなきゃいけないんだからな。無駄に注目度をあげたくはないんですよね。


 帝国軍の第一陣を、ゴリ押しでぶっ倒した成果は如実に表れていた。

 慌てた様子で隊列を組んでいた兵士たちが、わらわらとこちらへ向かって突っ込んでくる。

 数は数十を超えていそうだが、組織としての動きではなかった。


 俺とエッタは肩を並べて、次々と迫り来る帝国兵を斬り捨てていく。

 なんかこのまま帝国軍を全滅させられそうな気もするけど、さすがにそこまで体力も集中力も持たないだろう。

 だから余裕がある内に、せいぜいかき回すとしよう。


「…………いたぞ、ロイ!! あいつだ!!」


 エッタの視線を追うと、精鋭っぽい兵の先に、他とは明らかに装備の質が異なる男の姿があった。

 大当り、あいつがこの部隊を率いる将だろう。


「何だお前たちは!? というか、なんだそのふざけた面は!?」


「くはははははは!!! 妾たちはしがない傭兵だ!!!」

 

 精兵の連中と次々と斬り結びながら、なぜか自信満々に答えるエッタ。

 シュールな構図に思わず苦笑しつつ、俺は剣技を発動させた。


飛燕烈天駆(ひえんれってんく)!!」


 白き光を纏って、数人の兵士を吹き飛ばしながら強引に一直線に突っ込む。

 エッタがこじ空けた陣形の穴を突いて、俺は将へと肉薄した。


「このぉッ!!!」


 なかなか鋭い突きを連続で繰り出してくる。俺は一旦間合いの外まで距離を取って息を整える。

 さすがは軍事に重きを置いた帝国の将だ、お飾りではなさそうだね。

 時間があれば、帝国式の剣を堪能してみたいところではあるけど……、


「……ぐぁッ!?」


「すまんね。ちょいと先を急ぐんで、ご退場願うよ」


 距離を詰めてからの俺の連撃を受けきれず、帝国の将は倒れ伏した。

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